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7/19

その7


 バザーの翌日は華織が、龍と翔太に泊まりに来てもらいたいと連絡をよこしてきた。

 連休だったこともあり、翔太は一日予定を延ばして、華織の家に行くことにした。

「無理なお願いをしてごめんなさいね、翔太くん」周子が言う。

「無理なんぞあらしまへん。周子はんと、いったんお別れは寂しいですけど」周子を見上げる翔太。

「かあさま。僕たち、おばあさまが迎えに来るまで、部屋で遊んでるね」

 龍と翔太は、鉄道模型で遊ぶために龍の部屋へ行った。


「じゃあ、俺たちもそれまで、のんびりするか」

 涼一がそう言うと、紗由がキッと涼一を見上げる。

「そんなひまは、ありましぇん!」

 窓の傍まで駆けて行き、アキレス腱伸ばしを始める紗由。

「紗由のウォーミングアップが始まったわよ、涼一さん」

「あれ、おまえも幼稚園の頃、よくやってたなあ」涼一が賢児のほうを見た。

「なんか、こう、やる気湧いてくるじゃない」

「今も会議の前になさってますよね」玲香が言う。

「いまだに幼稚園児と同じ行動なんだな、“けんたん”は」

「いまだに幼稚園児と同じいじめっこレベルですね、“にいたん”は」賢児が口を尖らせる。

 周子と玲香が笑い出す。


「この前、紗由が庭の枯葉を土に埋めて水やってただろ。木になるようにって。あれ、賢児もやってたよな」

「かわいい子は、皆同じことをするんですのよ、お兄様」

「そうそう。かわいいって言えば、前に玲香さんとも話してたのよね。伯母様のブレスレットを、二人とも可愛いって言うんだって」


「呼んだあ?」紗由が駆けてきて、周子に抱きついた。

「呼んだぞぉ」周子が紗由のほっぺたを、ちょんとつつく。

 嬉しそうにきゃっきゃと笑い転げる紗由。

「紗由ちゃんは、あのブレスレットとお友達なんだよねえ」

 玲香が言うと紗由が頷いた。

「おめめの石もおともだちだよ」

「天珠か。そういえば紗由、あれ、触らせてくれなかったよなあ」

 賢児は、以前紗由が、ハンカチに包んだ天珠を抱え込んで、賢児から隠そうとしたことがあったのを思い出した。


「あぶないもん」

「危ない?」皆が不思議そうな顔で紗由を見る。

「おひるねしたいのに、みんながうるさくするから、おこりんぼさんになっちゃったんだよ」ほっぺたを膨らませる紗由。

「じゃあ、あの時、紗由があの子をなでなでしてたのは、寝かしつけてたんだな」

 賢児が聞くと紗由が答えた。

「うん。とりさんちで、ちっちゃい子とあそんだから、つかれちゃったの」

「偉いのね、紗由ちゃん。お母さんみたいだわ」玲香が微笑んだ。

「紗由。あの子は、いつも、おこりんぼさんなのか?」

 涼一が尋ねると、紗由は小さい声で囁くように答えた。

「いまは、ねてるからね。おこしちゃだめだよ」

「わかったよ。邪魔しないよ」涼一も囁くようにして、紗由に言った。


「ところで紗由、何のウォーミングアップしてたの?」

 賢児が聞くと、紗由はうってかわって大きな声ではっきりと答えた。

「でぃーぶいでぃーをみます!」

「DVD?」

 周子が首をかしげると、紗由はソファーの横のリュックから、ケースに入ったDVDを取り出した。

「これ」

 紗由が差し出すケースのラベルを読む周子。

「…糸山夫妻結婚式…糸山夫妻って、洋子先生のことかしら?」

「たぶん、そうだな。紗由、これどこにあったんだ?」

「ダンボールのおへや」

「紗由。あそこは一人で入っちゃ駄目だって言ったでしょ」

「くまさんが、いっしょだった」リュックからくまのぬいぐるみを出す紗由。

「ん、もう。くまさんじゃダメ」


「こら、紗由。ちゃんとかあさまの言うことを聞かないとだめだろ。

 …でも、懐かしいなあ。何年か前に親父が大垣さんに頼んで、いろんなビデオをDVDに移してたから、その中のひとつだろう。確か、賢児の4歳の誕生日と重なってたんだよな」

