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その8


 華織の家にやってくると、紗由はリビングのソファーで、すぐにお昼寝タイムになってしまった。龍は紗由の頭を撫でた後、何も言わずにリビングを出て行った。


「あれ? 龍くん、どないしたんやろ」

「すぐに戻ると思うわ。道具を持ってくるだけだから」

 華織がそう言ってから、しばらくすると、龍は30センチ四方くらいの桐の箱と塩の袋を持って戻ってきた。

「おばあさま。これでいい?」

「ええ、いいわ。準備してちょうだい。ねえ、翔太くん。影童の様子は、その後どう?」

「なんや、さっきから急におとなしゅうなってしもうて…」

「そう…」微笑む華織。


 龍は、桐箱を開け、その中に塩を撒き入れると、バザーで涼一が買ってきた羽龍と水晶2つをリュックから取り出し、羽龍とペアではないとしたほうの水晶だけを塩の中へ深く埋めた。

「何しよるん?」

「ちょっとお昼寝しててもらうわ。これがあると、影童も落ち着かないでしょうし」うふふと笑う華織。

「うちの子が騒いどったんは、もしかして、うめた水晶のせいなんですか?」

「この水晶をくわえる羽龍の持ち主に、こっちの話していること筒抜けだった」龍が言う。

「あ。ということは、やっぱり、この羽龍は、うめた水晶の親とちゃうんやな。ぴかぴかの色が違い過ぎる思うたんや」翔太が頷く。


「うん。本当のペアは残った二つ。だけど、わざと間違って答えたんだ。後で持ち主に会ったときに、どの程度伝わってるかを確かめたいから」

「しばらくお昼寝しててね、スパイさん」龍が塩に埋めた上から、丁寧になでる華織。

「何でこの子はスパイなんかするんですか?」華織を見上げる翔太。

「この子は、発信専用というか、持ち主の思念を探れないように、フタがされてるようなので、今の時点では断言できないけど…おそらく、今行われている“命”の再編成が絡んでいるんだと思うわ」


 華織が静岡で、再度、“命”に就くことが本決まりになったのと時期を同じくして、他の地域の“命”の状況にも、ある種の動きが出てきていた。機関が“命”の配置等を、全国的に再編成しようと、見直しを始めていたのだ。

「えーと、ほんじゃあ、機関いうところが関係しとるんですか?」

「そうね。機関か、あるいは別の“命”かしら」

「その再編成のせいで、困る人たちも出てきたんだよね、おばあさま」

「どういうことですか?」

「簡単に言うと、人の多いところには“命”の数を増やすようになったの。その代わり、人の少ない地域は減らされたわけ。

 そうすると、椅子取りゲームみたいなことになるから、減らされた地域は反発するし、増えた地域は、能力値の低い“命”が任に就く可能性が高まって、全国的にもいろいろと軋轢が高まるというわけ」


「そんなもん、全国テストにして、成績ええ順に“命”さまにすれば、ええと思います」

「そうよね? でも、どうやら、それができない状況なのね、今の機関は」

「何でですか?」翔太の頭の中は、次から次へと疑問だらけになっていく。

「機関は“命”を任命することができる。“命”は未来を予測することができる。どちらも、やろうと思えば、世間の人たちを操作して、自分だけが得するように動くことができるわ。

 もちろんそういうことは、してはいけないんだけど、すれすれのところで、自分の権力を強めようとする人というのは、出てきてしまうのね。困ったものだわ」溜め息をつく華織。

