四話 『圧倒的な包容力』
二人が勝手に打ち解けている中、捨てられた猫の様な目で体育座りをしているタレムに……
「(僕は要らない子)」
「む?」
シャルルが気づき、
「ああ、すまん。すまん。タレム。ちと、忘れてしまっていたな」
「酷い……酷いよ。俺が主人公のハーレムなのに」
「ふふ、愛い愛いしく、いじけてないで。来い来い」
タレムに向かって両腕を広げた。
……白いワンピースのスカートが風でひらひらと舞っている。
「シャルぅぅ~~っ!」
「ふふっ」
そんなシャルルの優しさに、タレムはうるっとしながら、飛び付いた。
……元気が出る香りと、恋しかった人肌の温かさ。
「よいよい。先ほどは済まなかったな? 好きに愛でてよいぞ?」
そんな風に言いながら、シャルルはタレムを抱きしめ、背中をさする。
「ああ……シャルっ。良い匂い」
「ふふ、自由にしてよいぞ?」
そうして、身体の力を抜き、軽い体重をかけるシャルルの腰を、タレムは強く抱きしめる。
……しっとりと、指に食い込む白い柔肌。心が元気になる太陽の香り。とくんとくんと、鼓動する生命の音。
美しい容姿も全て合わせて、堪能し、
「シャル……」
「うむ」
短い言葉と視線で意図を交わし、口づけ。
……腰と後頭部に手を添えて、
「むっ、……んっ!」
シャルルの舌を吸い、甘い味を貪った。
……すると、
――ぽんぽん。
と、シャルルが背中を叩き、中断。
「んっ……はぁはぁっ。タレム……どうした? 今日は激しいぞ?」
「……ん? 嫌だった?」
……そんなに激しく求めた積もりはないのだが、確かに、シャルルの顔がとろんと蕩け、腰が砕けている。
(いくら、シャルでも、がっつき過ぎたか?)
と、不安になるタレムに、
「いや……よいのだが」
と、シャルルは前置きし、
「どうして、そんなに盛っておる? それではまるで、童貞の様ではないか。そち、昨晩、マリカと存分に愉しんだのだろう?」
「……ッッ!」
「それに、あれだけ苦労してモノにした妻の前だと言うことを忘れておらんか? あんまり、私だけに甘えるものではないぞ? そちのハーレムは如何なる愛情も平等に、なのだろう?」
「ぐふぅ……ッッ!!」
タレムが突かれたくないところを的確に付いたのであった。
……流石は、シャルルである。
「む? なんだ? その反応……もしや」
「……」
「……」
シャルルは、明らかに動揺するタレムから、傍らで佇むマリカをチラリと流し見る。
……と、
「……」
マリカも無言で、シャルルから視線を外した。
……それで、
「……うむ。何となく、解った。タレム。辛かっただろう? 存分に私に甘えるがよい」
「シャル~~っっ!!」
……この圧倒的な察し能力と包容力。
流石は、タレムが唯一の理解者と認める、シャルル・アルザリア・シャルロットだ。
「ふふふっ。大丈夫、妻が受け止めぬのなら、私が受け止めてやるからの? ……文句はないな? タレムの婦人」
「……ほどほどに、ならば」
「そうか、そうか。ならば、私も愉しむとしよう。勿体ないの、折角、初妻を譲ってやったと言うのにな」
「……」
「おっ? こらこら、タレム。焦る必要は無いぞ? うふふ……ふふっ、フフ……」
「あっ……タレム様……馬鹿」
こうして、タレムは普通より沢山、シャルルに甘え、普通よりも沢山、マリカの機嫌が治るのが遅れるのであった。(続く)




