【CHAPTER:06】 第87話 渾戦激化(前編)
王国南方超絶無敵大要塞バンギランド。
冗談のような名前だが、厳然として存在する。グランデルドオ騎士王国の東西南北に位置する主要要塞の中でも、もっとも個人の戦闘能力が高いとされ、ただでさえ常人離れしていることで有名なデルドオ騎士の中においても、更に畏怖される人材がそろっている。それがバンギランドだ。以前、アメパ堰堤要塞の奪還作戦を決行した際に行動を共にしたルカ・ファイアロードとトリル・ドランドランは、このバンギランドの出身である。
ぶっ飛んだ実力者揃いであるというこのバンギランドだが、その成り立ちを聞けばおおよそ納得できる。
かつて、中央帝国から西の守りを任されたのがグランデルドオ騎士王国であり、人類生存圏の最西端に建造されたのが、マーリヴァーナ要塞線だ。
もちろん、グランデルドオ騎士王国だけでは、広大な大陸の北から南にかけてをカバーしきれない。ゼルガ大山脈を挟んで北東側に、アイジェルガ北騎士公国、飛竜連山・ヴァンガーブ火山連峰を挟んで南東側に、フィルナンド竜騎士王国があり、この三大騎士国が、大陸の西側からくる侵略者に、常に備えている。
さて、北は良い。騎士王国と北騎士公国の間に連なるゼルガ山脈は峻厳だ。人らしい人も、暮らしてはいない。
問題は南である。
南は活動の活発な火山帯であり、野生の火竜が多く生息している。それだけではない。“火の民”と呼ばれる土着の民族が、火山帯に暮らしているのだ。
“火の民”は、竜王信仰と呼ばれる古来の宗教形態に根差した好戦的な民族である。竜人を神の子孫として崇め、自らも竜の力を宿した戦士となるべく日夜研鑽を積んでいる。
規模は決して大きくないのだが、ひとたび東へ進軍を開始すれば、死をも厭わずに突き進む。
そんな火の民を封じ込める為、騎士王国の南東部から竜騎士王国の北西部にかけて、“封火の要塞線”と呼ばれる要塞が建造されたほどだ。
で、騎士王国の中で、その火の民の監視と封じ込めを任されたのが、この超絶無敵大要塞バンギランドなのである。
監視と封じ込めと言っても、かれこれ200年もの歴史がある。戦いばかりがあったわけではない。火の民との交流もあったし、文化の一部は彼らにだいぶ感化されている。複数ある部族のうちの幾つかとは政略結婚などもあったわけで、騎士王国の南方では、火の民の血がかなり混じっている。
ただでさえ身体能力のぶっ壊れたデルドオ騎士に、血気盛んな火の民の血が混ざることで、ハイブリッド戦闘民族が誕生した。バンギランドがぶっ飛んだ実力者揃いというのは、まぁ、そうした経緯による。
「ちなみに、私にも火の民の血は入ってきています」
10トントラックの助手席で、アリアスフィリーゼ姫騎士殿下がそんなことを言った。ショウタは目を丸くした。
「初耳ですよ?」
「父方のお爺さまが、バンギランドのクレセドラン家から、王室へ養子に入ったのです。クレセドラン家は、火の民との政略結婚をより積極的に行ってきた家ですから、私も少なくとも十分の一くらいは、彼らの血が入っているのではないでしょうか」
「へぇ……」
王族騎士はもともと屈強なデルドオ騎士の血を取り入れていた家系らしいので、彼女の実力は、それも相まってということなのだろう。
ともあれ、そんなバンギランドに、ショウタ達は今向かっているのだ。
東京で過ごした1週間。こちらの世界では3週間。
その3週間にうちに、この騎士王国はどれだけの変化を遂げたのか。ショウタ達はそれを知りたかった。蛇型の魔物に襲われていた騎士達を救い、そしてそれを助けに来た勇者達と合流し、今は騎士達の先導に従って草原を南下している。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん」
アリアスフィリーゼの膝の上に座った少女が、彼女の頭を見上げて言った。
彼女がその勇者だ。勇者メロディアス・フィオン。光の剣を授かり、大陸全土を巻き込む冥獣王との戦いに身を投じた、全人類の勇気の代弁者である。が、ショウタとアリアスフィリーゼにとっては、まだ10歳ばかりの小さな少女に過ぎない。
「竜人信仰の竜人って、つまり、お爺ちゃんみたいな?」