「おばあさまは、そういう人たちにも、ちゃんとさせたいんだ。…危ないかもしれないけど」


「チョコ…たべる…」ソファーで昼寝をしていた紗由が、寝言を言った。

「紗由ってば、さっき、おばあさまにチョコ食べられちゃったの、よっぽど悔しかったんだね」毛布を掛けなおしながら、くすりと笑う龍。

「だって、埒が明かないんですもの」

「僕だって、クッキー食べられたの、悔しかったんだからね」むっとする龍。

「…おまえも、そんな顔するようになったのね」感情を露にする龍を見ながら、うれしそうに微笑む華織。

「でも、これからは僕ががまんするよ。やっぱり、おにいさんだから…」龍が唇をかむ。


「龍くん、ごめんな。俺が、がつーんと言うてやれ、なんて言うたから…」しょんぼりする翔太。

「あ、違うよ、翔太くん。僕ね、気持ちよかったんだ。遠慮なく、思ったことが言えて。一昨日もケンカしちゃってたけど、本当はすっきりしたんだ、そのときも。

 なんか、もういいやっていう気がして。言いたいこと言ってもいいやって気がして。…ありがとう」

「…ううん。えーと…」翔太が言葉に詰まる。

「そうよ、翔太くん。ありがとう。これからも、龍のいいお友達でいてちょうだいね」

「あ、はい」


「そうだわ、龍。あなた、我慢することなんてないわ。さっき紗由が言ってたの。おやつは、紗由とにいさまでお話して決めるから、もう食べないでって」

「紗由が?」

「そうよ。だから、明日のおやつは二人で…今回は翔太くんもいるから、三人でお話して決めてちょうだいね」微笑む華織。

「それは、あかんですわ。僕、岡埜堂のおまんじゅうが、ええですから、ちゃんと持ってきてます」キリッとした顔で華織を見上げる翔太。

「僕だって、今日食べられなかったクッキーがいい」ふてくされる龍。

「ああ、もう面倒だから、周子さんに“チョコまんじゅうクッキー”でも作ってもらってちょうだい」華織が口をとがらせる。


「それ、ええですな!」翔太が身を乗り出した。

「どんな味なんだろうね」龍もうれしそうに言う。

「どんなって…チョコとおまんじゅうとクッキーの味でしょう?」感心なさそうな華織。

「“命”さまって、もしかして、お料理あんまりしないですか?」

「え?」翔太の質問に驚く華織。

「どうしてわかるの、翔太くん」龍も驚く。

「3つの味が一緒になったら、別々のときとは違うもんになるんです。おとんの料理もそうですわ。3つの力で3倍より、おっきうなるんです」

「3つの力で3倍より大きく…」華織が繰り返す。


「あ、それより、さっき言うてはった、危ないていうのは?」

「…大切な友人が亡くなっているのよ。もしかしたら、その原因は、さっき翔太くんが言ったように、“命”の力を全国一斉テストで見ようとか、様々なことを試みたからなのかもしれないわ」

