十八話 『終始つんつんしてるだけ』
リンとの特訓を終えたタレムが、一度、戻って汗を流そうと馬小屋に向かっていると、
「ねぇ……アンタがなんで、あの駄犬と……一緒に居るわけ?」
「っ!」
突然、背後から声を掛けられた。
(シャルとの密会を見られた!?)
心臓が跳ね上がり、魔法を発動しながら慌てて後ろを確認すると……
そこには、
「あっ……なんだ。良かった。アイリスちゃんか」
「っ!」
大樹に背中を預け、あからさまに不機嫌だと眉を吊り上げながら、腕を組んでいる姫騎士、《アイリス・クラネット》がそこにいた。
「名前を呼ぶなって言ったわよね? なに? 死ぬの?」
「ごめん……」
いきなりつんつんしているアイリスは、馬小屋しかないような雑木林にも関わらず、姫騎士の戦闘服の完全装備姿。
引き締まったアイリスの身体は、肌色の多い華やかな戦闘服で魅力が増大しているが、流石に場違いである。
「くだらない。良いから! 私の質問に答えなさい!!」
「駄犬って……」
「馬鹿なの? そんなのシャルル・アルザリア・シャルロットに決まっているでしょ? その頭を使いなさいよ。死ぬの?」
「死なないよ……そんなに俺に死んでほしいの?」
「そんなの当たり前よ! ふざけた事言わないで!」
「……ごめん」
反射的にアイリスに謝ってしまったタレムだが、何故謝る必要があったのかがわからない。
解らないのに、
「まあ、良いわ」
アイリスが許してしまった。
そして、
「アンタが誰に発情しようと構わないと思っていたけれど……あの駄犬はダメよ」
「駄犬ってシャルの事?」
「良いわね? あの駄犬とだけは馴れ合うのは辞めなさい」
アイリスは言うだけ言うと、身体を反転させ立ち去ろうしていく……
その背中に、
「ねえ! アイリスちゃん」
「……っ!」
声を掛けて、
「将来、俺のハーレムに入ってよ」
そういった。
タレムの理想のハーレムは、シャルルの計画通り、リンとの特訓で実力をつける事や、マリカをデレデレにし結婚するだけでは全然足りない。
こうして、タレムがハーレムに囲いたいと思った女の子も、同時に口説き落としていかなければいけないのだ。
「今は君の眼鏡に敵わなくても、必ず君を落とすから! 政略結婚なんかしちゃ嫌だよ? 俺、なんか君は……君だけは、俺のハーレムに入れないといけない気がするんだ」
「……」
そんなタレムの言い分を無言で聞いたアイリスは、長い薄氷色の髪をかきあげて、
「ふん。言ったでしょ? 私はアンタが世界で一番嫌いなのよ! 本当に死ねばいいのに……」
ガダダダダダンッ!
大きな氷塊で壁を造り、雑木林の奥へと姿を消してしまうのであった。




