【CHAPTER:04】 第49話 大瀑布五秒前!!
前回掲載日から日が空いたため、『各話あらすじ』を第一部分に掲載しています。
話を忘れちゃった方は復習がてらにどうぞ。
「余はもったいぶった言い回しがそう好きではないのでな。結論から言おう」
グランデルドオ騎士王国、王都デルオダート。その宮殿の大会議室に集まるは、そうそうたる顔ぶれであった。着席する歴々の背後に大きく掲げられた紋章が、それぞれの家柄を表している。騎士王セプテトールをはじめとして、伝統騎士、貴族騎士問わず、各地を治める有力者たちが一同に会した形となる。
持病をおしてまで会議の場に就いた騎士王を慮る視線が、方々から飛んでくる。顔色は決して悪くないが、その表情は苦々しい。騎士王陛下は、宰相ウッスアより手渡された一枚の書状を、厳かな声で読み上げた。
「北方アメパ堰堤要塞との連絡が途絶えた」
ざわ。
一同の間に動揺の声が広がる。騎士王セプテトールは、それを予想していたかのように深いため息をついた。
グランデルドオ騎士王国には、四方を守護する大要塞が存在する。すなわち、東方ランクルス運河要塞、西方マーリヴァーナ要塞線、北方アメパ堰堤要塞、そして南方超絶無敵大要塞バンギランド。いずれも騎士王国に古くから仕える伝統騎士の四大家がその城代を命じられ、勇猛果敢なる騎士たちを率いて各方面の守りを強固なものとしている。
この場にも、マーリヴァーナ要塞線の統括責任者である〝騎士将軍〟アンセム・サザンガルドが着席している。あいにく、ランクルス運河要塞の〝騎士参謀〟エコー・リコール、無敵大要塞バンギランドの〝騎士剣聖〟ゼンガー・クレセドランは本人の都合が立たなかったものの、それぞれの代理人が、書状をもって会議の席に就いていた。
「それは、陛下」
王国西部の広大な荒野を治める大領主、ゴンドワナ侯爵が声をあげた。
「アメパが何者かの侵入を許したということでしょうかな」
「順当に言えばそうだが、何か?」
「いえ……、」
貴族騎士の中でも、魔法推進派の中核として知られるゴンドワナ侯爵である。その含みを持たせた言い方に、列席した多くの伝統騎士が棘のある視線を向けた。
「貴公のことだ。コンチェルトの翻意を疑っているのだろう」
腕を組んだまま坐する騎士将軍アンセムが、重みのある声で牽制する。
コンチェルト。アメパ堰堤要塞を統括する〝騎士提督〟コンチェルト・ノグドラのことである。養父であるトオン・ノグドラの亡き後、家督を継いだのが数年前。現在、四大伝統騎士家の当主としては最年少にあたるが、アンセム、エコー、ゼンガーの3名に勝るとも劣らぬ〝戦略級騎士〟としてもその名を知られる。
ゴンドワナ侯爵は小さな笑みを浮かべた。
「恐れながら。騎士提督殿は、元は奴隷出身であったと聞きます。元よりその忠誠には疑わしいところがございましたが……」
「口を慎まれよ、サー・マーキス・ゴンドワナ」
アンセムがぴしゃりと言う。
「それ以上は、コンチェルトのみならず、我が友トオンの名をも貶めることになる」
「しかし将軍殿、敵の侵攻を許したとしても、これは大問題ですぞ」
「左様。忠誠云々以前に、提督殿の能力が問われる事件なのでは?」
ゴンドワナ侯爵のシンパ、すなわち魔法推進派に属する貴族騎士たちが、次々と声をあげる。
論争の火種はそれで十分であった。次に何人かの伝統騎士が立ち上がり、能力云々を言うのであれば、アメパにて試験的に運用されていた魔法騎士団の存在はどうなるのか。貴族騎士の息がかかった彼らが、本来あるべき連携に支障をきたす原因となったのではないかと指摘する。
