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その15


「翔太くん、さっきから、どうかしたの? 難しい顔して。渋い男の練習?」

 龍がにやりと笑いながら聞くと、翔太は髪をかき上げながら答えた。

「まだまだやな、龍くん。…渋さいうのはな、出すもんやなくて、出てまうもんなんや」

「へえ、そうなんだ」

「じっちゃんが、そう言っとった。それはこっちにおいといて…あんなあ、澪さん、インバーターみたいなんや」

「手品でもしたの?」龍が首をかしげる。

「一瞬で、反対の色になるんやで」翔太が自分の胸の真ん中を指差しながら、小声で囁く。

「どういうこと?」

「わからへん。あないなるの、見たことないわ」

「反対の色…」


「“命”さまに聞いたほうがええかな」

「僕が聞いておくよ。…このこと、まだ他の人には黙ってて。ほら、けっこう皆ぴりぴりしてるでしょ」

「う、うん。わかった」頷く翔太。

 そんな二人の姿に気づいた紗由が、駆け寄ってきた。

「なに? なに? おやつのはなし? きょうはケーキがいいなあ」

「そうだね。チーズケーキ買って来てもらおう」

「えー。さゆは、いちごのケーキがいい」頬を膨らませる紗由。

「俺はチョコ…」

 手を挙げた翔太が気配を感じて振り向くと、そこには周子が立っていた。


「シュークリームですから」

 周子は低い声でそれだけ告げると、スタスタとキッチンへ歩いて行った。


  *  *  *


 翌日、賢児と玲香は、社外打ち合わせが済んでから直帰し、少し早めに仕事を上がった。

 その後、涼一と周子も交えて、久しぶりに割烹「雅」で食事をすることになった。

 「雅」は、光彦が清流の板場に入る前に修行をしていた店で、公私共にお世話になっている店でもある。

「玲香ちゃん、西園寺さん、いらっしゃいませ。もう、お兄様がお待ちですよ」店長が賢児に奥の部屋を指し示す。

「兄貴が? 珍しいな。まだ15分前なのに。文字通りオンタイムな人なんだけどなあ。早いよ、どうしたんだろう」

「もう30分以上前から、おいでですよ。予約を1時間前倒してくれとおっしゃって」


 2人が部屋に入ると、涼一がノートやらプリントやらをサイドテーブルに広げ、部屋のあちらこちらを丹念に見て回っていた。

「…何してんの、兄貴」

「ああ、来たか。早いな。大体終わったから、ちょっと待っててくれ」

「終わったって、何が?」

「セキュリティチェックだよ」

「必要ですよね、こういうメンバーで集う場合は」玲香が微笑む。

「うーん。やっぱり玲香さんは切れがいいなあ」

「それって、伯母さんたちとのからみってこと?…まあ確かに、俺たちの考えは筒抜けになるかもしれないし。一条さんたちを疑ってるの?」


「龍に頼んできたんだ」賢児の質問に答えずに先を続ける涼一。「この部屋にバリアを張ってもらうようにね。こちらから龍に何かを伝えたい場合は、周子に、この水晶を通じて連絡してもらう」

 涼一が見せたのは、華織の羽龍が咥える水晶だった。

「バリアって…龍はそんなこともできるのか」


「正確に言うと、誰かが俺たちの思念を読みに来た気配を感じた時点で、その相手に話しかけてもらうんだ。

 能力者と話をしている間は、自分が誰かの思念を読んでいるのを悟られないように、通信レベルを下げる。

 龍が、俺たちに接触してくる相手に話しかけてくれれば、ちょっとした受信妨害状態だ。

 龍がその状態に入る合図としては、翔太くんから玲香さんにメールを送ってもらうことになっている。

 …翔太くんには申し訳ないけど、今回は、龍が設定したネットゲームへの参加ということにしてあって、詳しい事情は伝えていない。翔太くんが、どの程度までプロテクトできるかがわからないからね。

