何故、俺の別れは唐突なのか
橋の下を、紅で染める夕日が見えた。
でも、今はそんなのを眺める時間も余裕も無い。
「おい、猫さん! おーい! どこ行ったんだ!」
体の底から声を出す。こんな風に声を出したのは生まれて初めてかもしれない。
俺の脳内では、今でも彼女がいなくなってしまったという衝撃が駆けずり回っている。
頭に血が上っているのか上っていないのかさえもわからない。
ただ、ただ。彼女が遠くに居るような気がした。だから、俺は走りつづけていた。
前兆はなかったと思う。
一つあるとすれば、白衣の人とぶつかった時、彼女の猫耳が下を向いていた時ぐらいだろう。
そこだけが、怪しかった気がする。
いつも動かない体が悲鳴をあげ熱くなっている中、冷静に考える。
その姿に近づいてくる影があった。
「君が......速水 旬 君だよね?」
はっ、と我に帰り声の主に視線を合わす。
「......え?」
そこには、腕を組んでいるたたずむ白衣の女の人がいた。
「やぁ......っていってもわかんらないよね」
「いや、あの、いや、そのっ」
大人の女性の前では、声が出ない。
いつも恨む、俺の悪い癖。
「はは、彼女と住んでてもまだその癖は治らないみたいだね」
女性は、30代前半のだと思う。
だが、顔付きが子供っぽいからか、あまり貫禄は感じない。ただ、身長は男性の平均である俺よりも少し高いため、何故か闇を感じる。
「その、彼女って猫さんの事......」
「そうそう、彼女は私が作った実験体。でも、君とはもう彼女とは会えないし。会わせない」
「なんで......なんでだよっ!」
自分でも驚くぐらい突発的に声が溢れる。でも、後悔は無い。この際なりふり構わないで会話を続ける。
「確かに彼女は迷惑だった。でも、俺はそんなのも楽しかったし、もっと居たかった。そして、そんな日がずっと続けばいいと思っていた! そっ、それを、あなたが壊していい理由は無いはずだ!」
「理由......ね。残念だね。理由はある」
何故か、唐突に俺はここから逃げ出したくなった。
ただの現実逃避かもしれないし、その後に聞く言葉を予知できていたのかもしれない。
でも、現実は後者だった。
「私は、 西澤 にいなの親。......君が、殺した女の子の親だよ」