当然貴族騎士たちも黙ってはおらず、言いがかりも甚だしい。そもそも部下の能力をきちんと把握し、運用できずして何が騎士提督かと、イヤミたっぷりに言いかえし始める。議会はすぐさま、喧々囂々とした様相に陥った。
「静まれ!」
宰相ウッスア・タマゲッタラが一喝を入れる。みっともない大人同士の喧騒が、ぴたりと止んだ。
「騎士王陛下からのお言葉がある!」
「うむ」
騎士王セプテトールは、小さく咳払いをしたのちにゆっくりと立ち上がる。
「コンチェルトの能力、忠誠について是非を問うつもりは余にはない。貴公らもそれはわかっているであろう。今重要なのは、『北方アメパ堰堤要塞との連絡が途絶えた』という一点のみだ。アメパの持つ戦術・戦略的重要性については今更語るまでもない。良いか。我々は今、喉元に刃物を突き付けられた状態であると自覚せねばならんのだ。貴公らにはそれを理解し、下らぬ紛糾をひとまず置いて事態の解決に向けた前向きな議論を行うだけの能力があると余は考えていたのだが、違うかね?」
厳かに、しかしハキハキと語る騎士王を前にして、異を唱える騎士はこの場にはいない。彼らは一部の豪胆な騎士たちを除けば、一様に視線を落とし、目をそらし、騎士王が言外に匂わせるかすかな苛立ちに触れまいとした。
「よろしい」
騎士王は静まり返った議会をぐるりと見渡す。
「では、これより都市防衛指令を発令する。アメパが悪意ある第三者によって陥落していた可能性を考慮し、もはや一刻の猶予もないと思え。良いか、貴公らもわかっていることであろうが、」
そこで言葉を区切り、その場に集った騎士達の心根に浸透させるべく、改めて続きを口にした。
「もしも敵が気まぐれを起こしたら、今にでも王都は壊滅するのだ」
Episode 48 『大瀑布五秒前!!』
FATAL PRINCESS of the KNIGHT KINGDOM
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「しかしまぁ、治るもんですねぇ」
右腕の握ったり開いたりを繰り返しながら、ショウタは感心したように言った。そのまま、ちらりとテーブルに置かれたカラ瓶に視線を向ける。
「しかも、そんな怪しげなクスリで……」
「なんだよ」
むすっとした顔で応じたのは、サウン・ブラウンだ。
王宮の一室、普段は商人が出入りするスペースである。自室でくつろいでいたところ、客人であると呼ばれたのも驚いたのだが、向かった先にサウンと姫騎士殿下が談笑しているのにも驚いたし、当のサウンがひと目見て彼女と気づかぬほどめかし込んだ格好をしているのにも驚けば、瓶に入った怪しげな液体を差し出してきたのにも驚いた。
まぁ、一番驚いたのは、恐る恐る飲んでみたその液体の効能で、右腕の骨折がすっかり治ってしまったことである。ショウタの常識からして、にわかには信じられない話なのだ。
「帝国の魔法都市で開発されたという疑似霊薬ですね」
アリアスフィリーゼ姫騎士殿下は感嘆も露わにそう言った。ショウタは首を傾げる。
「そんなのあるんですか?」
「私も噂に聞くばかりでしたが、現にショウタの腕が治っておりますので、事実だったのでありましょう」
「しかしなんだってまたそんなものを」
当然の疑問を口にすると、アリアスフィリーゼもまた首を傾げる。二人は同時に仲良く、サウンの方を振り向いた。
「悪いかよ」
サウンはばつが悪そうに視線を逸らした。そうそう、ついスルーしてしまったが彼女の格好も格好だ。
ショウタと姫騎士殿下の認識では、サウン・ブラウンは王都を騒がせた少年窃盗団〝グラスイーグル〟のリーダーであり、年頃の少女らしからぬ粗野な言動が目立つ娘だった。格好も、日に焼けた素肌を、布地の薄い肌着じみた半袖で覆っている程度のもの。王都においてはそう多くない、貧民層の出身を思わせた。
