二十一話 『仲直りするだけ』
逢魔が時。
タレムが馬小屋に帰宅すると……
紅いセミロングの美少女が、扉の前で立ち尽くしていた。
……その姿は何処か哀しい。
「マリカ……来てくれたんだね。よかった……」
「タレム様……」
安堵の息を吐きながらタレムが言って、
……ゆっくりと。
「マリカ。……俺、君に言いたいことがあるんだよ」
ゆっくりと、マリカに近づいて、直前で立ち止まる。
ここからが、マリカを落とす正念場だ。
「……聞いてくれる?」
「嫌でござまいす」
しかし、マリカはタレムに勝負を挑ませてすらくれなかった。
だが、そういう可能性になることは、タレムも何となく察することが出来ていた。
……もうマリカとのハーレムは成らないかも知れない――
「……やっぱり。俺のことなんか嫌いになったんだよね」
「そうではございません」
「っ!」
――そう思ったタレムに掛かる絶望の暗闇。
その絶望を晴らすが如くきっぱりと、マリカは否定。
そして、
「私が聞かないのは、タレム様の裏で糸を引く雌の言葉でございます」
「――ッ!」
タレムは一瞬、息を呑んでしまったことに激しく後悔した。
それは肯定したようなものなのだ。
「ふふっ……。やはり……そうでございましたか。タレム様があんなことおっしゃる訳がないと思っておりました」
「……」
マリカは聖母の如く微笑んで、タレムの瞳を力強く見つめている。
「お願いでございます。どうかタレム様がタレム様の言葉で、お話しくださいませ」
「……」
「私は、タレム様の言葉なら、聞く心構えを持っておりますので……どうか」
「……」
「どうか!」
タレムは瞳をつぶり数秒沈黙。
(俺の言葉か……)
何かに思いを馳せてから、
「分かったよ」
「はい」
覚悟を決めて目を開いた。
目の前にいる神々しい美しさをもつ少女を見つめる。
「俺は……マリカちゃんが綺麗だと思う」
「……っ。続きを」
「本当に綺麗だと思う。馬鹿だけど世界一美しいと思っている」
「~~♪ 続きを!」
「だからこそ……君を俺の妻にしたい」
「続きを!」
「君は俺の妻になって貰いたい……」
「……続きを!!」
「……」
ここで一旦、一息入れて……
マリカが何を聞きたがっているのかを考える。
……正直、続きと言われてもそんなもの用意なんてしていない。
「……マリカちゃんが欲しい」
「……」
「マリカちゃんが大好きだ」
「……」
「マリカちゃんをハーレムにしたい!」
「……」
「マリカちゃんに嫌われたくない!!」
だからこそ、タレムの本心はそこに出る。
「マリカちゃん……昨日は……昨日は変なこと言ってごめんね。許してよ……嫌いにならないで」
そして、そんな言葉こそが、マリカは聞きたかった。
「ふふふっ。はい……許します」
ぎゅっ……
マリカがタレムを抱きしめて、タレムもマリカを抱きしめる。
互いの気持ちは今が絶頂。
――タレムが動くなら今しかない。
「マリカ!」
「……タレム様。鼻息が荒くなっておりますよ? 焦らないでくださいまし」
「うぐっ」
「それから……ハーレムは絶対に嫌でございますので」
「あぐぅ!?」
「では、何でしょうか? タレム様。何なりとお申しつけくださいませ」
「……何でもないよ」
「それでよろしいのでございますか?」
「じゃあ……もう少し、このまま抱かせてよ」
「ふふふ♪ はい。どうぞご堪能遊んでくださいまし」
この時の事をタレムは後から振り返り、
――ああっ。マリカちゃん……最高! やっぱり、絶対にハーレムに入れなければ!
と、悶々するのであった。