「どなたか、死んでもうたんですか?」驚く翔太。

「ええ。翔太くんも名前くらいは聞いたことがあるかもしれないわ。保ちゃんの前に外務大臣をしていた四辻さん」

「知ってます。清流にも、来てもろたことがありますさかい」

「…そうなの?」

「選挙の応援で静岡にいらはったときに、うちにお泊りになりました。僕、庭掃除してたら、頭なでてもらいましたん」うれしそうに笑う翔太。


「優しくて、正義感の強い人だったわ」少し声が小さくなる華織。

「あの…でも、そんなら“命”さまも危ななって、あかんのと違いますか。…それと、四辻先生は“命”さまやったんですか?」

「ええ、そうよ」

「ほんなら、バザーで買うた羽龍と水晶は、四辻先生のものなんですか?」

「そのようだわ。それと危険に関しては…まあ、いろいろ作戦はあるのよ。ただ困るのは、今回のスパイちゃんが、敵側なのか味方側なのかが、まだわからないということね」

「伊勢の祭祀がある期間を狙ってくるんだから、味方とは思えないけどなあ」

「ああ、そうか。そういう日は“命”さまも龍くんも力が使えへんもんな。

 でも、龍くん。もしかしたら、力が使えないときに、“命”さまや龍くんのこと守るために来てくれたのかもしれへんで」

「そうよ、龍。常に両方の解釈を頭に入れておく必要があるわ」


「あのお、ところで僕は何をしたら、ええんですか?」

「そうね。とりあえず、お願いしたいのは3つかしら。

 ひとつは、紗由となるべくコミュニケーションを密にしてほしいの。過去のことが読めるのは、あの子だけだから、スパイが送り込まれた経緯がわかるかもしれないし」

「おまかせください!」満面の笑みになる翔太。


「二つ目は、賢ちゃんの様子に注意してほしい」

「賢ちゃんですか?」首をかしげる翔太。

「ええ、そうよ。あの子は、未来を受け取ったり、思念で直接話をしたりはできないけど、小さい頃から、悪い人間を見分けるのが得意なのよ。

 だから、あの子があまりよく思わない人間には注意したほうがいいわ」

「へえ。賢ちゃん、そないな力があるんですか」


「それから最後に…周子さんの様子に注意してもらえるかしら」

「やっぱり周子はん、どうかしたんですか? 紗由ちゃんの声は聞こえなくなったんですやろ?」

「うん。声は聞こえなくなったみたい。でも、かあさま、しばらく何か変だったんだ。最近は落ち着いてるようだけど」

「…確かに、こないだも、ぼーっと考え事してて、でも、胸のぴかぴかが、ぴりぴりしてるいうか。だから、涼一はんにも言うたんです」

「涼ちゃんは何て?」

「眉毛がぴくってしとりましたから、もう、わかってるんやと思いました」

「大丈夫かな…かあさま」

「そうね。大丈夫だといいけど。何か変化があったら、教えてちょうだいね、翔太くん」

 華織はそう言って立ち上がると、じっと窓の外を見つめた。


  *  *  *


 涼一が周子と二人で夕食のための買出しに出かけていたので、その間、賢児と玲香は賢児の離れで、のんびりとテレビを見ていた。

「伯母さん、本当に翔太が気に入ってるんだなあ」賢児がコーヒーをすすりながら言う。

「ブランデー入れますか?」小瓶を差し出す玲香。

「うん。ちょっと入れる」

「翔太がよくしていただいて、ありがたいです。

 …でも、今回最初に指名されたのは龍くんと二人だけでしたよね。何かあったのかしら。あの子、最近、華織さんとは頻繁にやりとりをしてるみたいですし」

「へえ、そうなんだ。“命”と宿主の極意でも仕込んでるのかな」

「それでしたら、龍くんと翔太ではなくて、風馬さんと、うちの父にしないといけませんよね。それにうちの場合、父の次は鈴ちゃんですし」

「英才教育かな」賢児が笑う。「特殊部隊でも作る気なのかもな」

「翔太のことだから、アーミールックとか着たがって大変なことになります…」


「ああ、こんな感じの?」テレビを見ながら賢児が笑う。

「そうそう。これです。翔太も大好きなんです。この“インバーター”っていうマジシャン。何でまた、燕尾服じゃなくてアーミールックなんでしょうね」

「マジックに使う小物も全部、そっち関係の品なんだろ。その手のマニアは多いからなあ」

「決めポーズしながら、アシスタントにうんちく言うんですよね」

「龍と翔太で、うんちく部隊…」

「仁王立ちした紗由ちゃんに叱られそうですね」

「“そーゆー問題じゃないの!”ってな」

「なぜか叱られるのは涼一さんで」

「なんてお気の毒なお兄様…」

 二人は顔を見合わせて苦笑した。


  *  *  *


 翔太は翌日、清流へ帰る前、再び玲香たちと合流し、西園寺家で昼食をとった。

「ごちそーさまでした。周子はんみたく、きれいなお料理で、とってもおいしかったです」礼にも余念のない翔太。

「もう、翔太くんたら。また食べに来てね」微笑む周子。

「はい!」

 翔太は賢児の車に乗り込みドアを閉めたが、何かを思い出したのか、慌てて車の外に出て戻ってきた。

「涼一はん! これ、忘れとりました。この前、約束したものです」翔太がリュックから紙袋を出し、涼一に渡す。

「ノート?」袋の中身を確認する涼一。

「ぴかぴか日記です」翔太がにいっと笑う。「見終わったら、龍くんにも渡してください。その後は、“命”さまに」

「わかったよ。ありがとう。気をつけて帰ってね」涼一は翔太の頭をなでた。


「何なの?」

 周子が不思議そうに紙袋を見つめると、涼一はにやりと笑った。

「大事な研究資料だよ。これからデータ解析しなくちゃならない」

「ふうん。そうなの」

 何だかよくわからないという顔をしながら、周子はキッチンへ後片付けに向かった。


 涼一は自分の書斎に戻ると、ノートを丁寧に確認した。

“そうか…俺の色って、こんななんだ”