ところが、今日のサウンはまったく違う。上質な絹を用いた白いドレスは、王宮内でもまったく悪目立ちをしない自然なもので、彼女の凶暴な気性をよくカムフラージュしていた。
馬子にも衣装。
ショウタの脳裏をよぎった諺は語るまでもなくそれである。ややうねり癖のあるショートヘアと、ネコ科の猛獣を思わせる双眸、あとドレス越しにもよくわかるガニマタが、辛うじてサウンであることをショウタ達に教えてくれる。
「親父が持ってけっていうんだよ。世話ンなったからって」
「サウンの御実家がブラウン商会だと伺った時にはかなり驚いたものです」
姫騎士殿下は大真面目に頷いた。
「いいとこのお嬢様が、不良少年のリーダーですか。わかりやすい話ですねぇ」
ショウタもしみじみと呟く。
ブラウン商会というのは、王宮への出入りが許される王認付き大商会のひとつである。毎週バザーを執り行う大陸商会ギルドとも深い繋がりがあって、まぁ要するにショウタの言う通りの『いいとこ』なわけだ。
よもやサウンがそこの娘さんであったとは、なんとも出来すぎたような奇縁ではある。
ただ、当のサウンが実家のことを快く思っているかというと、そうでもないようで、
「わかりやすくて悪かったな。アタシにとっちゃ複雑な事情なンだよ。兄貴が家督継がないで家出したから、全部しわ寄せがこっち来るしさ」
「理由はなんであれ、あまり親父さんに心配をかけてはいけませんよ?」
「わかったよ……。気をつけるって」
今日のサウンはおとなしい。慣れない服を着ての気恥ずかしさがあるのかもしれない。
ショウタもこう見えて相当やんちゃをしてきた少年である。似たような人間だと思っていたサウンの予想だにしなかった側面を見ると、どうも茶化してやりたい気持ちで一杯になるのだが、今回は擬似霊薬を譲ってもらった恩もあり、勘弁して差し上げることにした。
しばらくすると、でっぷりと肥えた商人らしき男が部屋に入ってくる。サウンのことを『お嬢』と呼ぶその男は、アリアスフィリーゼとショウタに気づくや深々と礼をして、揉み手擦り手で『どうぞ今後ともブラウン商会をご贔屓に』と言った。
「なんだアルドー、もう帰る時間か」
「はい。陛下とお話をしたかったのですが、どうも大切な会議中のようです。日を改めてですな」
「ああ、そいつぁ助かる。さっさとこんなとこ帰りたかったんだよ。ジンマシンが出るぜ」
ドレスの背中に手を突っ込みながら、サウンが言う。
「てなわけで帰る。邪魔したな。これで貸し借りナシだかんな」
「あ、ハイ。また来てくださいね」
「もう来ねぇよ」
吐き捨てるような台詞と共に、不良少女は出て行った。その背中をしっかり見送ってから、ショウタは頷く。
「あれはまた来ますね」
「本人はもう来ないと申していましたが」
「ああいう手合いの友人は昔から多かったのでわかります。また来ますよ」
かつてのチンピラ仲間たちを、しみじみと思い出す。深い交流があったのはその中でも2、3人程度だが、まぁどいつもこいつもあんな感じの素直ではない連中だった。王宮暮らしも数ヶ月になってくると、周りにはお上品な人間しかいなくなるから、ちょっぴり懐かしくも思う。
「ショウタは、サウンのことをよくわかっているのですね」
不意に、そんなことを言われた。言葉の中にちょっぴり棘を感じる。
何故か、必死に取り繕わなければならないような気がした。
「えっ、いやまぁ、ほら、似たような奴が知り合いだったっていう、だけの話でしてね?」
「私がそういうことを言っているわけではないのは、ショウタならわかるはずです」
