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KURO:2005 5月の庭

作者: あやちょこ

5月の太陽に頬を少し染め、汗ばんだ額に髪が張り付いている。

それを少々鬱陶しそうに腕で拭う。

アユカは手に持った園芸用のシャベルでがしがし土を掘り返す。



それをクロが穏やかな風に吹かれて静かに見守っている。



小さな庭に芝生が敷かれ、庭の端には金木犀の木が植えられている。



クロはその金木犀に鳩が羽根を休めているのに気がつき、目を細める。



毎年毎年、間違えることなくこの木につがいでやって来て、子育てをしている。

雛が孵ると本当に賑やかで、クロはそれを見るたびに春を感じた。



アユカはまだ穴を掘っている。ただ穴を掘るだけなのにそれはそれは真剣な顔つきで黙々と手を動かす。




そう言えば、クロとアユカは一緒に穴を掘ったことがあった。



芝生があるのに先にクロが芝生を蹴散らす勢いで穴を掘り出した。

すると、アユカも笑って「そこに何かあるの?」と言いながら、ママがやりっぱなしにしたシャベルで一緒に穴を掘り出した。


ただ穴を掘るだけ。


それなのに二人でやるとなんだかとても楽しくて、夢中になって掘った。



時に交互に、そして一緒に。



本当に楽しくて時間なんか忘れて何時までも掘っていた。



そして、買い物から帰ってきたママに見つかってこっぴどく怒られた。

「そんなに掘っちゃって、落ちて怪我でもしたら困るでしょ!!」そう言われるまで相当な深さになったことにも気がつかないくらいがむしゃらに掘って遊んだ。


アユカは名残惜しそうに深くなった穴をみて、しぶしぶ土を元に戻し始める。


クロは穴が塞がれるのが嫌でアユカが埋めていくそばから掘り返していく。


競争みたいになって、二人は土まみれになっていく。



楽しかった。


二人で、なにかするって楽しかったよね。




凄く凄く仲良しでいつも一緒だったから。




アユカは体育の授業で逆上がりが出来なくて、悔しくてよく泣いた。

クロはそんなアユカの隣でただ黙って座っていた。二人の体は少しだけ触れ合っていて、アユカがしゃくり上げるとクロの体が揺れる。


ちょっとだけ温かい温もりと小さな揺れ。



二人はそれを意識して、お互いの存在を意識して、そうやって時を過ごしてきた。



クロが雷を怖がって小さくなっていると、アユカはそんなクロの近くに寄ってきて、そして体をくっつける。


クロはそれだけでちょっと雷が怖くなくなる。



アユカとクロはいつも一緒だった。




今まで、二人はいつもほんのちょっぴり触れ合ったり、バカみたいな遊びを見つけてはそれに夢中になった。




あ、穴が掘り終わった。




クロが見ている前でアユカが横に置いてあったクロのブランケットを穴にそっと入れる。



アユカは鼻をすすり、小さく肩を震わせる。



泣かないで。クロは思う。




楽しかったし、大好きだったよ。




だからさ、泣かないで。




僕は戻らなくちゃ。




クロは長い黒い尻尾を振る。

アユカがそれに気がついた様に空を見上げる。

アユカはポケットをまさぐるとそこから犬用の首輪を出して、目を擦る。

「ありがとう。」そう口を動かして頬を涙が伝う。



クロはそれを見て、もう一度尻尾を振る。




5月の空は青くて、どこまでも澄んでいる。



クロはその空を駆けていく。



飼っていた犬をモデルに書きました。

皆さんの心に少しでも残れば幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 穴を掘る、それが思い出であり、別れでもあり。アユカとクロのあったかい繋がりが伝わってきてホロリとしました。 短い文章のなかにたくさんの気持ちが詰まっていて、また読み返したくなる作品です。
2018/02/25 13:19 退会済み
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