「そうですね。“勇者の後見人”シュランツ老は、典型的なドラゴニュートです。シュランツ老のように、人間社会に溶け込んで生きている竜人は、そう多くないと聞いています」
「そうなんだ。せっかく南に行くんだから、お爺ちゃんもついて来れば良かったのに」
シュランツ老は、現在王都に滞在中であるという。メロディについてやってきたのは、勇者のパーティメンバー。いわゆる“勇者御一行様”という奴だ。彼らはさすがに座席には座れないので、荷台や運転席の屋根の上に座ってもらっている。
「竜人と言えば、カローラの奴もそうじゃ。あいつはワンポイント型じゃな」
「うわあっ!?」
ひょっこりと、銀髪の少女が窓の横から顔を降ろしてくる。ショウタは危うくハンドル操作を回しかけた。
「ジャロリー、カローラって誰?」
アリアスフィリーゼの膝の上で、メロディが尋ねる。
銀髪の少女は、マスター・ジャロリーと言った。勇者御一行様の一人だ。ショウタもまだ、彼らの顔と名前をよく把握していない。一人だけ、強烈な獅子頭の男がいたので、それだけは覚えているのだが。
マスター・ジャロリーは、その幼い顔で得意げに笑いながらこう言った。
「カローラは儂と同じ、大陸三大賢者のひとりじゃ。帝都に住んでおってな。竜人の癖に、非常に人間よりの考え方をする変わりものじゃよ」
賢者、というからには、このマスター・ジャロリーは魔法使いなのだろう。
「ワンポイント型っていうのは?」
「竜人の細かい人種別けに使う。全身が人間に近くて、角や尻尾、場合によっては目だけなどが竜の形をしているものを、ワンポイント型と言うんじゃ。シュランツもワンポイント型じゃな。逆に、全身がほとんど竜のような姿をしているタイプは、ドラコフェイス型という」
へぇー、と運転席の3人が唱和した。
なんというか、ほんの数時間前までは日本の山奥にいたはずだし、24時間前は殿下と師匠とバラエティ番組を見ていたはずなのだが、世界がひとつ変わるだけで得られる情報がまるきり違うものだ。やはりファンタジー世界に戻ってきたんだなぁ、とショウタは実感する。
正直、頭を切り替えるのは大変だ。実際、今自分はこうして10トントラックの運転席に座っているわけだし。
「しかしこれは便利な乗り物じゃのう」
ジャロリーは相変わらず、だらんと頭を垂らしたまま言った。
「異世界の乗り物とはのう。どういった原理で動いているのか、実に興味はあるが……。まあ、儂の得意分野ではないかの」
「ちらちら見ないでくださいよ。僕だって原理を口で説明できるわけじゃないんですから」
ショウタは唇を尖らせながら言うが、半分は嘘だ。いずれこのトラックも燃料が尽きるし、そうなったとき、地力で“なんとか”できるように、トラックやバイクの駆動原理について書かれた本が、荷台には積まれている。
「俺様はあんま好きじゃないぜ、こういうの」
荷台の上の方から、そんな声が聞こえてきた。野太い男の声だ。
「マグナムだよ」
アリアスフィリーゼの膝の上で、メロディがそっと教えてくれた。
マグナム。獅子王マグナム。確か、そのように呼ばれていた。
獅子王というのは、冥獣七王の一人であったように、ショウタもアリアスフィリーゼも記憶している。冥獣神の配下にして、世界を震撼させる強大な魔王。メロディが、ショウタ達と最初に出会ったのも、この獅子王に大敗を喫した、その直後だったはずだ。
彼がその獅子王であるとすれば、何故、メロディと行動を共にしているのだろうか。
それがまったく理解できない。と、言うわけでは、ないのだが。ショウタの頭の中には、割と少年マンガ的な方程式が出来上がっていたりするのだが、果たしてそれが正解であるのかというと、
「マグナムはね、あたしと戦って、負けて、それから仲間になってくれたの」
正解らしい。
「人間の持つ勇気の素晴らしさに感動したんだって」
「なるほど、実に良いお話ですね」
アリアスフィリーゼは力強く頷いている。
「そういう人って、だいたい途中からパワーインフレについていけなくて咬ませ犬化する気がするんですけど、大丈夫なんですかね……」
「よくわかんないけど、体力が一番あるから、よく盾になってくれるよ」
「完全にワニの人のパターンじゃないですか……」
ともあれ、獅子王マグナムは、今はメロディの仲間らしい。