「あ、ハイ」
ショウタは師匠とは違う。他人の思考領域に意識のチューナーを合わせるなんて器用なことはできない。
が、姫騎士殿下はそういうことを言っているわけでもない。見れば、美しい刀剣を思わせる殿下の横顔が、妙にぷくうっと膨れているような気がした。白くきめ細やかな頬の皮膚は、空気を蓄えて餅か風船のようになってしまっている。機嫌が悪いのは一目瞭然だった。
「えぇと、殿下、ひょっとしてヤキモチを焼かれてます?」
「はい。ちょっぴり」
「なんかすいません……」
「いえ、良いのです」
膨れっ面のまま、殿下は言った。
「私ももっとショウタに理解してもらえるよう努力します」
「あ、ハイ。こっちも努力します」
「まぁ、仕方ありません。何せ、ずいぶん長いことショウタと言葉を交わしてこなかった気がします」
そこでようやく、殿下の言葉から険が取れる。ショウタはほっとした。
「まぁ、一週間くらい口利きませんでしたしねぇ」
「いえ、そういうことではなく」
「?」
別に仲違いというわけでもないのだが、地下水道での事件が終わってからしばらくの間、ショウタとアリアスフィリーゼの仲はぎこちなかった。どちらが悪いかと言えば、それは間違いなく自分の方だろうという自覚がショウタにはあるため、なんとも気まずい思いをしたものである。が、それは最終的に、『殿下はワンカウント』という言葉によってなんとか和解を迎えた。
何がどうワンカウントなのかは秘密だ。カウンターの目盛は、ショウタ的には未だゼロを指したままであって、これが動く日が来るのかどうかはまだわからない。
「ともあれ、ショウタの腕が元に戻って良かったです。これも元はと言えば、私を助けるための傷でしたから」
「あー、そうでしたねー。袈裟懸けは怖かったですねぇ」
「もう二度とあんな無茶をしてはダメですよ?」
そう言ってアリアスフィリーゼが手を取ってきたので、ショウタは思わずどきりとしてしまう。どうにもこの人の手の感触というか、しっとりと濡れたやわらかい感触は、慣れるものではない。
「でも、無茶の話をするなら、殿下も相当……」
「私とショウタでは身体の作りが違います。ショウタの故郷では、骨折を治すのにも数ヶ月かかるものなのでしょう?」
「こっちでは違うんですか?」
尋ねると、姫騎士殿下はショウタの手を取ったまま豊かな胸を逸らす。
「少なくとも私は、ツバをつけて美味しいものをしっかり食べればだいたい一晩で治ります」
「殿下のツバですか」
神妙な顔で、ショウタは反芻した。確かに擬似霊薬よりも効きそうだ。だが同時に劇薬のような気もする。
それにしても殿下のツバか。
「もし殿下が擬似霊薬を服用したら、やっぱもっと凄い勢いで治ったりするんですかね」
このままでは延々とアリアスフィリーゼ姫騎士殿下の唾液に思いを巡らせそうになるので、ショウタは強引に話題を転換させることにした。
そんな彼の胸中を知ってか知らずか、姫騎士殿下はにこりと笑う。
「ああ、あれはそんなに便利なお薬ではないのです」
あの擬似霊薬は、服用者の体内に循環する魔力を治癒力の補填に使用するという仕組みのため、殿下のような王族騎士や、大半の伝統騎士にはその効果がほとんど無いらしい。彼らの場合は、殿下の言葉通り大半の傷を一晩で癒してしまうためどのみち大して意味はないのだが。
また、本来時間をかけてゆっくり治せるものにしか効果がないため、致命傷を癒すこともできないのだとか。確かに、意外と不便な薬だ。
「戦略級騎士ともなると、千切れた腕を糊でくっつけると翌日には元通りになっていたりするそうです」
「それ本当に人間ですかね!」