 で、対戦ゲームをしながら、一定の状況になったときに、玲香さんへ二人で同時にメールをしてもらうことにした。先に送信できたほうが点数が増えるという設定だ。

 龍はメールを送らないから、翔太くんの勝ち。出来レースだよ。

 接触してきた相手が消えたら、またメール。それが終了の合図だ。実験的にやりとりもした。まあ、大体安心レベル」


「あら…皆、おそろいなのね」かごを持った周子が到着した。

「周子さん、それ…ペットのキャリングケースですよね」

「そうなの。この子の飼い主が、私の上がり時間までに来られなかったものだから、後でこのお店まで受け取りにきてもらうことにしたの。豆柴の赤ちゃん。かわいいわよ。

 奥のブースで預かって下さるっていうから、置いてくるわね。声がしたから、先に寄っただけ…なんだけど、どうしたの、何か、妙な空気ね」

 不思議そうに聞く周子に、涼一が言った。

「とりあえず、かごを預けておいで。話はそれからだ」


 周子が再度部屋に入ってくると、涼一が説明をした。

「何だか私、責任重大ね。ちゃんと伝わるかしら…紗由にしか、伝えたことないし…」

「大丈夫じゃないでしょうか。たぶん、龍くんに伝えようとしたことがないだけで、やったらできる範囲内のことだと思います」玲香が言う。

「玲香さん…。そうね、確かに今まで、紗由に注意が向いていたから、紗由とだけだったのかもしれないわ。龍とは通じたかもしれないけど、龍が遮断していた。そういうことなのよね?」

「たぶんな」涼一が答える。


「で、兄貴が、そういう遮断をしてまで、俺たちを呼び集めた目的は何なの?」

「昨日の、ご教示ミーティングの真意を見極める集いだよ」

「真意?」

「そうだ。…だが、その前におまえに聞きたい。一条兄妹のこと、どう思う?」

「…どうって…うーん、どうなんだろう。あの人たち、何か感想を持ちづらいっていうか、二人とも感じのいい人だなと思うんだけど、それ以上考えようとするとさ、何かこう、考えづらくなっていくっていうか…」


「あ。それ、わかるわ、賢ちゃん。私も、あのときの事故のことを思い出そうとすると、思い出せないというより、そのこと自体を考えづらくなっていく感じだったのよね」

「そう言われると、そんな感じですね。フッと気をそらされて、考えがまとまらないみたいな」

「そうそう、それそれ。考えを阻害されるっていうか」賢児が同意する。

「ええ、そういうことじゃないかしら」周子も頷く。

「これで答えは出たな」涼一が言う。「俺もなんだ。それがどうにも腑に落ちなくて、いろいろと別の方向から考えてみた」


「俺たちは、記憶を封じられているんじゃないだろうか。彼らがやっているのかどうかは、わからない。というより全体的に、誰がどんなふうに俺たちを使おうとしているか知りたいんだ」


 涼一がそう言い終わると、玲香のスマホにメールが届いた。

 玲香が発信者を確認すると、翔太からだった。

 そして、ピピッという音と共に、涼一のほうにもメールが届いた。

“あの子のこと、なでてあげてね。話しかけるとすぐになつくよ”


 涼一はスマホを見つめてしばらく考えると、パソコンに文字を入力した。そのディスプレイを皆に見せ、水晶に手を乗せる。

“訂正をひとつ。周子が龍に連絡をするときだけじゃなくて、“命”関係の話をするときは、他の人も、この水晶に触れたまま、龍に意識をつなげるつもりで話をして”

 3人は、画面を見つめ、うなずいた。


 すぐ後に料理が何品か運ばれてきたこともあり、しばらくの間、4人は料理を堪能し、日常会話で過ぎて行った。

「準備は順調に進んでるのかい?」

「ええ。涼一さんのお手を煩わせなくても大丈夫よ。…でもね、紗由がやっぱり、フラワーガールをやりたいらしくて、玲香さんが共布のドレスでって言ってくださったから、洋子おば様にお願いしてきたわ。請求書は涼一さん宛てになってるから、よろしくね」周子が微笑む。

「…わかったよ。先が思いやられるなあ」

 涼一は、そう言いながらパソコンを開くと、文字を入力し始めた。

“水晶を使わずに、こっちに入力して、こうやって示してもらってもOK”


