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その17


 お帰りの時間の幼稚園は、子供たちと先生たちと、迎えに来た保護者たちとでにぎわっていた。

「はい、かなこちゃん。これ、おてがみだよ」

「ありがとう、さゆちゃん。こっちはきのうのおへんじ」

 紗由と奏子は、うふふと笑った。

 奏子は封筒を自分のカバンに入れると、こちらへ歩いてくる母親の響子に手を振った。

「ママ!」


 紗由も辺りをきょろきょろと見回すが、周子はまだ到着していない。

 カバンを開け、手紙をしまっていると、真里菜が紗由の前をふさぐように立った。

「おてがみだ!」唇をかむ真里菜。

「まりりんも、かあさまがまだこないの?」

「おてがみだ…」真里菜の目がみるみるうちに涙であふれる。

「まりりん?」

 紗由が心配そうに顔を覗き込むと、真里菜は辺りに響き渡るような声で泣き出した。


 保育士が慌てて飛んでくる。

「どうしたの、真里菜ちゃん?」

「まりりんも…おてがみ、ほしい…」しゃくりあげながら言う真里菜。「さゆちゃんの、おてがみほしい…」

「まって! いまかくから、まっててね!」

 紗由はカバンを下ろして中を開けると、いつものメモ帳とクレヨンを取り出した。

「ど、どうしたの、紗由ちゃん?」

 エントランスでカバンを広げ始めた紗由に、困惑する保育士。


 そこに、周子と、真里菜の母親の夕紀菜が談笑しながらやってきた。

「あ、西園寺さん…」

「先生、お世話様です…紗由! 何してるの?」

 しゃがみこんで、何かもぞもぞと書いている紗由を前に、思わず隣にしゃがみこむ周子。

「おてがみ、かいてる」見えないように、隠す紗由。

「真里菜もどうしたの。何で泣いてるの?」

 夕紀菜が心配そうに聞くと、うれしそうに答える真里菜。

「おてがみ、かかれてる」


 紗由は書き終えるとメモ帳を破り、ていねいに4つ折りにすると、真里菜に渡した

「はい! おうちでよんでね」

「ありがとう、さゆちゃん!」

「じゃあね。ばいばい! おばさま、さようなら。せんせい、さようならあ」

 紗由はぺこりと挨拶をすると、周子にしがみつくようにして車へと向かって行った。


「紗由。何であんなところでお手紙書いてたの?」

「かなこちゃんにおてがみあげたら、まりりんもほしいって、ないちゃったの」

「あらあら。それで、まりりんにお手紙書いてたのね」

 紗由がこくんと頷く。

「あ。これ、おへんじだって」紗由が手紙を周子に差し出す。

「…この作戦は意外なところで難アリねえ」

 周子は溜め息をつきながら、渡された手紙の封を開けた。


  *  *  *


 玲香は、周子から渡された手紙を興味深げに読み始めた。

「さすがは周子さん。目の付け所が違いますね。…石から推理するというのは、思いつきませんでした」

「というかね、このペンダント、それぐらい効果覿面なのよ。当選危うしと言われていた今の総裁も、彼のアメジスト買ったそうじゃない。だから、何か見つけられないかと思ったの。

 お義父さまは、伯母さま一家を勘ぐるなと言ったし、誠さんのことも間接的にではあれ、信用しているようだけど、こっちは能力者でもないのに、ああいう子供を二人も抱えているのよ。

 毎日ハラハラものだし、悠然と構えてなんかいられないわ。目の前で何か起きたときの反射神経は先天的なもの。お義父さまみたいに優れた人はいいけれど、私は凡人だから、情報を武器にするしかないもの」

「私なんか、目の前で何か起きてても、わかる自信もありません。背中かゆいなあと思ってたら、あら、撃たれてたわぁ、みたいな」

「やだ、玲香さんたら」周子はけらけら笑うとスープを口に運んだ。「うーん、いいお味」


「響子さん、けっこう几帳面な方ですね。購入日と使っている人、置いてある場所まで書いてくださってます」

「向こうも情報が欲しいようなニュアンスだったから、詳しく書いてくれたんじゃないかしら。彼女も、きっと心配なのよ。四辻先生が、あんな亡くなり方をされたしね。奏子ちゃんのことは話してないけど、兆しを感じることがあったのかも」

