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十話 『ニヤリという微笑み』

 夢を肯定されて、晴れやかな気分になっているタレム。

 一方、そんなタレムを鋭い視線で、シャルが捉えていた。


「王になって好きな女の子を好きなだけ抱く……か」


 その視線に込められた感情を、シャルが吐露するよりも先に、興奮から冷めたタレムが我に返り、


「でも、シャル。良く考えたらさ。俺、昨日、ハーレムに加えたかった女の子に拒絶されたんだよね……」


 マリカの涙を思い出していた。

 マリカは、親友の妹であり、タレムにとっては現実に引き戻される存在だった。

 その女の子がタレムを拒絶した。

 タレムの夢を拒絶した。


「その子だけじゃない。他の子も、俺の夢を否定する」


 シャルは笑われても笑わせておけば良いと言ったが、タレムからしてみればそう言うわけにもいかないのだ。

 なぜなら、


「俺が作りたいハーレムには、俺の夢を否定したその子を入れたいんだ。好きな女の子をハーレムに出来なきゃ意味はないんだよ」

「……」


 タレムは本気でマリカを自分の(モノ)にしたかった。

 マリカを口説いた時に言ったタレムの言葉に嘘は一つもなかったのだ。

 

「それに、シャル。王になるって言っても、俺は弱いんだ。最弱の二つ名、《敗北王》って呼ばれているぐらいだしね」

「……最弱? そちがか?」

「ああ……弱い。俺は普段、粋がっているけど、本当は自信がないんだよ。王どころか騎士にだってなれると思ってない。マリカちゃんだって、強い男の方が良いはずだ。でも、俺の魔法は弱いから――」


 本当に何故か、シャルの前ではタレムの本音が漏れてしまう。

 だが、それを聞いていたシャルが、


「このっ、たわけッ!」

「――ッ!」


 何を思ったか、タレムの頭にクロスチョップを打ち込んだ。


 ドブシッ!


 直撃させたが、喰らったタレムより痛そうに、手を赤く腫れている。

 シャルは腫れた手に息を吹き掛けながら、


「うだうだうだうだと、弱音を吐きおって。私が見込んだ男が、好きな女御に一度や二度振られた如きで取り乱していてどうするのだ!」

「いや、俺は本気でマリカちゃんをハーレムに――」

「それは解っておるわ!」

「――ッ!」


 シャルの声に乗った気迫で、突風が巻き起こった。

 それで、驚天動地となったタレムに、


「ふむ。良かろう。ならば、タレムよ。先ずは、そちのハーレムとやら、私が入ることを確約してやろう。裸を見て、下の剣を腫らせているのだから問題なかろう?」

「え?」


 ――ニヤリ。


 シャルが、笑いながらタレムの股間部を指差していた。

 

「それとも、傷物の身体ではだめかのう?」

「――ッ!」


 スッと、シャルが強気な微笑みを消し、ワンピースの上から腹部を摩る。

 その下にあるのは、醜く残った深い傷痕。

 シャルは、それを気にしていた。

 それに、タレムも気付き、


「い、いや! そんなことはどうでもいいよ! 確かに見目麗しさも大事だけど、シャルなら大歓迎! 大歓迎だよ!」

「おい。タレム。さりげなく、私の容姿を劣っていると言ってないか? 傷痕と胸、以外には自信が有るのだが……」 

「それは、井の中のかわず。マリカちゃんを見たら土下座したくなると思うよ?」

「む……それは一度、会うて見る必要があるな」

「あ。胸はマジで気にしないで良いよ。俺は、好きな女の子の胸なら、大きくても小さくても、無くても構わないから」


 昔、丸っとしていた時ですら、美しい片鱗があったマリカは、比べてはいけない相手。

 シャルの自賛通り、シャルはタレムが女として意識するには十分の相手であった。

 もう少し、仲良くなっていたら、間違いなく口説いていたであろう。


「……でも、シャルは俺で良いの?」

「ん? 構わんぞ。少し予定が狂うが、そこはタレムの為だからな。幾らでも帳尻を会わせよう。いや、敢えてこう言おう。私は、そちの寵愛が欲しい。そちでないとダメなのだ」

「……本当に? 俺のハーレムになるって事は、俺としか――」

「くどい!」


 シャルは吐き捨てるように言って、タレムに近付くと、


 むちゅ~~っ。


 フレンチキスで、タレムの言葉を無理矢理止めた。


「ん――ッ!」


 むちゅ~~~~っ。


 ――長い。

 