 涼一自身の絵まで描かれていたのには、正直驚きながらも嬉しく感じた。

 最近の涼一の絵は、緑と青を基調としながら、数本の濃い赤が入っており、その先がピンクになっていた。

 一番最初に清流を訪れたときのそれは、その数本の線がグレーになっており、全体の印象が暗かった。

“そうだ。あの時、翔太くんが栞をくれたんだよな。気にしてくれてたんだよな…”

 涼一は思わず微笑んだ。


 だが、涼一が今一番気になっているのは、周子のそれだった。

 風馬に再封印を頼みに行ってから、しばらくすると彼女の様子は落ち着いた。それが風馬の封印によるものなのか、彼女の変化が翔太の絵にも表れているものなら、それを自分なりに確認したい。そう思いながら、涼一はページをめくった。

 周子のそれは、全体的に強い色合いではない。色を付けた後に、白いクレヨンで上をさーっと撫でているようだ。何かムラのある雲がかかったような印象だ。

 最初から水色ではなく、青の上に白を重ねる。最初からピンクではなく、赤の上に白を重ねる。これは意味のある色づけなのか。

 涼一は疑問に思いながらも、この色は周子に似合っていると、それだけは認めざるを得なかった。さらにページをめくる涼一。


“あれ? 気のせいかな。重ねた白がきれいに均一化してる…?”

 最後のほうの、その白の違いが、涼一には妙に引っ掛かった。

 そして、龍の色合いが、華織や保のそれ並に安定度を保っていること、紗由の色合いの外側部分が、誰かそばにいる時は、その人間の色合いをコピーしたかのように同じ色になっていることに気づき、自分や賢児とは違った人種であるという印を見せられたような気がしてならなかった。


“翔太くんが絵にしているのは、清流、西園寺家、華織伯母さんの家、そういう、言わば家の中にいるときのものだ。

 紗由のぴかぴかが、もし、他者の影響を受けるのだとしたら、外部の人間といる時は、どんなふうに変化するのだろう?…それと、翔太くん自身の色は?”

 見れば見るほど、様々な興味や疑問がわいてくるこのノートを、涼一は一冊まるごとコピーして手元に保存することにした。龍や華織に渡すことになっているため、手元にそれほど長期間置くことは無理だと思ったからだ。


 そして、涼一は考えあぐねていた。

 家の中に未来を受け取る能力者がいるとしても、華織が“命”という職務から離れていた時点では、その能力が大きな問題を引き起こしていたというわけではない。

 誘拐の一件も、宿側の問題だったし、西園寺家は、普通に平和に時間を過ごしてきたのだ。

 紗由が能力を示し始めてからも、時々、凡人の自分にとっては奇妙に思えることを言うこと以外、何がどうということはなかった。

 最初は動揺してしまったが、それは別に、紗由が事件を起こしたということではない。

 あえて事件性と言うなら、賢児の部下が、紗由の予言で事故から救われたことぐらいだ。根っからの悪人も登場しなければ、誰かが大きく傷ついたわけでもない。

“だが、何だろう。この胸騒ぎは。何かが、今までと違ったように動き出している気がしてならない。伯母さんが“命に”再就任するからだろうか。そこで何かが…?”


 涼一は、そんな第6感的なことで心を揺さぶられる自分を不思議に思いながら、ノートの表紙をなでた。

“俺が感じるとしたら、よほどのことが起きるのかもしれないな…。でも、まずは決着をつけてからだ”

 涼一はスマホに手を伸ばした。


  *  *  *


 水晶の一件があったため、龍は、華織のマンションにもう2、3日いることになった。


 リビングのソファーで、龍がルービックキューブと闘っていると、キッチンから華織の鼻歌が聞こえてきた。しばらくすると、華織が3人分の紅茶を持って現れた。

「どうぞ、龍」

「おばあさま、ご機嫌だね。何かいい案が浮かんだの?」

「ええ。翔太くんが言ってたわよね。3人で3倍よりも大きい力って。

 今は、私が昔やっていたときよりも、さらに縦割りで、“命”同士、横のつながりがまったくないわ。だから、それを何とかするところから始めればいいと思うの」

「もしかして、他の“命”を仲間にするの?」

「まずは、候補者の見習いさんたちからね。まだガードが薄いと思うから」


「でも、そういう動きを機関に知られたら、すぐに潰されるんじゃないの」心配そうな龍。

「機関の人たち自体は、能力者というわけではないから、彼らが通信用に使っている伊勢の羽龍と水晶を何とかすれば、私たちの思念は読めないわ。別宮のどこかにあるはずだから、それを何とかしたいわね」