「うん。次の日もお祝いでご馳走食べに行ったの覚えてるよ」賢児が言う。

「見てみたいです…」

 興味津々の玲香の発言もあり、その場は上映会になった。


  *  *  *


 麻美は、親友の洋子が教会から出て、中庭に続くタラップを降りてくる様子を見ながら、涙ぐんだ。

「ねえ、きれいよね。あんなに綺麗なお嫁さん、見たことないわよね」保の腕をつかむ麻美。

「そうだな。…うん、本当に綺麗だ」

 その時、洋子が大声で叫んだ。「どなたか、受け取ってください!」手元のブーケを投げる洋子。


 高く宙を舞ったブーケは、なぜかビデオ撮影していた保の隣にいた賢児の手元に舞い降りた。

「あ…」受け取ったブーケを見つめる賢児。

「あら…、どうしましょう」賢児の手元を見つめて、とまどう麻美。

 一連の様子を撮影していた保も、思わず声を上げた。

「何で賢児のところに来るんだ?」

 だが賢児は、驚く父のビデオに向けてブーケを差し出すと言った。

「けんたんの、およめたん。これあげるから、はやくきてください!」


「え…?」ビデオを持つ保の手が一瞬止まる。「えーと、これはだな、だれか、他のお姉さんにあげないと、だめだぞ」

 父親の言葉に、辺りをきょろきょろと見渡す賢児。

 と、その時、賢児のその姿を見ていた、保の友人の有川が、意を決した様子で賢児の前にしゃがみこんだ。

「賢ちゃん。そのブーケ、おじさんにくれないかい? おじさん、お嫁さんになってほしい人がいるから、さっき賢ちゃんがしたみたいに、その人にブーケをあげたいんだ」

「有川…」さらに驚く保。

 だが、有川は賢児を見つめたままだ。

「…あい!」賢児がブーケを有川に差し出す。

「ありがとう、賢ちゃん」


 ブーケを受け取った有川は、賢児の頭をなでると、花嫁の友人たちが陣取っていた場所へと足早に移動した。

 その様子をビデオで撮る保。少し離れた場所なので、そこにいる人間たちの話までは聞こえなかったが、有川がある女性に何か言いながらブーケを差し出すと、女性は驚きながらも、うれしそうにそれを受け取った。周囲がどよめき、歓声が上がる。