 シャルはそのまま、驚くタレムの背中を抱きしめて、唇を離すと、ニヤリと笑う。


「続きは、また今度してやるから、今は、私を信じるのだ。良いな?」


 決まった。

 シャルが、完璧にウインクまでして、覚悟の程を示した。

 ――が、



「あ……あ、ああああ――ッ! 俺の……俺の……ッ! ファーストキスがぁあああああああ――ッ!」

「……」


 肝心のタレムは、人生初めてのキスに取り乱し、暴れ回っていた。


「……嫌だったのか?」

「嫌ではないけど! 嫌ではないけど! こう言うのは、雰囲気ってのが! 雰囲気ってのが!! 初めてだったのにぃ! 初めてだったのにぃぃ!!」

「ならば、安心しろ。私も初めてだったからな!」

「……っ」


 そう言ってニヤリと笑い、親指を突き立てるシャル。

 それを受けて、ファーストキスを大事にしていたタレムは……


「……え? なら良いか」


 意外と簡単であった。


「とにかくだ。私は本気だぞ? タレムこそ私を嫁にする覚悟はあるのか? さっきも言ったが、私はやんごとなき立場だぞ?」


 シャルがすかさず話を戻し、今度は逆にタレムに問うた。


「王の寵愛に間違いはないんだろ? シャル。俺も君が欲しい。君を俺の(モノ)にしたい。君じゃないとダメなんだ」


 タレムは即答だった。


「それに、元々、俺のハーレムは俺が好きな人だけで作り上げる。そこには、奴隷も下民も平民も貴族も王族も関係ない!」

「――ッ!」

「だって、そこにいるのは全員、俺が選んで好きになった俺の嫁達(ハーレム)だけだから」

「ふっ。やはりそちは王の器だな。しかも、既に確固たる理想像があるのだから素晴らしい。私の目に狂いはないと言うことだな。ハッハッハ。流石は私だな」

「……シャルって、自分のこと大好きだよね」

「当然だ。世界で二番目に自分が好きなのだからな。ハッハッハ」

「二番目? 1番は?」

「そちだ」


 ニヤリと笑って言ったシャルに、タレムは魅力を感じてもう一度、キスをしてみたくなった。

 その感情に従い、シャルを抱きしめ、ゆっくりと唇を近づける。

 そして、


 ちゅっ。


 唇を交わした。


 急な、タレムの口づけにもシャルは嫌な顔をせずに受け止めている。

 ……ああ、初めてがシャルで良かった。

 タレムはそう思った。


 そこで、


 ザザザっ!


 突然、沸いて現れた鬼仮面が、シャルに耳打ち。


「む? すまぬ。タレム。私はそろそろ戻らねばならぬ。続きは、その時で良いな?」

「ん? ……ああ。うん。俺こそ悪い。いきなりがっついて」

「よいよい」


 機嫌良くシャルはそういって、タレムに背中を向けた。

 そのまま少し歩いたシャルが、思い出しように振り返り、


「そういえば、タレム・アルタイル。私の夫になるのだから本名を教えておこう」

「っ! 俺の家名!?」

「ふふふっ。まあ、元『大公爵』長男の名ぐらい知っておるわ」

「……っ」

「ああ、それとそちへの好意は関係ないぞ? 私は、アルザリア帝国第一王妃、《シャルラ・アルザリア・シャルロット》が第一子、《シャルル・アルザリア・シャルロット》だからな」


 シャル改めシャルルから告げられた名に、タレムは背中で滝の様に汗を流した。


(身分は関係ないって……言ったけどさ!)


 第一王妃が第一子と言うことは……


「第一王女様!?」

「タレムは特別に。今後もシャルで良いぞ?」


 その名は偽って語ることは、アルザリア帝国民には重過ぎる名前。


 つまり、シャルルは正真正銘、王位継承権を持ったプリンセスであった。


「ふふっ。そちの名が霞むほど。やんごとない立場であろう? 女王と騎士王の結婚式が楽しみだ。ハッハッハ」

「って! おい! シャル!」

「ハッハッハハッハッハ」


 タレムの呼びかけも虚しく、シャルルは王宮の方に姿を消してしまうのであった。


「というか……ポンコツ王女様。……次は、いつ会えるんだよ……」


 だから、そんなタレムの問いに答えるものは居なかった。

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