「でも…何で響子さんが管理されているんでしょうね。普通に考えれば、四辻先生の奥様の絢子さんになるのでは」

「うーん、そうねえ…絢子おばさまは、ほら、病院の仕事で常に全国を飛びまわっていらっしゃって、さほどご自宅にいらっしゃらないと思うの。

 響子さんもお仕事はなさっているけど、小さいお子さんがいるから、それほど頻繁に家を空けるわけでもないでしょうし」


「そうですね…テレビで見たことがあります。四辻絢子先生。産科小児科医療の改革を唱えて精力的に活動なさっている方ですよね。

 確か、四辻先生がお亡くなりになった時、絢子先生を後釜にというお話があったとか」

「ええ。でも、お義父さまの後援会からの説得にも応じてくださらなくて。医者として現場の実情を伝え続けるって」

「そうだったんですか…。えーと、このリストに載っているのは6人ですね。

 絢子奥様がオニキスの指輪、疾人さんが水晶玉、響子さんがアメジストの指輪、翼くんは黄水晶、奏子ちゃんがブルーアンバーの原石。

 奏人先生はタイタンルチルとアメジスト原石で、それぞれ、「消息不明」「返却、小宮山氏へ」と書かれてますね」

「そう。あのウワサのアメジスト、元は四辻先生が持っていらしたのね。…うちのほうは、これが龍に聞いた、先日伯母さまが買った石の名前よ」周子がメモを差し出す。


「ありがとうございます。…あら、龍くんのは、ないんですね」

「そう言えば、そうね。あ、でも、後から残りの宝石も追加購入したようだから、その中から何かもらったのかしら。聞いておくわ」

「これ、しばらくお預かりしていいですか? 私もよくわからない石も入っているので、ちょっと調べてみます」

「ええ、どうぞ。後でまた、いろいろ教えてね。今日はお昼食べてる時間なくて、もうお腹ぺこぺこ。玲香さんは、いつもこのぐらいなの?」

 周子はそう言うと、オリーブブレッドを美味しそうに頬張ったが、その手の止まる様子がない。

「いえ、今日は打ち合わせの関係で休憩時間が後ろにずれちゃって」

“紗由ちゃんのくいしんぼうって、もしかして…”

 玲香は下を向いてくすりと笑うと、メモをバッグにしまった。


  *  *  *


「あ、玲香さん。いらっしゃいませ。…あの、風馬さんは、ちょっと出かけてます」

「いいんです。アポしてあったわけじゃありません。ご請求書をお持ちしただけですから」

「わかりました。お渡ししておきます」

「じゃあ、これ、お願いします」

 バッグから取り出した請求書を澪に手渡しながら、玲香は彼女の左手に目を留めた。

「あら、素敵なバングルですね。…もしかして、風馬さんとおそろい?」

「…あ、あの、おそろいっていうわけじゃなくて、元々同じものが2つあって、ひとつは私が使っていたんです。もうひとつを兄が売りに出して、そうしたら華織さんが買ってくださって、それで…」

「そうなんですか。でも、傍目にはおそろいですよね」

 うふふと玲香が笑うと、澪は頬を染めてうつむいた。


「でも、いいなあ。すてきなアクセサリーたくさんお持ちですよね。この前のブルーアンバーのペンダントもそうだし、今日のそれ、デザートローズですよね。よくお似合いです。下側の黒い石はオニキスですか?」

「ええ、そうです。バラから落ちる夜露をイメージして、黒い涙形の石を下につけてあるようです」

「チェーン部分はスギライトですか? 紫、ピンク、黒…シックだけど、ちょっと小悪魔っぽい感じもしますね」

「…悪魔なのかもしれません、私」澪が下を向く。

「え?」

「なーんて」澪がにこっと笑う。

「こんな可愛い悪魔が傍にいたら、風馬さんでも太刀打ちできないですね、きっと。…ああ、いけない。すぐに戻る予定だったんです。じゃあ、私はこれで」

 玲香は会釈すると、軽く手を振りながらアトリエを出て行った。


  *  *  *


 玲香が帰社したとき、珍しく賢児が窓の外を見てぼーっとしていた。

「何かあったんですか、賢児さま?」

「いや、何もないんだよ。なーんにも、変わったことがない。大丈夫なのか?」

「え?」

「もう2週間だ。機関だの“跡継ぎ”だの、言われた割には何も起こらないよな」

「賢児さまったら。何もないほうがいいじゃありませんか」

「結婚式前に変なことになったら困るよ。だったらその前に、どうにかなってかたがついたほうがいい」


「じゃあ、華織伯母さまに、そうお願いしましょう」くすくす笑う玲香。「でも確かに、敵はどうしちゃったんでしょうね。華織伯母さまが参戦した時点で、びびっちゃったとか」