 その様子に花嫁の洋子も、ドレスの裾を気にしながら駆け寄った。保も駆け寄る。

 麻美は、涼一と賢児の手を握り、拍手が巻き起こっているその場所まで歩き出した。

「お嫁さんが増えちゃったみたいね」

「賢児がおじさんに、やりかた教えてあげたからじゃないかなあ」涼一が、麻美の向こう側にいる賢児を覗き込む。

「…そうね。賢児のお手柄だわ!」

 涼一と賢児を交互に眺めながら、麻美が軽やかに笑った。


  *  *  *


「けんたん、可愛いですね…」半分涙目で画面を見つめる玲香。

「いやあ、本当にこの頃は可愛くてね。いつも僕の後を、にいたん、にいたんて、追い掛け回してて」

「賢ちゃんは、とうさまのこと、にいたんて呼んでたの?」紗由が聞く。

「そうだよ」涼一が紗由の頭を撫でる。

「こどもみたーい」賢児のほうをチラリと見ながら、くすりと笑う紗由。

「…子供でしたから」口を尖らせる賢児。「自分だって子供のくせに…」


「あの、“けんたん”からブーケをもらっていった方は、この前のパーティーでお会いした有川先生ですよね?」

「うん、そうだよ」

「あの時おっしゃっていた、洋子ちゃんのブーケって、これのことだったんですね」

「うん。あのブーケはね、奥さんがまだ持ってるんだって」

「けんたん、まさしくお手柄ですね」

「ねえ、涼一さん。玲香さんに別のも見せてあげたら? ほら、二人羽織やってるのとか、いろいろあったじゃない」

「みる!」

「紗由も乗り気よ」

「…じゃあ、もうちょっと見るか」涼一が席を立った。


  *  *  *


 しばらくすると涼一が、“ダンボールのお部屋”から何本かDVDを持ってきた。

 スイッチを入れると、母親の麻美と幼い兄弟の姿が再び画面に映る。


 そーっと賢児の後ろから近づく麻美。

「だーれだ」賢児の両目を後ろから覆う。

「にいたん!」

「…違うでしょう。もう」少しふくれる麻美。

「かあたん」

「当たりました」

 麻美が賢児を後ろから抱きしめると、賢児はうれしそうに声を上げた。

 そして、その腕をすり抜け、正面にいる涼一の前に座ると、自分の両手を涼一の顔に差し出し、涼一の目を覆った。

「だーれだ」

「わかんないや」

 涼一がわざと知らないふりをすると、賢児は手をどけて、泣きそうな顔をした。

「けんたんだよ!」

 涼一は賢児を抱き上げて自分のひざに座らせ、麻美がしたのと同じように、賢児を後ろからぎゅっと抱きしめた。

「しょうがないなあ、賢児は」

 さらに麻美が、涼一の後ろから、二人をまとめて抱きしめる。

「ほーんと、しょうがない子たちねえ」

 麻美は幸せそうな顔で、涼一にもたれかかった。


  *  *  *


「お義母さま、とっても幸せそう」周子が涙ぐむ。

「涼一さんと賢児さまが、今でもとっても仲良しだから、きっと天国でもお幸せな思いで、ご覧になってるでしょうね」玲香の目も潤んでいる。

「天国のおかあさま。どうか僕をいじわるな“にいたん”から守ってね…」

 賢児が両手を合わせて上を見上げる。

「子供みたーい」

 涼一が紗由の真似をして、からかうと、賢児が途端に悔しそうな顔をする。


「でも、見ているだけで本当に和みますね。西園寺家のご兄弟って、どのペアも仲がよろしいですよね…先生と華織さんも、龍くんと紗由ちゃんも」

「一組、例外がいたようだけどね」涼一が言う。

「そうですね…例外ですね。前社長と常務も、とても仲がよろしかったって、同僚が言ってましたし、そんなご両親を見て育っているのに、何だか、すごく不思議というか」

「そうなのよね…。風馬さんから、天馬さんとの確執なんて、一度も聞いたことなかったし、確かに不思議だわ」周子が言う。


「実は、仲良しのツンデレ兄弟だったりして」

 賢児が言うと、玲香が笑い出した。

「それじゃ、まるで涼一さんと賢児さまじゃないですか」

 玲香の言葉に、周子も大きく頷きながら笑う。

「最近、玲香がどんどん“にいたん化”してる…」口を尖らせる賢児。

「賢ちゃんは、相手が玲香さんだと、ツンデレじゃなくて、ただのデレデレでしょう」周子が笑う。

「天国のおかあさま。僕の周囲は“にいたん”だらけです…」

 

 笑いあう3人の傍らで、涼一は一人難しい顔をしたままだった。

「どうしたの、兄貴。真面目な顔しちゃって」

「うん?…ああ。可愛い弟を守るために、兄は何をすべきかと考えていたところでございますよ、けんたん」いつもの不遜な笑いに戻る涼一。

「へえ。何をしてくださいますの? おにいさま」

「兄は悪いヤツの振りをして、弟が良いヤツに見えるように…とかね」

 そう言うと涼一は、胸ポケットのボールペンを取り出し、くるくると回した。


  *  *  *


「神様から見ると、世界ってこんななのかな。すごーく小さくて、壊そうと思えば、すぐ壊せる」鉄道模型を眺めながら龍が言う。

「壊せるかもしれへんけど、ちんまいもの壊すと、治すの大変やで。細かいもん、つなげたりせなあかんし、神様が手先器用ならええけどな」

「幸せと不幸と両方作ったのは、神様が器用だからなのかな。それとも不器用なのかなあ」


「うーん。皆同じやと、つまらへんしなあ。ほら、うまいもんと、まずいもんがあったほうが、うまいもんがありがたく感じるやん。

 木崎屋の皮がべちょべちょのおまんじゅうがあるから、岡埜堂のふっくらおまんじゅうの、うまさが引き立ついうもんや」

「おいしい物をおいしく思わせるための作戦なのかな」龍がくすりと笑う。


「…ここだけの話やけど、神様って、人間がどう思うか、気ぃ使うてるんやないかなあ」

「それじゃあ、小心者みたいだよ」

「ええやん。神様が小心者でも。じっちゃんが言っとった。守りたいものがあると、慎重になって、気が小さくなることがあるんやて。自分のことなら平気なことも、大事なもののことだと、そうはいかんのやて」