 その文字を読み、頷く3人。涼一がテーブルの中央に水晶を置きながら、水晶を握った。

「昨日の会合、俺たちへのガイダンスという名目なんだけど、本当の目的は違うんだと思う」


「うわあ、カニ美味しそうですねえ。東京湾のカニでしょうか」

「どうかなあ?」賢児が、涼一と玲香の両方に答える。

「そうかもね」周子も言うと、涼一がまた話し始める。


「俺たちにすべてを話すメリットが見当たらないんだよなあ。俺たちにしてみれば、わからなかったことを教えてもらって、ちょっとはスッキリするかもしれない。

 だが、知れば知るほど、わからないことも増えて行く。結局のところ、能力者でなければ、わかりえないことがほとんどだ。

 それに、陰謀めいた事態がうごめいている中なんだぞ。逆に俺たちに危険が及ぶ可能性が増える。“内情を知っている”わけだからな」


「内湾にいるのよね、カニって。内側のへこんだところに隠れてるの。可愛いわよね」重ねて言う周子。

「隠れてるのを見つけるから、よけいに美味しいんでしょうか」

 玲香が言うと、水晶から手を離した涼一が笑う。


 賢児が水晶に触れようと手を伸ばした。

「伯母さんも風馬も、俺たちを危険にさらしたいわけじゃないだろうから、情報をオープンにしているというプレゼンというか、誠さんたちに対して示すことが必要なのかな。あるいは、俺たちを危険にいったんさらしてでも、得たい情報があるってことかな」


「紗由は、隠れたものを見つけるの、上手よ。この前も、幼稚園の犬が逃げ出しちゃったとき、紗由が捕まえたんですって」

 周子が笑いながら水晶に手を伸ばす。


「誠さんが言っていた、“微妙な駆け引きの繰り返し”の材料にされているってこと?」

 涼一が「YES」と書かれたカードを挙げた。YES・NOで答えられるときは、このカードを挙げることになっている。


 その動作と同時に「紗由は足速いしなあ。ああ、俺、昔からカニ剥くの、苦手なんだよなあ…」とつぶやいている。

「手先が器用な割には、こういうのがダメなのよね、涼一さんは」周子が涼一の分のカニも剥き始める。


 再度、水晶に手を伸ばす賢児。

「そう言えば、伯父さんが、自分の能力をかなりアピールしていたように思うんだ。しかも誠さんが、自分のグループにはいない逸材だと褒めていたという翔太くんに対して、“ノウハウを教える立場”だということを強調した。これって、自分に注意を向けているとしか思えない」


「賢児さまの分、私が剥きましょうか」

「平気、平気。ほら、けっこう上手に剥いてるだろ?」


 玲香が水晶に手を伸ばした。

「前社長は、“命”が危険な思想にとらわれそうになったとき、自分に“降りてくる”ともおっしゃっていましたよね。それって、ある意味、“命”同様の能力を持っていると言っているのと同じです」

 玲香が言い終わるか終わらないかのうちに、涼一が手を伸ばした。

「昨日の説明会ではね、玲香さんが言うような伯父さんの誇張がある一方で、風馬の側は言ってないことがあるんだよ。

 彼ができることは、あれだけじゃない。誠さんたちがわかっているのかどうかは知らないけど、風馬は他人の記憶を封じることも、封印を解くこともできる。これは周子も経験済みの通り。なぜそれを言わなかったんだろう…」


 言われた3人は、しばし料理をつまみながら考えていた。

「やだもう。やっぱりカニって無口になっちゃう」けらけらと笑う周子。


 玲香が水晶に手を伸ばす。

「たぶん…記憶を封じるということが、強い武器になるからでは?

 もし一条さんが本当に西園寺家の味方なのだとしたら、風馬さんのそういう能力も承知済み、あるいは彼らもそれが使えて、私たちへの一応の説明会の後、私たちの記憶を封じたのかもしれません。

 …つまり、今、私たちの知っていることは、大したことではなくて、肝心のことは彼らに封じられてしまったという可能性もあります。

 ただ、一条さんが敵だったら、私たちの封じられた記憶や、能力者からでは得づらい記憶を得るために、私たちにアクセスしてくる可能性が高いですね」


「周子、眉間にしわよってる。また紗由がアイロン持ってくるぞ」

「え。やだもう!」思わず手をいったんカニから離して、手の甲で額を擦る周子。

「本当。カニって、つい無口になっちゃいますよねえ」

 水晶から手を離した玲香が笑うと、賢児が言った。

「カニをさ、茹でたあとに、殻だけぽろんと全部剥いて、カニの形のままに残せる機械あったら、俺、10万出しても買うよ」

「ドラえもんにでもお願いしろ」

「ジャイアン兄貴にも買ってやるから、カニ買って待ってなよ」


 賢児がニッコリ笑って水晶に触れた。

「あと、紗由の能力に関しても、ちょっと疑問がある。

 確かに過去志向というか、記憶をたどっていることが多いとは思うんだけど、四辻のおじさんに最後に会った時と、玲香のことを俺の嫁さんだってはしゃいでたとき、あれは未来の予測じゃないの?」