「そもそも伯母さんを敵に回すなんて、どこのどいつか知らないが、100年早いよ。親父だって、なかなか太刀打ちできないレベルなんだぜ。親父、時々つぶやいてる。姉さんは悪魔だって」

「賢児さま。その“太刀打ち”は“命”の力と関係ありません」

「…そうでした」


「でも、悪魔…」玲香がふと考え込む。

「どうしたの、そっちこそ」

「澪さんが自分のことを悪魔かもしれないって言うんです。冗談めかしてましたけど、ちょっと気になって。…私も賢児さまと同じで、何か起こるはずって思っているから、神経過敏になっているのかもしれないですね」

「玲香の場合さ、この時期に神経過敏になるなら、マリッジブルーのほうが先なんじゃないの?」


「ブルーって言えば、ブルーアンバーも気になるし…」

「ブルーアンバー? 青い琥珀ってこと?」

「はい。太陽光の下だと青く光る琥珀があるんです。今、華織さんと奏子ちゃんと澪さんが持ってます」

「何に効く石なの?」

「心身ともにポジティブな状態にもっていくというか、乱れた気を調整したり、物事にのめり込みすぎないようにバランスを保つ。そんなところでしょうか。

 石の中で唯一帯電するらしいです」

「ふうん。奏子ちゃんは恥ずかしがりやさんだから、積極的になるという意味では、いいのかなあ。澪さんはよくわからないけど、伯母さんには必要なさそうな石じゃない?」


「そうですよねえ。十分ポジティブでいらっしゃるし、割と物事を引いて見ていらっしゃるから、のめり込み過ぎというのも当てはまりませんよね。

 …それとも、3人の石を同じにしておいたほうがいい理由があるんでしょうか。うーん…」

「伯母さんと奏子ちゃんの石は、誠さんから入手したものなの?」

「ええ、そうです。これが、西園寺家と四辻家が誠さんから買った石のリストです」

 玲香が差し出したリストを、賢児はじーっと見つめた。


「あと、澪さんが持っている石は、目に付いただけでも、説明会のときに付けていた、そのブルーアンバーのペンダント、それからストラップがアメジスト、今日のペンダントは、デザートローズ、オニキス、スギライト。風馬さんとおそろいの翡翠のバングル」

「…紗由の予言はまた大正解なのか?」

「予言?」

「いや、実は誠さんは、澪さんに、彼女は風馬の嫁になるって言ってたらしいんだ。彼女が四辻家の天珠を持ってきたとき、風馬にそう言ったんだって。

 で、親父と伯母さんの話を聞いてた紗由が、今朝、言ってたんだ。“紗由はわかった。澪ちゃんのおっぱいはお馬さんのだ”って」


「出た。おっぱい所有説ですね」玲香が笑う。「それって、もしかするともしかするのでは。澪さんは、かなり風馬さんに夢中な感じがしますよ。バングルは偶然おそろいになっちゃったみたいなんですけど、でも、すごーく嬉しそうでしたから」

「そうか…これは要チェックフォルダに入れておく必要があるな」

 笑いあう賢児と玲香。


「そうそう。さっきの続き。ちょっとびっくりしたよ。プレジデント・ストーンは、元々、四辻のおじさんの物だったんだな。

 …あ、今、党内では小宮山総裁が買った対のアメジストドームのことを、そう呼んでるんだってさ」

「へえ。何だかすごいことになってるんですね。奈美ちゃんも、政治家秘書の名刺が山ほどたまったって言ってたようですけど、総裁選の前に争奪戦というところでしょうか」


「そんなところかな。ところで、響子さんと澪さんもアメジスト持ってるんだね」

「はい。アメジストは直観力や判断力を高めてくれます。邪気払いに優れた石で、恐怖や不安を取り除いて精神安定剤代わりになってくれます」

「へえ。確かに政治家には必要そうだ。風馬と澪さんがおそろいで持っている翡翠は?」

「権力の象徴、成功へ導くリーダーシップの石ですから、私はこちらのほうが政治家向けなのかなと思ってましたけど…。中国や台湾では災厄除けによく使われていて、ヒーリング効果も強力だとされています」