戦士ポジションが獅子王マグナム、魔法使いポジションが賢者ジャロリー。メロディのパーティには、確かもう一人いたはずだ。ショウタの思い描くファンタジーでは、だいたいそこには聖職者ポジションが収まるはずなのだが、ぱっと思い出せる限りでは、やたらと酒臭いアル中気味のお姉さんがいたような記憶しかない。ひょっとして、シーフとかスカウトとかエクスプローラーとか、そういった職業の人なのだろうか。
いや、しかし着ていたのはカソックに見えるしなぁ、とショウタは考える。
「うおおおッ! 汚ねぇっ! おい、シャリオの奴がゲロ吐いたぞ!」
荷台の上でマグナムが騒ぎはじめた。首を降ろしていたジャロリーも、それを引っ込める。
「む、いかんな……。寝ゲロではないか。だから飲みすぎてはいかんと言ったのに。聞かん奴じゃのう」
「おいジャロリー、どうすんだこれ」
「とりあえずさかさまにしてゲロを喉から取り出さんことにはな。窒息しかねん」
赤ん坊の世話か、とショウタは思った。
「な、なかなか個性的なパーティメンバーなのですね……」
アリアスフィリーゼもちょっとヒいている。
「あー、うん。えっとね、シャリオは、聖都フィアンデルグの巫女さんだよ。大聖女シャリオって言ってね……」
「ああ、やっぱり聖職者なんですね……」
「趣味は寝ることと飲むことと打つことだって言ってたよ」
とんだ聖女もいたものだ。
ともあれ、話を聞いていく内に、だいたいのことはわかってきた。
10歳ばかりの少女勇者メロディアス、言葉づかいの年寄り臭い賢者ジャロリー、人間側に寝返った獅子王マグナム、アル中寝ゲロ聖女シャリオ。この4人が、世界を救う勇者様御一行であり、咬蛇王の侵攻を受けているこのグランデルドオ騎士王国にやってきた、人々の希望の光なのである。
「(キャラが濃過ぎる……)」
ショウタは、こっちの世界に戻ってきてからまだ数時間だというのに、どっと疲れてきた。
「姫騎士殿下……」
「なんでしょうか」
「戻ってきて早々ですが……。バンギランドについたら、ちょっと休みたいです」
このまますぐに状況説明などを受けると、情報過多で頭がパンクしてしまいそうだ。まずは一度、頭を休める機会が欲しい。
「バンギランドには温泉がありますよ」
「ああ……。そりゃあいいですね。是非とも、ゆっくり浸かりたいです……」
ショウタが顔をあげると、ヴァンガーブ火山連峰、竜王大火山の頂にそびえる超絶無敵大要塞バンギランドの威容が、ますます圧迫感を伴って、近づき始めていた。
勇者様御一行と一緒に、姫騎士殿下までやってきたのだから、バンギランドの騎士たちも飛び上がるくらいに驚いた。『本物か?』と疑う声もあったが、幼少期をバンギランドで過ごした彼女の顔を知る者は多かったし、何より彼女の掲げた三日月宗近が、何よりの身分証明となっていた。ちなみに一番驚いたのは、この世界に戻ってきてから最初に遭遇した騎士達である。姫騎士殿下だと知らずにタメ口を効いていたわけで、真っ青になっていた。
困惑する騎士達を前にアリアスフィリーゼが発した言葉が『お風呂に入りたいです』だったので、ひとまず勇者様御一行も合わせて、彼らはバンギランドの大浴場へと案内されたのである。
そう言えばあれから、こちらの時間で3週間だ。顎部を骨折したルカ・ファイアロードは、元気にやっているだろうか。脱衣場で服を脱ぎながら、ショウタはそんなことを考える。
脱衣場には籠が大量に置かれているだけで、カギ付きのロッカーのような気の利いたものは当然なかった。やや不安に思いながらも、ショウタは籠に衣服を放り込んで、素っ裸になる。
「随分と貧相な身体だな」
「うおっ……」
ぬっ、と顔を見せた獅子頭の大男を前に、ショウタは思わずのけぞってしまう。
「あーどうも、マグナムさん。初めまして。ショウタ・ホウリンと申します」
「獅子王マグナムだ。メロディの奴が世話になったらしいな」
言いながら、マグナムも服やら鎧やらをガチャガチャと脱ぎ出す。
「詳しい話をまだしていないので、おぼろげにしかわからんのだが。おまえは異世界の出身で、今まであのお姫さんと一緒に、一度異世界に戻っていた、ということで良いのか?」