「でも、盗るわけにもいかないし…」

「じゃあ、機械でも作って、相手の水晶の送受信能力を遠隔で変えさせるか?」部屋に入ってきた躍太郎が言う。

「グランパ! そんなこと、できるの?」

「龍。方法というのは、必ずあるんだよ。それを人間が見つけられるかどうか、それだけだ」

「ねえ。涼ちゃんに手伝ってもらえば? 科学者なんだから、そういうの得意かもよ」

「そうだな。ちょっと話を聞いてみるか」

 躍太郎は涼一に電話をかけた。


  *  *  *


 涼一は、研究所からの帰り道に華織たちのところへ立ち寄った。

 どのみち、明日か明後日には龍を迎えに来ることになっていたが、躍太郎から電話をもらった件も気になったし、ちょうど翔太から預かったノートを、龍と華織に見せる必要もあったので、その日の帰りに寄る事にしたのだ。


「…というわけなんだが、どうだ、できるのか、そういうことは?」躍太郎が尋ねる。

「理論的には、相手側の水晶の思念波…になるのかな、その周波数を特定できれば、同じ周波数を流す装置を作ってジャミング、通信妨害をすることはできるよ。問題はその特定だろうな」

「うーん、特定か…」

「相手が何か思念的なアクションを起こしているところをキャッチしないと、測定しようがないからなあ。相手自体が特定できない状況じゃ、やりようがない。

 仮に相手が特定できたとして、何かに対する相対値として測定することになる。

 例えば、いろんなタイプの水晶を使った、何らかの発受信機を作って、それを使ったときに、伯母さんが感じ取ったものをデータ化するとか…まあ、地味な実験の繰り返しになるだろうけどね」


「いろんなタイプっていうのは、おっきい水晶を作ったり、すごく小さいのを作ったりするの? 

