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九話 『山登りの試練』

 ――太陽が真上に輝いている。


 標高は遂に三千を越え、岩肌ばかりが目立つようになってきた。

 ……が、登頂を考えれば、いまはまだ、中腹を少し越えた辺りである。


「ぜぇぇぇっはぁぁぁぁっぜぇぇぇぇぇっはぁぁぁぁぁっ」


 斜度がキツく、足場も悪い山道に、薄い空気は、ただそれだけで、人間の体力を奪い取る。

 ……が、


「タレムさまっ。タレム様っ。見てください。ほら、雲がこんなに近くにありますよ? もう少し行けば見下ろせますね。ふふ」


 神官服に特別な加護を宿しているマリカは、汗一つ欠く事もなく、高い標高の世界を満喫していた……。

 そして、登り始めた時は大勢いた修道士たちからは、姿も見えないほど離されてしまった。


「くぅぅっ! やっぱり、くるんじゃなかったぜ! 苦痛しかねぇ!」


(そういえば、あの神子も苦痛をけたければ、山には登るな。みたいな事を、言ってたっけっ?)


 ……今からでも、山を降りようかな?


 と、思い、前を行く、マリカを見ると、

 ……地面に絨毯のようなもの敷いていた。


「マリカちゃん⁉」


 マリカは、手近な石を四隅に置くと、絨毯の上で、手に携えていた布包みを開き、中から四段に重なる箱を取り出して、


「お疲れなら。お昼食に致しませんか?」


 ――そう言った。


(お弁当、持ってきてたのかよ……。いや、それより、その絨毯どこから出したし!)

 

 とにかく、疲労困憊だったタレムは、休めるのならば、何でも構わない! と、その休憩を受け入れた。


 ――三十分後。


 お弁当を完食し終え、肩に寄りかかって甘えてくるマリカを支えながら、タレムは、余韻に浸っていた。

 ……幸せだ。こんな時間が一生続けばいい。


「でも、このままじゃ。間に合わないよね……」

「ふふ、どうでしょうかね」

「やっぱり、マリカちゃん一人で――」


 ――登った方が良いよ。


 と、タレムが言おうとしたとき。


「――タレムさまも、この人事に裏が有ると思いますか?」

「――っ!」

「アイリスさんの言葉、今になって意味が解ってまいりました」

「……」


 聖堂でアイリスと会った後、余計な心配をさせないように、マリカの問いをタレムは適当に流したが……

 それを無邪気に信じるほど、マリカも無能と言うわけではなかった。

 ……あの意味深な言葉がしっかりと胸に突き刺さっていたのだ。


(くそっ、アイリスちゃんの性悪っ! 絶対、わざと気づかせるように、言ったんだ)


「だとしたらそれは。どんな理由があるのでしょうか?」

「それは……っ」


 そこは、本当にわからない。

 現状……可能性だけなら、枚挙に暇がないほどあげられるが、

 そこから先の真実を導き出す材料が、圧倒的に不足している。


「私の昇格で利を得る存在。もしかすると、タレムさまの足を引っ張ることになりますか?」

「そんなことはないっ!」

「とも言い切れないから、この大事な時期に着いてきてくださったのでしょう?」

「……っ」


 タレムは答えられず、マリカを不安にさせてしまうことが歯がゆく、拳を固く握りしめた。

 ……しかし、


「なんにせよ……」


 マリカは、そんなタレムの手を取って、


「わたしはそれでも、上級修道女になりたいのでございます。……絶対に」


 ――それは何故だと思いますか?


 ……そう言った。

 ……心当たりは、特にない。


「もし? お母様のような立派な修道女になればタレムさまが好きになってくれる。約束、お忘れでしょうか?」

「あっ!」


 それは、マリカが修道女になろうと決めた最初の理由。最初の目的。

 だから、マリカは一秒でも早く、母のような修道女になりたかった。

 タレムが理想とする淑女レディーになる。その為に、どんな小さな機会も逃したくはない。


「いやいや……もう、好きになってるって」

「もっとです」

「あん?」

「もっと好きになってもらいます。もっともっともっとっ! わたしを好きになって頂きたいのです。それに……タレムさまは権力者が、お好きなのでしょう?」

「そんなことは……」


 ――ない!


 ……と。言いたかったが、よくよく、今までのハーレム候補に決めた女の子たちを思い返してみれば、


 シャルル・アルザリア・シャルロット(第一王女)

 アンリエット・アルカナ・アルザリア(第二王女)

 シルム・ハークア・フィースラリア (第一皇女)

 アイリス・クラネット       (公爵令嬢)

 マリカ・グレイシス        (公爵令嬢)

 クラリス・アルタイル       (公爵令嬢)

 

 リン・ハットリ(謎)

 ロッテ(元奴隷・魔女)


 ……確かに権力者ばかりであった。

 特に、シャルル。アンリエット。シルムの三美姫は、本来、話すことすら、おこがましい、本物のロイヤルプリンセス。


(いやいや、違うし、俺のハーレムの基準は可憐さ。だからっ! 権力者じゃなくても可愛ければ良いんだし! たまたま、出会いが上に重なっただけだし! けして権力が好きなだけの最低男な訳じゃないやい!)


 ……とっちにしても最低です。By クラリス。


(ちがぁぁぁぁぁぁっぁっっっっっっっう!!)


 ――こほんっ。


 なぜか勝手に混乱しているタレムに、マリカは咳を一つして、機を設け。


「だから……だからでございますよ?」

「あん?」

「タレムさまと、一緒におられるこのときを、私が無下にすると思いますか?」


 ――いいえ。絶対にいたしません。


 マリカはハッキリと、そう言いきった。


「もし、私のためにタレムさまが山を降りてしまうと仰せなら、私も山を降りましょう」

「おいおい……」


 ――だから、一緒に参りましょう、ね?


 つまるところ結局。マリカはこれが言いたかっただけである。

 話の裏に誰の思惑が在ろうと、どんな結果を産んでいようと、


 ……タレムと要られればそれでいい。


 タレムと一緒に試練を受け、失敗したとしても、些細なこと。

 どんな時でも、恋に生きる。


 ――命短き恋せよ乙女。


 それが、マリカの至言であり、生き方なのである。


「解ったよ……」


 マリカは一度、決めたら曲がらない。

 それを、タレムは骨身に染みるほど知っていた。


 ここで、ギブアップしたら、マリカは一切の悔いもなく、山を降り、上級修道女を諦めるだろう。

 ……だが、


(これってもう、マリカちゃんに夢を諦めさせるかそうじゃないかって選択だよね。……なら)


「登るっ! 登るよ! 登るって! なんとしてもっ!」


 ――それでは、タレムが後悔する。

 ……絶対に後悔するという確信がある。


「さっ! 休憩、終わりだ。此処からは飛ばすよ! 俺の背中に乗りな(決め顔)」

「ふふ。はい。参りましょう。でも、ずるになるので自分で歩きます(ようやく。その気になっていただけましたか……これで間に合いそうです)」

 

 ……数時間後。

 タレムとマリカは、大幅な遅れを取り戻し、見事に制限時間ギリギリで、頂上の神殿に辿りついたのであった。(山登り編終了!)

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