「だいたい、そんな話になります。まぁ、その辺のことは、お風呂から上がったらまたすることになるんでしょうけど」
マグナムの体躯は2メートルを越えている。たてがみが大きいから、なおさら巨大に見えるのだろうか。筋骨隆々の肉体が、巨大な頭部とのバランスをキッチリ取っている。
ちらっ、と視線を移してみると、マグナムは股間のイチモツも立派なマグナムだった。冥獣王に生殖器官は必要なのだろうか、という、割とどうでも良い疑問が鎌首をもたげる。
「おまえの方も、体格相応の貧相な大きさだなぁ」
「いーんですよ。普段から大きくても困りますし。日本人は膨張率が……いえ、そんなのどうだって良いんですけど」
今までずっと姫騎士殿下と行動を共にしていたから、こういう下らないトークをするのも久しぶりだ。
いや、日本に戻った時、チャーリーと少し話す機会があったか。彼ともこういう話はよくしたものである。
「バンギランドの浴場には、いないんですね。垢すり係とか」
「なんだ、おまえの世界にはそんなのがいるのか?」
「いえ、僕の世界じゃなくって、王都の浴場の方ではね……。あれ、落ち着かないからいない方が良いんですけど……」
王都にいた頃は、王宮に備え付けの浴場を、ショウタは使わせてもらっていた。貴族が使う共通浴場だったので作りは贅沢だったが、常に垢すり係が待機していて、しかもそれが綺麗なお姉さんだったりするからショウタとしては全く落ち着かなかった。自分の身体は自分で洗いたいもんである。日本人として。
ちなみに王族が使う浴場は更に専用のものがある。本人付きのメイドさん達が、何から何まで全部やってくれるので、王族が王宮で自分の身体を洗う機会というのはほとんどないらしい。わざわざ王宮で、と断ったのは、城をこっそり抜け出して外でヤンチャをやっている時は、もちろん自分で洗うしかないからだ。アリアスフィリーゼはそうした経験も豊富なので、日本の風呂を使わせた時もそこまで手はかからなかった。
浴場に足を踏み入れると、岩盤をくり抜いただけの大きな浴槽に、温泉が引かれているだけの、至極単純な作りになっている。
さっさと身体を洗ってしまおう、と思ったが、石鹸もなければタオルもないことに気付く。まぁ、そう汚れている身体でもないし、さっさと湯船に浸かってしまうか。
ショウタが浴槽に身を沈めると、さばん、と湯があふれて浴室の床を濡らす。元の世界でもシャワーで済ませていたから、こうして暖かいお湯に全身で浸かるというのは久しぶりだ。身体の芯から暖まるし、落ち着く。ショウタはそのまま天井を眺めた。
こうやって身体を落ち着けると、様々なことを考える。
ルカ・ファイアロードのこともそうだが、彼女に限ったことではない。
キャロル・サザンガルドやトリル・ドランドランは、その後果たしてどうしただろうか。
コンチェルト・ノグドラは、要塞に咬蛇王の部下を招き入れたことについて、責任を追及されてはいないだろうか。
壊滅的な被害を被ったアメパ堰堤要塞は、きちんと再建できているだろうか。
王都は無事だろうか。バンギランドの騎士の反応を見るに、アリアスフィリーゼが行方不明になったという事実は、公にされていないように思える。つまり、みっちゃんあたりが姫騎士殿下の影武者として、王都で執務に励んでいるということになる。彼女や、ウッスア宰相や、騎士王陛下は、どうしているだろうか。
こうしてみると、王国を不在にしていた3週間は、やはり長かったように思える。
知らなければならないことは、たくさんあるわけだ。
「ショウター!!」
壁を挟んで向こう側から、やけに弾んだアリアスフィリーゼの声が聞こえてきた。あちら側は女湯だ。
この騎士王国の入浴文化に、きちんと男湯と女湯の概念があったことは、ショウタにとっては朗報だった。ここに仕切りがなかったら、彼の心が休まる瞬間はなかったことだろう。
「そちらの湯加減はどうですかー!?」
「いい具合です、姫騎士殿下」
「それは良かったですー!!」
何をそんなに楽しそうにしているのか。
獅子王マグナムがニヤニヤ笑いながらこちらを眺めてくるので、ショウタは少し居心地が悪い。
「小僧、ずいぶんと姫さんと仲が良いんだな」
「ええ、まあ、おかげさまで」
「大丈夫か? そんなに小さくて」
「今んとこ使う予定もないんで……」