「大事なもの…」

「龍くんの大事なものって、何?」

「…おうち」

「うち? 西園寺のお家?」

「うん。僕は本当の子供じゃないけど、ずっとずっと、とうさまとかあさまの子供でいたい。紗由のにいさまでいたい…」


「龍くんがそない言うたら、きっと皆喜んでくれるで」

「でも…紗由のこと泣かせたから、もう駄目だよ」しょんぼりする龍。

「ケンカしたん?」

 翔太が聞くと龍は小さく頷いた。

「大丈夫や。ケンカするほど仲がええって言うやん。うちのおかんと玲ちゃんなんて、年がら年中、しょうむなことでケンカしよるで」

「玲香ちゃんと鈴音さん、ケンカなんてするんだ」驚く龍。


「この前もな、じっちゃんの誕生日のケーキ買いに行ったんや。おとんと俺と4人で。そしたら、おかんと玲ちゃん、どのケーキ買うかでケンカや」

「子供みたいだね」龍がくすりと笑う。

「せやろ? おなごいうんは、食い物のことなると必死やで」

「ちゃんと仲直りしたの?」

「ケンカしとる間に、おとんが、二人が欲しい言うたケーキ、両方買うたんや。そしたら、今度は二人して、おとんのこと怒って」

「光彦さん、かわいそうだね」

「とばっちりいうやつや。でもな、いっちゃんかわいそなのは、じっちゃんや。ほんまは、モナカがよかった言うてな」

「飛呂之さんのお誕生日なのにね」

「おとんと二人で、もいっかい買いに行ったわ。

 後で聞いたらな、じっちゃんはケーキでもよかったんやて。

 でも、どっちか先に食べたら、違うほうのケーキがいいて言うたほうが泣きよるやろ。気つこうとるんや」

「飛呂之さん、やさしいね」


「うん。自慢のじっちゃんや」翔太がにーっと笑う。「それにケンカしても、みんな仲良しや。龍くん、遠慮しすぎやで。どんどん、ケンカすればええやん。…おやつかて、いっつも、紗由ちゃんの食べたいもんばかりなんやろ?」

「うん。僕はおにいさんだから、がまんするんだ」

「うちのおかんに聞かせてやりたいわ。…でも、龍くんも、たまには食べたいおやつを、がつーんて言うたらええんや。兄貴なんやからな」腕組みする翔太。

「わかった。僕も、どのおやつが食べたいか、ちゃんと言うよ!」

 龍は意を決したように宣言し、翔太に笑った。


  *  *  *


 龍たちは、迎えに来た華織と昼食を済ました後、華織の家へ向かった。


 リビングでは、昼食の片付けを終えた周子と玲香が、話をしながらやってきた。

「最近、よくケンカするのよ、龍と紗由。困っちゃうわ。一昨日も涼一さんに叱られたばかりなのに」

「本当の兄妹になってきたということなんじゃないでしょうか」

「…そうかもね。龍は最初、遠慮ばかりしてたから」小さく溜め息をつく周子。

「でも、さすがは“命”さまですね。てきぱきと仲裁に入られて…何か笑っちゃいました」

「災いを回避するのは、彼女の役目ですから。西園寺家には諍いは許されないんだわ、きっと」

 周子が言うと、玲香が首をかしげた。

「でも、ご自分のお子様だと勝手が違うものなんでしょうか。息子さんご兄弟が長いこと確執を抱えてたなんて、不思議な感じがします。

 “命”さまの気性だと、そのままにしておくなんて、ありえないというか…」


 その時、傍らで新聞を読んでいた涼一が、新聞をテーブルに置くと、二人の話に加わってきた。

「自分の子供だと、なかなかうまく行かないというのは、僕もよくわかりますよ」

「紗由ちゃんは、このお家で最強ですものね」玲香が微笑む。「でも、涼一さんは、二人のケンカに関しては、きちんとお叱りになりますよね。そうしなかったのかしら…“命”さま」

「どうした。何か気になるの?」雑誌を読んでいた賢児も、中断して話に加わる。

「あ…いえ。すみません、よけいなことを。ただ…」

「ただ?」涼一が聞く。


「天馬さんと風馬さんの諍いの原因は、どちらが次の“命”になるかということだったんですよね。でも、“命”になりたいから仲たがいというのは、何かしっくり来ません。“壱”と“弐”で、見習いも含めて枠が4人なんだから、二人ともなればよろしいのに」