「そうね」周子がうなづく。


 その時、再び翔太から玲香のスマホへメールが届いた。その画面を皆に指し示す玲香。

 涼一も入力したディスプレイを示す。

“普通に話して大丈夫”


「ああ、疲れた」グラスの白ワインを飲む賢児。

「まったくだ。で、さっきの話に戻るけど…四辻先生の件は、親父が読み取ったものを紗由が読んだんだと、俺は思ってたんだが」

「まあ確かに、そういうこともあるだろうな」

「そうですね。四辻先生に帰らないでと紗由ちゃんが泣いたときのこと、龍くんも言ってました。すごく胸が苦しくなったって。龍くんの思念を読んだのかもしれません」


「でも…俺たちの件は変だよ。玲香が家に最初に来た時点では、付き合ってなかったし、俺は玲香に婚約者がいると思い込んでたから、紗由がはしゃぐのを見て、どっちかと言うと、傷に塩塗られてる気分だった」

「…私もどちらかと言えば、しんどかったです」うつむく玲香。


「じゃあ、二人の思念を読んでも、直接結婚には結びつかなかったってことね、あの時点では」

「それも、龍から読んだのかな」

 賢児が言うと、涼一が異議を唱える。

「いや。…あの時期は、伯母さんが龍の力を封じてたんだよな。だから、通信用の水晶を持たせた。それがなければ、伯母さんと話もできなかった程度の力だったはずだ」

「じゃあ、偶然なのかしら。お嫁さんになるかどうかはともかく、玲香さんがうちに寄ったのって、予定されていたわけじゃなかったでしょう?」

「はい。突発的と言いますか…」


「あ、そうだわ!」

「どうした、周子」

「私も、ちょっと変だなと思ったことがあるの。翔太くんが行方不明になったとき。私が賢ちゃんと電話していたときに、紗由は、とりさんとこ、とか、とりさんち、とかね、言ってたの。

 雀の御宿にいること、どうしてわかったのかしら。龍もわかっていなくて、慌ててたのに。

 あの時点で、ちょっとそう思ったんだけど、その後、紗由までいなくなっちゃってバタバタしてたから、ずっと忘れてたわ」

「もし紗由が未来を受け取れるんだったら、“ストレート”の兆しが見えてきたってことだよな。それが誠さんも伯母さんもわからないなんてこと、あるんだろうか」


「…わかっていて、教えたくない」玲香がぼそっとつぶやいた。

「え?」3人が一斉に玲香を見る。

「あ、すみません。…何となく、です。…というか、ちょっと引っ掛かったことがあって」

「何?」

「翔太のことです。伯父様とのやりとりが、出来レースっぽいなあって」

「ああいう段取りだったってことかい? 翔太のことに限らず、いろいろと」

 賢児が聞くと、玲香は頷いた。

「翔太の性格だと、いきなりあんなこと言われたら、具体的にどんな内容なのか、研修会があるか、自分は普段どういう勉強をしたらいいか…そういうことを確認すると思うんです。

 確かに普段はお調子者ですけど、神様がらみ、“命”さまがらみのときは別です。おまんじゅう、もっと食べられて、うひゃーで終わることはないと思います」

「なるほどね…」涼一が考え込む。


「そうだわ。龍のことは、伯母さまや風馬さんより、石を使う面では優れているようなこと、言ってたわよね。そして翔太くんに注意が向くような発言。…紗由に目が行かないようにしてるってことかしら」

「そう考えたほうが自然だな。問題はその理由だ」

「…俺たちにはわからないように紗由を使いたいから?」賢児が言う。

「でも、まったくわからずにというのは無理ですよね。周子さんは、それなりの道具があれば、紗由ちゃんとつながれるんですから」

「それに、現時点では、紗由より澪さんのほうが力があるだろう。同じような能力なら、そっちを使えばいいだけだ。なぜ、紗由なんだ?」

「わからないわ…」周子が肩をすくめた。

「じゃあ、いったん保留だ」涼一が周子を見る。


「今日は、あの人たちはどうしてるの?」賢児が聞いた。

「伯母さまと伯父さまは、洋子おば様と歌舞伎。夜の部だから、今頃、真っ最中ね。朝、電話があったわ。筋書きをうちの分も買うかどうかって」

「風馬は、個展の打ち合わせで澪さんと一緒だよな。玲香が昼間、個展のパンフレットとカタログの見本を届けに行ったとき、夜はスポンサーと澪さんと3人で会食だと言ってたらしい」

