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十八話 『ルート③』

 とある五月二十日、早朝。


 ガサガサガサッ、ガサガサガサッ。


「目覚めなさい。世界を救う救世主、タレム。……目覚めるのです」


 紅い瞳を発光させるマリカは、ベッドで眠るタレムを起こそうとしていた。

 ……が、当然、


「あと、五分~~っっ~っ」

「……」


 寝起きに弱いタレムが、何時のものように、グズるが。

 結婚、五ヶ月目のマリカは、焦ることも、怒るともなく、ゆっくりっと……


「このワタシが! 起きなさいって、言っているでしょうがぁぁぁ‼」


 ドガラバラランッ!


 ……否。

 勢い良く、タレムが寝ているベッドを真上に蹴り上げた。


「うおっ⁉ ウオオオオオオオオオオオオオオオオオっ⁉」


 ベッドごと、空中に舞い上がったタレムが、悲鳴を上げながら覚醒し、再び、ベッドごと着地。

 そして、


「何⁉ 何⁉ 何⁉ いつになく、荒々しいよ! マリカちゃん! 俺は優しいマリカちゃんの方が好きなのにっ」


 と、動転するタレムに、赤目のマリカは、女神の様に微笑んで、


「いえ。ですから、ワタシは愛と美の女神。イシュタル……って、はぁ。一から説明するのは、面倒ですねぇ~。先ずは思い出して貰いましょうか?」

「……あん? 何いってるの? マリカちゃん。頭、大丈夫?」

「ふふふ……」


 ――超っ☆ 女神★ ぱわぁぁぁぁ~~っ、ぱんちっ♪


 どっすんっ!


「ぐふうぅぅぅっ⁉」


 強烈な正拳突きを、タレムの鳩尾に叩き込んだのであった。

 ……しかも、じゃれあいレベルの一撃なく、全身の骨に響き渡る重い一撃。


「なっ……にを……。マリカちゃん……ぐふぅ」

「あらら? この身体、華奢なようでいて、潜在能力は凄まじく高いのですね。やり過ぎました。てへへっ。流石は、ワタシを卸せる逸材ですっl」


 超っ☆ 女神★ ぱわぁぁぁぁ~~っ、ぱんちっ♪ に、沈むタレムを見て、マリカは、悪びれる様子もなく、クスクスと笑って、調子の良いこと言っていたが、


 ――でも。……と。


 直ぐに、紅く光る瞳を細めて、真剣な顔付きでタレムを見つめた。


「うっ!」


 どくんっ。


 その視線の先で、タレムは、血流が、脈動し、


「うっ! アッアッァッァッ……ぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――っ!」


 頭を抑えて、絶叫を上げた。


「思い。出せたでしょう? アナタの大切なモノを」


 ――流れ込む。流れ込む。タレムの脳に流れ込む。記憶の激流が。

 ……思い出す。思い出す。タレムが辿ってきた、運命の道筋を。


 それは、五月二十日のことだった。

 マリカに起こされ、教会へ行き、山に登り、儀式を行い、そして――


「ぅあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――ッ!」

「ん? あらら?」


 そう、そして、再び五月二十日に戻り、同じ時間を繰り返す。

 変わらぬ日常を、変わらぬ悲劇を、果てしない虚無感を……タレムは思い出す。


「少し……思い出させ過ぎて、しまいましたかねぇ? まぁ、調整とか面倒なので」


 何度も、何度も、繰り返す、絶望の五月二十日を繰り返す。


「女神をコケにした神罰だとでも思って、我慢して、追憶してくださいね?」


 何度も、何度も、繰り返された、マリカの死が再生される。


「一万回、繰り返したこの世の終演を」


 その時の悲しみを思い出す。


「ぐうああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――っ!」


 それは、タレムの精神を焼き、気を病ませるが、

 それでも、繰り返される、止まらない。五月二十日と言う絶望は。


「――あああっ! ハァハァハァ……っ」


 声が渇れても尚、叫び続けていたタレムが、最後の一回。

 唯一、《祝福の儀礼》を受けなかった五月二十日を思いだし、想像を絶する過酷な追憶は終わりを迎えた。


「おや? 精神が焼き切れて、灰人と化してもおかしくないと思っていましたが、記憶の暴風を耐えきったようですね」

「……」

「まぁ。例え、そうなっていたとしても、また、リセットすれば良かっただけなのですが」


 恐ろしい事を、さらっと言うイシュタルに、タレムは――


 ――のそり。


 と、起き上がって、重厚な視線を向ける。

 ……そこに、今までの、ふざけた色合いはない。

 そして、


「もしかして、お、怒りましたか? 確かに少々、やり過ぎましたが――」

「マリカっ!」

「――ひぃぃっ? ご勘弁をっっ! ワタシ、荒事は専門外の女神ですからぁぁ~~……」


 ――ぎゅっ。


 その全身でもって、イシュタルの身体を抱き締めていた。

 いとおしい、いとおしい、マリカの身体を。


「マリカちゃんっ! マリカちゃんっ! マリカちゃんっ! よかった……生きてたんだね。よかった……ほんとに良かった」

「……あれ?」

「なんか、悪夢を見ちゃったよ……マリカちゃんが死ぬ、悪夢を……さ」

「いえ……あの、だから、悪夢ではないですし、そもそもワタシ、マリカでは無いのですが……?」

「……」

「あの~~?」

「……。マリカちゃあああああんっ!」

「ちょっ! いい加減にしてくださいよっ! もうっ! どう説明すればわかって貰えるんですかーー!」


 全く話を聞かないタレムに、イシュタルは涙目になって叫ぶが、のちに気がつく。

 ……まだ、なんの説明をしていなかった。と言うことに。(続く)

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