「えーと、紗由の石のラブラドライトっていうのは、親父のタイピンと同じ石だよな」

「はい」

「それから、澪さんのネックレスのスギライトはこれだよな」自分のネクタイピンを玲香に見せる賢児。

「ええ。この前お話した以外の効果としては、不安の解消なんかもあります」

「ふうん、そうなんだ。…四辻のおばさまのオニキスは、澪さんのネックレスでも出てきたよね」

「オニキスは精神力や意思力を強化します。邪気払いにも効きますし、別れたい相手がいる時なんかにもいいらしいですよ」


「澪さんの持っている石って、何かこう、自分をガードしたり、何かを払いのけるためのものが多い?」

「…ええ、そうなんですよね。ネックレスに付いていたもうひとつの石、デザートローズも、悪縁切りの石とされてますし」

「誠さんていう強力な兄貴に守られているし、自らも能力者なのになあ。何か不思議だね。…あ、そうだ。龍は今回、何も買ってもらわなかったんだっけ」

「龍くんの分は周子さんに確認してもらうことになってます」


「ねえ、あとさ、翔太が生まれた時に記念で誠さんから買った石って何?」

「タイタンルチルです。でも、うちにあるわけじゃなくて、奈美ちゃんのところで翔太のために神棚に置いてあるんです」

「四辻先生の持ち物にもあったね。それと、親父の書斎に置いた置物とも同じだ。つながっちゃうのかな、やっぱり」

「さあ、どうでしょう。もし、誰にでもそんなことが可能なら、奈美ちゃん大喜びですよ。ずっと翔ちゃんと一緒やでえ、とか何とか。…もしかして、先生もウォーミングアップ始まっちゃったのかしら…」

「ん?」

「いえ。さあ、そろそろお仕事を再開いたしましょう」

 玲香は元気よくそう言うと、席に戻ってパソコンを立ち上げた。


  *  *  *


 玲香が帰宅してまもなく、翔太から電話がかかって来た。

「なあ、玲ちゃん。風馬はんに、聞いといてほしいこと、あるねん」

「何?」

「澪さんが誠はんのパートナーいうのやってたやろ。俺も、龍くんのパートナーやってみたいねん。どないしたらええかなあ」

「何で自分で聞かないの。龍くんに聞けばいいじゃない」

「うーん…」

「風馬さんにだって電話すればいいじゃないの」

「電話知らへんし…何や、俺があんまり聞くのもなあ」

「質問魔が何、言ってるのよ」けらけら笑う玲香。


「この前んとき、グランパはんに質問は後で言われたんやけど、後になっても、しづらいいうか、こう、壁作っとるみたいな感じなんや」

「壁?」

「鎧みたいちうか…戦闘準備なんやろな。ぴかぴかも、みんな見えづらくしちょる。“命”さまにものを聞こうとしても、龍くんが聞いておくよ、言うたり。…俺が聞くと、じゃまくさいんかもしれへん。でも、玲ちゃんなら大丈夫や。影響せえへんから」