 今回、風馬の個展のパンフレットと、常設販売用カタログのグラフィックデザインを、サイオンイマジカの制作部で請け負っていたため、昨日の会合以前から、玲香は時々風馬のアトリエを訪れていた。

「それで澪さんが言ってたんですけど、誠さんは光彦義兄さんの実家へ別の石を納めに行くということで、夜は皆で食事らしいです。メンバーは誠さん、義兄さんの両親、それから義兄さんと翔太」

「ふうん。皆、誰かと一緒なんだな。龍が合図してきたときには」


「私たちが集まることも簡単にわかるんでしょうか…? それだと、“命”たちの真意とか動きを探ろうとして、私たちのほうから何か仕掛けるのは難しいですね」

「…でも、“命”たちは私事都合のために未来を受け取ることはできないって、龍が言ってたわ。世の中の動きに関すること以外、都合よく受け取れるとは限らないみたいよ。

 おば様は、身近な人間の災いぐらいはわかるとは言っていたけど」

「そうなると、むしろ澪さんや紗由の出番だね。俺たちの予定とか、話したこととか、記憶から未来につながることを探れる」賢児が言う。


「ある意味、紗由ちゃんが一番自由度が高くて、仕事をさせやすいんじゃないでしょうか。澪さんは、誠さんのパートナーとして動いているわけですから、“命”経験者や“弐の位”ではなくても、“命”に準じてというか…力に制御が加わっているかもしれませんよね」

「なるほどね。“なぜ紗由か”という答えは、そこら辺かもしれないな。…じゃあ、向こうの動きを探りたかったら、紗由にニセ情報仕込んで、わざと“命”側に流すこともできるのかな」

「ちょっと賢ちゃん。それじゃ“命”全員が敵みたいじゃない」

「敵とまでは言わないけどさ、紗由欲しさにとりあえず“命”組が一致団結っていうのも、作戦上はありじゃないかなあ」賢児が腕を頭の後ろにやり、天井を見つめる。


「あと、先生が蚊帳の外というのも気になります」

「そういえば、親父の力についての説明がなかったよな、昨日」

「奏子ちゃんについてもですよね。

 それとサイオンイマジカの社員名簿ですけど、総務に確認したら、前社長からの問い合わせは、賢児さまの就任以来、これまで一度もなかったとのことでした。それに二重パスになっていますし、アクセスできる人間は限られます。前社長のリストは前年度のものということになりますね」

「伯父さんが、澪さんを誘導してる可能性もあり、ということかな?」

 涼一が尋ねると、玲香は「うーん」と言いながら、首をかしげた。

「そんな必要性はないですよね。周囲に機関、“命”、宿の関係者がどの程度いるのかは、普通に得たい情報なんですよね…」


「すでに調査済みで、一条家側に知らせたくないなら別だけどなあ」

 賢児がそう言うと、突然、涼一が笑い出した。

「おまえ、けっこう疑りモードにはまってるな」

「あ、すみません…。私がよけいなことばかり言うから、賢児さままで…」

「そんなことないよ。玲香の観察力とか、洞察力とか、いつも助かってるんだ。今回の件だって、ちゃんと気づいたところを言ってくれて助かってる」

 そう言いながら賢児が玲香の手を握ると、涼一がわざとらしく咳払いをした。


「他に何か気になること、あるかい、玲香さん」

「そうですね。…とりあえず、何か疑問が生じたら聞くことだと思います。できれば彼らに個別に質問をして、その答えを比べることで見えてくるものがあるかもしれません」

「うん、そうだね。まあともかく、この4人は情報を共有しておこう」

「子供たちからの情報がけっこう重要な場合があるかもしれないから、私、気をつけるようにするわね」

「私も翔太の言動には注意しておきます」

「よし。じゃあ、そういうことで、せっかくの美味い料理をちゃんと堪能しようか」

「賛成よ!」

 そう言うや否や、周子は大根とフォアグラのソテーを口に入れ、満足そうに微笑んだ。


  *  *  *


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