パラノイアとリアル
私にはたくさんの友達がいる。
学校生活は毎日キラキラと輝いていて充実している。たくさん勉強して、友達と遊んでそして友達みんなで寄り道して帰宅するのが毎日の私の生活。
「雨ちゃん、一緒に帰ろー!」
「うん!」
「今日はどこにいこうか?」
「あそこがいいな、ほら、新しくできた雑貨屋さんに行きたい」
「いいねぇ!じゃあそこに行こうか」
「やった!」
休み時間には皆に囲まれて楽しくて少し下らないおしゃべりをして、お腹を抱えて笑う。
「くだらなすぎて逆に笑える!」
「何よそれ!」
「ごめんごめん、怒らないでよ」
拗ねる友達を宥める。そしたらすぐに機嫌がよくなる。にっこり笑って許してくれるのだ。
「しょうがないなぁ」
家に帰ると優しい両親が迎えてくれる。
「ただいまー」
「お帰り、ごはんできてるわよ」
「今日は何?」
「あんたの好きなハンバーグよ」
「やった、早く食べよう!」
「その前に手を洗って来なさいね」
「はーい」
優しいオレンジ色の電気が灯る食卓には温かい湯気を漂わせている夕飯が家族三人分並べられている、父はテレビを見ながらビールを飲んでいた。その顔はうっすらと赤くなっていた。
「雨、お帰りー」
片手をひらりと上げて陽気に父は言った。
「ただいまー!あっまたビール二本飲んでる、お母さんに怒られるよ」
ビールは一日一缶って決められてるのに。そう言うと父は「母さんには内緒にしてくれ、な?」とちょっぴり情けなく私に言った。
「しょうがないなぁーいいよ」
「サンキュウな」
「もう聞こえてますけどね、あなた!」
そんな声が聞こえて振り向くと怒り顔の母が立っていた。
「明日はビール抜き!」
「そ、そんなぁ……」
「さあ、早く食べるわよ」
「はーい」
賑やかな私の家族、私の自慢。
楽しい毎日、幸せ
ああ、これが本当だったらいいのになぁ……
現実は見るのも嫌なくらい凄惨なものだ。
学校にいけばクラスメートからのいじめ。それはだんだんとエスカレートしていってもう歯止めはきかない。
今日も私の学校生活は自分のシューズを探すところから始まる。
見つけたのは汚いゴミ箱の中、昨日は水浸しにされていたし、一昨日は……何だったかな、忘れちゃった。
いじめの主犯格のクラスメートが通りすぎさまにケタケタと笑いながら言った。
「ごめーん!それ雨ちゃんのだったのねぇ、汚いからゴミかと思っちゃった」
「まあ、許してやってよ、わざとじゃないんだからさぁ」
「ごめんごめん!怒んないでよ」
ゴミ箱の中からシューズを取り出してはく。遠くからそんな私を見て笑っているクラスメート、傍観者の人、屈辱的だった。
家に帰っても温かいご飯など用意されていない、用意されているのは父親からの罵倒、暴力。
母はもうとっくの昔に出ていった。父にも私にも愛想をつかしたのだった。
殴られた頬が痛い。
鏡に写る私の顔はひどかった。
治らない殴打の後、それは体全体にもある。そして目の下のどす黒いくま。
「あは、ははっ、汚い……汚いなぁ……」
どうしていじめられるようになったんだっけ?
どうして父は私を殴るようになったんだっけ?
理由すらも分からない、教えてなどもらえない。
いっそ、死んだら楽になれるのかな。
きっと私が死んだって誰も悲しまない、誰も困らない、生きている意味が私には分からない。
「死のう……」
辛いだけの現実なんて捨ててやる、虚しいだけの妄想も捨ててやる。
生暖かい風が私の制服のスカートをなびかせる。
マンションの最上階の屋上、ここなら確実に死ねる。
ああ、良いことなんて何もなかった人生だったな。
もっと早く、こうしていればよかった……
汚い私なんて捨ててやる。
「バイバイ」
未練などない、むしろ嬉しさを感じる。
この汚くて、暗い世界から脱出するんだ。