「影響って?」


「玲ちゃんは、ぴかぴかが変わる様子を頭に思い浮かべること、ないやろ。敵は玲ちゃんからは読まれへん」

「…ねえ、あの説明会のとき、翔太は質問禁止だったってことなの?」

「うん。グランパはんと風馬はんは、難しい言葉で、スムースな進行ちうやつを目指してたんや。俺がぎょーさん聞くて、思うたんやろな。へへ」

「なるほどね…」


 翔太が聞きそうなことの中に、一条兄妹に聞かれたくないことでもあったのだろうかと、玲香はふと思った。

「わかったわ。明後日の午後、また風馬さんのアトリエに行く用事ができたから、聞いてみるわね」

「おおきに!」

「…あ、そうだわ。うちの会社の名簿、躍太郎さんに言われて、翔太が澪さんに渡してたわよね。あれって、中身は見た?」

 好奇心旺盛な翔太なら、事前に中身をチェックしたのではないかと思い確認してみた。

「ああ、あれか。加奈ちゃんによう言うとき。俺が知っとるぶんだけでも、抜けがあるで」

「抜け?」


「そうや。新入生だと中山はんがなかったし、部長さんやいうのに進子ちゃんの名前がないのは、まずいやろ。それに加奈ちゃんらしゅうもない、自分が抜けてんねんで」

 進子ちゃんというのは、心が乙女の制作部長、賢児に夢中な高橋進のことだ。

「そうね…。うん、わかった。言っておくわ。…抜けてるって、躍太郎さんには言ったの?」

「せやから、話しかけづらい雰囲気なんやて」

「そうか、そうか。うん、わかったわ。ありがと」


 翔太からの電話を切ると、玲香はそのまま賢児に電話をした。


  *  *  *


 玲香はカタログ追加分を納品に、風馬の赤坂のアトリエに立ち寄った。

「わざわざありがとう、玲香さん。一昨日も来てもらったばかりなのに」

「いいえ、こちらこそ、部数増加でご注文ありがとうございました。デスクワークが中心ですから、こちらへうかがうのは、私もいい気分転換になります。今日はお天気もいいですし」玲香がにっこり笑う。

「そうですね。僕も外で昼寝でもしたいところですけど、少し新作を追加しようかと思って…自分で時間を削ってしまいましたよ」

「澪さんのご提案ですか?」

「ええ…まあ」心なしか、照れたように目をそらす風馬。

「澪さんは今日は?」

「資料を買いに」


「そうですか。…風馬さんの絵を語るときの澪さんて、いきいきしていて可愛いですね、すごく」

「うちの両親は僕の絵にまったく興味がないのでね、彼女のサポートは助かっています」

「よきパートナーって感じですよね。…そういうのって、能力的にサポートしてもらうときにも役立つんですか?」

「え?」

「実は、ちょっとお聞きしたいことがあるんです。

 …翔太は、早く龍くんのサポートができるようになりたいらしくて、東京にいるからっていう理由で、私にまで聞いてくるんです。でも、私じゃわからないし、ちょっと教えていただけますか?」

 玲香は微笑むと、スマホを取り出した。


  *  *  *


 賢児は、わけがわからないという顔で玲香を見つめた。

「紗由を“跡継ぎ”のパートナーにして、そいつのバリアを突破するってどういうこと?」

「風馬さんにお聞ききしたんです。

 誠さんみたいに、パートナーがいないと“バラエティ”な部分を使えないタイプの場合、パートナーは誰でもOKなんですかって。

 そうしたら、相性的にダメな場合もあるし、相性次第では最強タッグという場合もあるし、逆に力を乗っ取られてしまう場合もあるって。パートナーを使うのは、諸刃の刃ということのようです。

 敵が今、十分な力を持っている、さっさと実力行使してくればいいと思うんですよね。それをしていないということは、少なくとも現時点では、適切なパートナーがいなくて、思うように力を発揮できないのではないかと思ったんです」


「そうか。現状から逆に考えていくと、“跡継ぎ”は誠くんと同じタイプである可能性は高いということか。基本能力だけでは、伯母さんや風馬とは渡り合えない。“バラエティ”の部分を使いたいんだけれども、パートナーが今いない」

「でも、大人の“命”が力を貸せと言われて、はいはいと言うことを聞く訳はありません。子供が狙い目ですよね」

「そうだな。その場合、どう考えても紗由だな。龍は利口過ぎるしな」賢児がくすりと笑う。

「大人を何らかの手段で脅迫するという手もあるでしょうけれど、翔太の話だと、説明会の時点で、皆かなりガードが固い、鎧をまとった戦闘準備状態らしいです」

「そうなんだ。全然わからなかった」溜め息をつく賢児。


「そうそう。それで、鍵穴が合わないと、パートナーにはなれないみたいです。

 だから、相手方は動かないというより、その鍵の相性を確認している途中で、その作業が鎧で困難になっているということかもしれないですね。

 それから、風馬さんに確認した流れは、メモして、その都度会社と自宅のパソコンに送っておきました。風馬さんが一瞬いぶかしがっていましたけど、元々、翔太から聞いてきてくれと言われたことだったので、後で翔太に説明するときに漏れがあると怒られるのでと断りを入れて、打ち込みました」


「なるほどね。それなら、翔太への説明もバッチリだし、もし兄貴の言うように記憶を消されても証拠は残るし、通信を傍受されたらされたで、相手がどう出てくるかというところだよな」

「はい。でも、何となく思いました。“命”たちは、能力の出方はわからないということでしたよね。力の片鱗が見えている先生や紗由ちゃんよりも、奏子ちゃんとか、まったく力がなさそうな私たちのほうが要注意なのかもしれません」

「そうだな。意外と俺がある日突然、4番打者になっちゃうかもしれないしな」

「そうですね、ふふ。期待してます」

 玲香は楽しそうに笑った。


  *  *  *


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