「確かにそうね。一度に二人はダメなのかしら」

「一度にはダメだとしても、順番にやればいいかなと思います。揉めている間に十数年も経ってしまうんだったら、揉めずに順番にやればいいというか」

「そうだよね。揉めている間は、空白になっちゃうよね」涼一も同意する。


「きっと、甲乙付けがたい力の持ち主だったんですね、お二人が」

「二人の子供から一人を選ぶというのは、かなりきつい作業なんだろうな」賢児が言う。

「それはそうだわ。一昨日だって、本当にこっちが泣きそうな気分だったもの」うつむく周子。

「一昨日は、そんなケンカがあったんですか?」

「そうなの。龍がテストで100点取って、私が“龍、すごいねえ。頑張り屋さんだし、龍、大好き”って頭撫でて、ぎゅってしたらね、紗由が割って入って来て、“にいさまと紗由とどっちが好き?”って聞くのよ」

「あらあら。やきもち焼いちゃったんですね」


「ええ。そのちょっと前に、紗由がいたずらをしたのを叱ったものだから、その直後に目の前で龍を褒めたのがいけなかったのかもしれないわ。

 それでね、龍が、そんなこと聞くのはずるいって紗由に怒ったの。紗由は本当の子なんだから、紗由に決まってるじゃないかって泣き出して。そうしたら、今度は紗由が泣き出しちゃって…」

「それは困りますね。選びようがないというか、答えようがないというか…」

「涼一さんが二人に丁寧に話をしてくれたから、何とか仲直りしたんだけど、今日はおやつの種類でケンカだし…」


「まあ、おやつに関するケンカは、小さい子にはありがちですよね。でも、全部取り上げて自分で食べちゃう“命”さまには、さすがに勝てませんね」思い出してクスリと笑う玲香。

「二人とも口をあんぐり開けてたな」涼一もくっくと笑う。

「まあ、ケンカしてる人間を仲直りさせたかったら、共通の敵を作ればいいってことだよ」

「共通の敵…か」賢児の言葉に考え込む涼一。

「親がその役割を担えばいいのかしら」周子が言う。

「役割分担は必要だろうな、何事においても。…まあ今回は、こっちが心配する前に自浄作用が働いてたようだけどな」


「…そうね。紗由が一緒についていくなんて、思ってなかったわ。伯母様の一言が効いたんでしょうけど」

「だよね。“龍がいなければ、紗由は好きなおやつがいくらでも食べられるでしょ? だから龍は、やっぱり、おばあさまの家の子供にしようと思うの”って、あれ、ある意味脅迫じゃない」賢児が言う。

「紗由ちゃん、本気で抗議してましたよね。“にいさまは、うちの子だから返さないって。紗由のにいさまだから、おばあさまにはあげない”って」

「“にいさまも、うちの子だって、ちゃんといいなさい!”には内心笑っちゃったわ。あの龍が、びびってるんですもの」

「だから、見張るために一緒に行くっていうのが紗由らしいよな」賢児が笑う。


「紗由にとって龍は、優しくて、賢くて、かっこよくて、何でもできるスーパースターなのよ。ちょっとケンカしたぐらいじゃ、それは変わらないわ」

 微笑む周子に、涼一が不満げに言う。

「何で、そのスーパースターは俺じゃないわけ? こんなに優しくて賢くてかっこいい父親がいるのに」

「そうですよねえ。何が違うんでしょう?」真剣に考え込む玲香。


「おい。兄貴を追い込むなよ、玲香。紗由は、自分を甘やかさない人間が好きなんだろ。

 翔太になついてるのだって、そうだよ。翔太は紗由をお姫様みたいに扱うけど、言うところはきちんと言う。そこがいいんじゃないのかな」

「うーん。どちらかと言えば、涼一さんご自身が、紗由ちゃんに冷たくされるのが好きなのでは」

「え?」3人が一斉に玲香を見る。

「自分の思い通りにならない緊張状態が好きって人もいます。同僚がそうですから。

 で、たまに優しくされると、よけいに嬉しいという仕組みです」微笑む玲香。

「マッチポンプか」

「…私もやってみようかしら」周子が真剣な表情になる。


「…玲香さん。僕、賢児のこといじめすぎたかな?」

「え?」

 玲香が不思議そうに涼一を見ると、賢児が涼一に耳打ちした。

「ごめん。ただの天然だから。悪気はないんだ」

「客観的に見て、そうだっていうことか…」涼一が肩を落とす。

「きっと紗由ちゃんは、とうさまの気持ちがわかってて、そういうふうに振舞ってるんですよ」

“わかってて、やっている…”

 玲香の言葉に、涼一は一瞬、何かが頭に引っ掛かったような感覚を覚えた。

「これだから、能力者ってやつは…」そう言いつつ、今度は自分の言葉にハッとする涼一。

“そうか。そういうことなのかもしれない…”


  *  *  *


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