 この前、テレビでやってたよ。インバーターっていう手品の人が、水晶の玉を、あっという間に大きくしたり、粉々にしたりするんだ」少し顔を紅潮させる龍。

「ああ。そういうのも、ひとつのアプローチかもしれないな。精度の高い周波数を出すための部品には水晶ブランクと言われる、米粒よりずっと小さい水晶片が使われてる」

「それって、砂場を作って遊べる?」

「どうだろうな。さすがに、やったことないからなあ」だんだんと本題とははずれていく龍に、涼一がくすりと笑う。

「翔太くんにもらった、クズ石の砂がたくさんあるんだ。青とか、緑とか、赤とか。混ぜて遊んだら、きっと紗由が喜ぶよ」


「…混ぜる、か」涼一が少し考え込む。「ねえ、伯母さん。パワーストーンには、種類によって“位”みたいなものはあるの?」

「種類による効能というか、性格のようなものはあるわよ。でも、絶対的にこの種類の石が上ということにはならないわ。力の強さは、個々の石の質に拠るところが大きいの」

「じゃあさ、おばあさま。コミュニケーションによくない石で機械を作って、機関に置いてきちゃえば?」

「パワーストーンは、いいパワーをくれる石なのよ」諭すように言う華織。

「石同士にも相性はあるんでしょ?」涼一が聞く。

「ええ」

「だったら、元々、効果のある石だとしても、相性の悪い石同士を組み合わせる、つまり混ぜれば、何らかのマイナスは生じるわけだろ。

 結果的に、コミュニケーションによくない状態を作り出せるかもしれないよ。

 クスリだって使う量や組み合わせで副作用が出る。同じことじゃないのかな」


「確かにそうだな」躍太郎が同意する。「だが普段、華織はそんな確認のために石を使うわけじゃない。それこそデータがないよ」

「そうね。気のいい人ばかりの会社で、相性の悪い上司と部下の組み合わせを探すようなものよね」

「うーん。じゃあさ、いっそ敵のアジトに潜り込んで相手を洗脳するとか、敵に報酬を与えて買収するとかどう?」

「とうさま、悪い科学者みたいだね…」龍が難しい顔で涼一を見上げる。

「じゃあ、おまえが新しい“命”集団を立ち上げて、永田町とか霞ヶ関とか桜田門に能力者を送り込め」

「だめだよ。政教分離が決まりだよ」


「…ああ、わかった。こうなったら、みんなで神様にお願いしろ。それが一番確実だろう」龍の目をじっと見る涼一。

「やっぱり、そこに行き着くのかしらね…」

「もちろん、それをするのは大前提だ。その上で、何ができるかだよ。願い事をするからには、それに向けて努力をしている姿勢を見せるのが礼儀というものだからね」誰にともなく躍太郎が言う。


「賢児にも聞いてみれば? 悪いやつを退けるなら、あいつの右に出るものはいない。何たって、サイオンレッドだからな。敵に後ろから近づいて、ぼっこぼこにしてくれるぞ」

「その後、グリーンが説教するんだね」

 龍がにっこりと涼一を見上げると、涼一が嫌そうな顔をする。

「そうね。賢ちゃんにも聞いてみようかしら」初めて気がついたかのような口調で華織が言う。

「いや、涼一。非常に参考になったよ。ありがとう」躍太郎がにっこり笑う。「明日、風馬もこっちに来るから、今の話も参考に、もう一度よく考えてみるよ。…また、意見を聞かせてくれ」

「もちろん協力は惜しまないよ。…ところで風馬は、明日戻ったら、しばらくはこっちなの?」

「当分こっちにいるみたいだわ。個展があるから」

「そうか…。じゃあ、龍、また迎えにくるよ。…美味しいものでも作ってもらえ」龍の頭を撫でる涼一。

「…涼ちゃん、その性格直したほうがいいわ」

 料理の苦手な華織が不機嫌そうな口調で言うと、涼一はぺろっと舌を出した。

「料理上手な旦那が作れば、いいじゃないか。できないことは、できる人間にやってもらえばいいんだよ」

 涼一は龍の頭をもう一度撫でると、席を立った。


  *  *  *


 涼一が部屋を出た後、躍太郎はしばらく考えたままだった。

「どうしたの、グランパ?」

「涼一の言う通りだ。できないことは、できる人間にやらせればいい。問題は…その人間をどうやって探すか、だな」

「電波妨害をできる人間ということ? それなら簡単だわ。そうよ、機械作るより、ずっと簡単」華織がうれしそうに微笑む。

「と言うと?」

「お昼寝させている水晶の持ち主よ。あの水晶が、他の水晶の真似をできるということは、その持ち主も、他の水晶や人のオーラを真似できるはずだわ。

 羽龍の水晶の能力は、持ち主の力に依存するから。持ち主に機関の水晶のオーラを真似してもらって、電波妨害してもらえばいいわ」


「それって、妨害になるのかな。それとも盗み聞きになるの?」

「どっちだろうな。まあ、どっちにせよ、そうなると、次の問題は持ち主の特定か…。その人間に、うまく会えるかどうか。…それと、味方にできるかどうかだ」

「とりあえず、会うのはさほど難しくないと思うの。水晶を封じちゃったから、向こうは聞きたいことが聞けないわけでしょ? 何らかの動きをしてくるんじゃないかしら」

「翔太くんは、水晶のぴかぴかを覚えてるから、持ち主と会えばわかるよね。

 あのね、写真だけでも、ぴかぴかがわかるようになったらしいから、これから会う人と、いっぱい写真を撮っておいて、後で翔太くんに見てもらえばいいよ」

「じゃあ、写真は龍の役目だな」

「そうね。龍はいつもデジカメを持ち歩いて、いろんなものを撮ってるし、怪しまれないわね」

「よし。とりあえずは“待ち”だな」

 3人は、うれしそうに笑った。


  *  *  *


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