壁の向こうから『何の話ですかー!?』という元気な声が聞こえてきたので、ショウタがどう答えたものか迷っていると、しばらくの沈黙の後に『あっ、ご、ごめんなさい……』という慌てた声が聞こえてきた。
「シャリオの奴がなんか言ったかな」
「なんかってなんですか。余計なことじゃないでしょうね」
「勘ぐるなよ。あいつは聖女様だぜ」
「お酒飲んでゲロ吐くような、でしょ……?」
冷静に考えると、そのような聖女を勇者様御一行に同行させるのは、メロディの情操教育に著しい悪影響を及ぼす気がするのだが、どうだろうか。
他のメンバーも、いまいち教育に良い連中とは考えづらいし。強いて言うならジャロリーが一番まともそうだが、あの一見メロディと大差のない年齢の少女は、果たして実年齢幾つなのだろう。だいたいああいうのは、300年だか400年だか生きているのが、ファンタジー世界の常識であるような気がするのだが。
「小僧、おまえ幾つだ?」
「16です。あ、でももう17になってるような、なってないような」
「曖昧だな」
「時間の流れが違うんですもん」
誕生日は9月なので、元の世界の流れで言えばまだ17歳になっていない。が、7月に最初のトリップをして、そこから3ヶ月こちらの世界で過ごしたのだから、肉体年齢的にはもう17歳になっていてもおかしくはない。こういうのはどちらで計算するべきなのだろうか。
「マグナムさんは?」
「わからんなぁ……。封印されていたのが200年だが、意識があるのはほんの30年ちょっとじゃねぇか。ジャロリーの奴は300年だか400年だか生きてて、シャリオがいくつだったかな。24、5歳だ」
「年齢バラッバラなパーティですねぇ……」
二人が湯船に浸かってそんな話をしていると、脱衣場の方から元気な声が聞こえてきた。
「お兄ちゃーん!」
メロディアスの声である。
「お兄ちゃーん。あたし、お兄ちゃんと一緒に入るー!」
「僕だけじゃなくてマグナムさんもいますよー」
「えっ……。じゃあ良い……」
肩まで浸かっている獅子王マグナムが、露骨に落ち込むのが見て取れた。
ひょこっ、と、脱衣所から、メロディが顔だけ出す。少女は愛らしい顔をぱっと明るくさせると、こう言った。
「うそうそー。マグナムも一緒に入ろう。ねー?」
マグナムの顔が、一気に活力を取り戻すのが見て取れた。
そのまま、すっぽんぽんの勇者メロディアスが、大浴場の男湯に入ってくる。10歳、というのは、男湯に入れて良いギリギリのラインと言えるのだろうか。ショウタはそうした趣味は一切ないので、まったくもって気にしないのだが。どちらかといえば、これくらいの年齢の女の子の方が、気にして然りだと思う。
「メロディ、浴室であんまり走ると転びますよ」
「だいじょぶだいじょぶ! あたし勇者だから……ひゃっ!?」
言った傍から、足を滑らせて転倒しそうになるメロディを、ショウタは念力でつなぎとめる。
「ほうら、言わんこっちゃない」
「えへへ……。ごめんごめん。ありがとね」
照れくさそうに笑ってから、メロディは湯船に入り込んでくる。そのまますとん、とショウタの膝の上に座り込んだ。
薄桃色の髪、というのはこちらの世界特有だ。突飛な色合いだとは思うのだが、なぜか、あまり違和感を感じない。髪を撫でてやると、メロディは目を閉じて身体をあずけてきた。
元の世界に帰ったときも、結局妹には会わなかったな、という気持ちになる。母親と顔をあわせるのは気が思いが、妹くらいになら、会っても良かったかもしれない。
そんなことを考えているとだ。
「ショウタ……!」
壁の向こうから、驚愕に充ちた声が聞こえてくる。
「まさかそちらに……メロディがいるのですか……!?」
「いますよー、姫騎士殿下」
メロディの薄桃色の髪を撫でてやりながら、ショウタは答えた。
「………ッ!!」
何かを猛烈に悔しがる気配。『くっ』という声が、小さく響くのがわかった。
しばらくの沈黙がある。が、その後、アリアスフィリーゼは何かを決意したように、このような声をとばしてきた。
「わ、私もそっちに行って良いですか!?」
「良いわけないでしょ!!」
先ほどまで考えていたことが一気に吹き飛ぶ。膝の上でメロディが、びっくりして飛び跳ねた。




