二十話 『ただ妹にスベテ任せるだけ』
そして今日、再びアルザリア帝国学院騎士科に新たな歴史が刻まれた。
それは順位戦第百一節の事。
ついに史上の初! 百一連敗!! を成し遂げた者が現れたのである。
「兄さん……もう、辞めましょうよ。私、兄さんが傷つくのこれ以上見たくありません」
「うぅ~っ」
で、帝国を少しだけ震撼させた男、タレム・アルタイルは負傷し、またまた医療科棟に放り込まれ……
「もう、ゴミ屑みたいな夢なんて諦めて、騎士になんて成らず、ずっと私の側にいてください」
「あぁぁ……」
例如く、そこで働く妹、クラリスの治療を受けていた。
クラリスは喋れないほどボロボロになったタレムを、魔法、《再生光》の光で手厚く再生させながら、タレムの胴体を支えるように抱きしめている。
「兄さんは、私の兄さんなんです。偉大な事をする必要も、特別なことをする必要もないんです。私だけの兄さんなんです。私の前で頑張る必要なんてないんですよ? ありのままの兄さんで良いんですよ?」
「クラリス……っ」
クラリスの治療が効き、動けるようになったタレムは、優しい事を言ってくれる妹の身体を抱きしめた。
……物心着いた頃から嗅いできたクラリスの香は、何時も甘く静謐で心を落ち着かせるものがある。
「兄さんはもう。何もしなくて良いんですよ? 何一つしないで良いんです。私の側にいてくれるだけで良いんです。……私に甘えていれば良いんですよ。――私にオボレテシマエバイインデス。ニイサンのカワリにワタシがスベテシマスカラ……スベテシマスカラ……スベテワタシに……兄さんの身も心も時間もスベテ! ワタシに委ねていれば凪ような快楽をシヌマデ提供しますから……スベテワタシに委ねてイインデス……イインデス……イインデス」
……何故かスベテを委ねてシマイタクなってくる。
実際、クラリスは抱き心地に関していえば、肉付きも悪くなく軟らかいため、極上の物。
永遠に抱きしめていたいとさえ思ってしまう。
「クラリス……」
「はい。なんですか? 兄さんのクラリスはここにいます」
ぎゅ~~~~っ。
苦しいと思うほど締めすぎず、それでいて肉感的な快楽を最大限、享受出来るようにクラリスはイグアスを抱きしめている。
……タレムがしてほしい事が何でも分かる。つまり、タレムが求める物を何でも提供出来のである。
だが……
「俺は……妹じゃ満足出来ないんだ!!」
「……は?」
タレムはクラリスの何もかもを超えるほど強欲であった。
それは、常人には誰にも理解出来ない欲望。
「妹とあまあまも好きだけど! 恋人や嫁とのエロエロもしたいんだ!」
「……それは、つまり、私と……っ、兄さんはっ」
「俺は――ッ! 好きな女の子を! みさかいなく! 思うがままに愛しまくりたいんだぁああああ――ッ!」
「……つまり?」
「つまり! クラリス一人じゃ、俺を満たすことなんて出来ないんだ! 絶対に!」
「……」
タレムが語り終えた頃には、クラリスの暖かった瞳が氷点下以下まで下がっていた。
クラリスは、その瞳でタレムを見つめながらスッと離れると、
「お帰りは右手からです」
ゴミを見る目でそう言ってタレムを帰らせようとする。
……冷たい。
「待って待って待って! クラリス。待って」
「……いいえ待ちません。私は忙しいのです。馬鹿で阿保な兄さんにかまけている時間はないのです」
忙しいということは本当の事でもあり、タレムもこれ以上、拘束するつもりはなかった。
だから一つだけ、
「クラリス……俺が家出をする前にした約束。あれはまだ覚えてるよね?」
「……」
「クラリス!」
「……覚えていますよ。何時だって、私は兄さんの事を待っていますので」
「……なら、良いんだよ」
クラリスと交わしたとある約束を確認して、タレムは病棟を後にするのであった。




