六話 『敬遠の仲』
――こほんっ。
暫くして、タレムに可愛がられていた二人の内、金髪の王女、シャルルが解りやすく、喉を鳴らした。
一区切り……と、したのだろう。
きゃっきゃ♪ ウフフ♪ と騒ぐのやめ、ゆっくりとタレムの胸に寄りかかる。
……マリカも空気を読んで、シャルルと競うのを中止した。
「そろそろだな」
「……イチャイチャタイム終わり?」
「うむ。王宮に戻らねばならぬ」
「「……」」
名残惜しいと言うように、瞳をつぶり呟く。
そんなシャルルの肩を、タレムはそっと抱き、マリカも表情から棘をけして、なんとも言えない表情でシャルルを見た。
「ふふっ。惜しんでくれるとは、嬉しいものだの。タレム。マリカ」
「惜しんでなんかおりませんっ! さっさと消えうせてくださいませ! ……わたしは向こうに行ってますのでその間に」
口ではそういうが、二人きりで別れる時間を作ろうとしているのだろう。
……ツンデレだ。
しかし、
「まあ、待てマリカ。そんなにデレデレせずともよい」
「――っ! デレデレなんてっ」
そんなマリカの気遣いを、シャルルは止めて、
「ちょうど良い。仲良くなったついでに、二人に良いものやろう」
ニヤニヤと笑いながらそう言った。
「「良いもの?」」
「うむ。王女特権、フル活用だ」
きょとんとするタレムとマリカに、黄金の少女は堂々と頷くが、何かを持っている様子はない。
……では、何を渡すのか? それは、
「二人に家名を与えよう。二人とも家名を捨てたのだろう?」
「「――っ!」」
「それでは、貴族として格好がつかんからな」
家名。
……確かに、今回の騒動で二人とも失った物だった。
そして、これから上を目指すタレムには、なくてはならない物であり、王族・王侯である、シャルルのみが与えられる物である。
「昨日、徹夜で考えたのだからな……して、二人に与える名は……」
「「名は?」」
――ごくりっ。
タレムもマリカもこれから先、死んでも名乗ることになる名前に、緊張と期待で唾を呑む。
タレムにとっては守るべき誇りになり、マリカとっては愛する人と同じ名を名乗れる栄光だ。
「与える名は」
――にやりっ。
そこで、シャルルは悪戯するように笑い、言う。
「《シャルタレム》だ!」
「シャル……」
「タレム……さま? って! タレム様とシャル様の名前をくっつけただけではありませんかぁあああ――っ!」
これぞ、王族特権をふんだんに使った職権濫用である。
「ずるい! ずるい! ずるい! わたしの名前も入れくださいませ! これじゃ、シャル様とタレム様が結婚したみたいではございませんか!」
「ふっはははははっ! その通り、私とタレムは家名で結ばれた運命なのだ! はっははは」
「イヤァアア――っ! 拒否でございますっ! 断固拒否します! そんな偽造されたモノ、運命なんて言いません!」
「甘いわっ! 既に、《タレム・シャルタレム》、《マリカ・シャルタレム》として、家権を発行した後なのだ! いまさら、変更など、私にも出来ぬわ! ふっはははははっ!」
「卑劣っ! 卑怯。横暴。ウキィィィっ! ……タレム様。わたし、シャル様、やっぱり嫌いでございます」
言い捨て、王族相手に、キャットファイトを仕掛け様とする嫁を、タレムは抱き止めて……ついでに胸をもみもみし。
「まあまあ。良いじゃん。マリカちゃん。シャルは大体、こんな感じだよ。奇跡的に語呂も悪くないし、家名は俺達にとって必要な物だ」
「でもぉっ! これじゃ、これじゃ……名前を名乗るとき……いちいちシャル様のこの小癪な顔を思いだしてしまいます」
「……マリカ」
「……っ」
それでも暴れるマリカに、タレムは声の質を変え、
「シャルは俺の大切な人なんだ」
「……っ」
「そして、俺の夢の最後に必ず、妻にする人なんだ」
「……」
「名前を先に入籍させるくらい許してあげてよ」
「……」
言われて、マリカは、シャルルを特別扱いするタレムにムッとしたが……すぐに、
(違う。シャル様と最後に結婚するという事は……最後まで、シャル様は結婚出来ないんだっ)
好きな人と結婚出来ない気持ちは、ウィルムと政略結婚されそうになったマリカにはよくわかることだった。
だから、
「はい。解りました。これからは、胸を張って《マリカ・シャルタレム》と名乗ります。シャル様も……身内だけの時は、タレム様に妻のように接して構いませんよ?」
独占欲の強いマリカにしては、かなり譲って言った言葉である。
……が、シャルルはニヤリと笑み作り、顎を上げてマリカを見下ろし、
「ふん。言われるまでもないな。私とタレムは家名という魂で繋がるソウルブラザーなのだからな! フッハハハハハ」
「……タレム様。わたし、やっぱり。シャル様の事、嫌いでございますっ」
結局、マリカとシャルルが仲良くなることはないのであった。