国内に数名いるという戦略級騎士の一人には、ショウタも会ったことがある。西方マーリヴァーナ要塞線の、アンセム・サザンガルド将軍だ。その実力の一端は確かに目の当たりにしたことがあるが、『確かに腕を糊でくっつけたりしそう』というよりは、『そもそも怪我とかしなさそう』というのが正直な感想だった。
あんなのが他に数人いると考えるのは、実に恐ろしい話だ。
「北のアメパ堰堤要塞を治めるコンチェルトなどは、全身に傷痕があるので、みんな最初からそうだったわけではないと思うのですが」
「なんだってまたそんな人間離れした能力になるんでしょうね」
「日々の訓練の賜物でしょうね」
「納得できないんですけど」
自分がインテリだと主張するつもりのないショウタだが、正直なところこの国の一部の騎士達には、〝脳筋〟という言葉でも物足りない壮絶な鍛錬至上主義が見られる気がする。
「南のバンギランドでは、マーリヴァーナ騎士も震え上がると言われるほどの過酷な訓練が行われていますが、そうした鍛錬が強靭な肉体を作ることは実証されていますよ?」
「バンギランドのゼンガーさんって、殿下のお師匠さんでしたっけ」
「はい。月鋼式戦術騎士道の現師範です。私も幼少時はあそこで剣を学びました」
「ああ、通りで……」
殿下のフィジカルもぶっ飛んでいるわけである。
「これから夏季に入ると、火山竜の活動でバンギランドに繋がる街道は溶岩流で遮られてしまうのですけれど、そうなる前に一度行ってみましょうか」
「そんな壮絶な場所で殿下は幼少時を過ごされたんですか……」
「慣れれば大したことはありませんよ。夏はマグマ・サーモンも美味しい季節ですから」
ショウタだって、それなりに他人とは外れた特殊な人生を歩んで来たつもりなのだが、アリアスフィリーゼの話を聞いているとだんだん自信がなくなってきてしまう。
「そう言えば、」
と、殿下はふと思い立ったように顔を上げた。
「どうしました?」
「いえ、そのクレセドラン家の家紋がついた馬車を今朝見たものですから」
「ああ、僕も見ましたよ。サザンガルドの紋章がついた馬車」
「ではキャロルも来ていますね。アンセムが一人で来る時は自分の足で飛んで来ますから」
その言葉が果たしてどこまで比喩でどこまで言葉通りの意味なのか、深く考えるのはやめておく。
オーク討伐合宿の頃から王都周辺を襲っていた連日の豪雨もようやく収まり、それとほぼ同期するかのように、各地の貴族騎士や伝統騎士が王宮に馬車で乗り寄せていた。騎士王陛下と宰相ウッスアも朝から大会議があると言っていたので、その会議に合わせて招聘されたのであろうとは思うのだが。
「……少し、気になります。何かあったのでしょうか」
「何かって?」
「使いとはいえ、四方を守護する大要塞からそれぞれの領主を呼び寄せるなんて相当な大事だと思うのです」
殿下は形のいい顎に手をやって考え込む。
「みっちゃんあたりは何か知っているかもしれません。聞きに行きましょう」
しまった、悪い病気が出て来たな。ショウタは思った。アリアスフィリーゼ姫騎士殿下は正義感の強いお方だ。国や民に何かあろうものなら、居ても立っても居られなくなる。今までも散々、それに振り回されてきたわけである、が、
「あのう、殿下」
勇んで部屋を出ようとする殿下に、ショウタはおずおずと切り出す。
「なんでしょう」
「あの、いつまで手を握ってるんでしょう」
まるでぴったりと同化したかのように感覚が薄らぐ手を見ると、姫騎士殿下は振り返った姿勢のまま、にこりと笑った。
「もうしばらくこのままで行きましょう」
近衛騎士のひとりがいきなり壁を殴りつけたので、ちょっと驚いた。




