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騎士王国のぽんこつ姫  作者: 鰤/牙
第一部 勇ましきあの歌声
23/91

   第21話 因縁200年

 女騎士キャロルの言葉は、食堂にわずかな混乱の種を落とした。


 当然と言えば当然だ。彼女は珍しく食堂に出現した貴族騎士ノブレスにいきなり声をかけ、喧嘩をふっかけたに等しいのである。食堂にいる伝統騎士トラディション達の反応は真っ二つに割れた。

 普段から、貴族騎士ノブレスに対して不満を募らせており、キャロルの挑戦に対して肯定的な様子を見せ、はやし立てる者。

 そして、キャロルの騎士隊長ルテナントという立場からすれば、あまりにも軽率な発言を咎め、不用意に争いの種を蒔くべきではないとする者。


 当のアイカはどちらに恭順を示す様子もなく、ただスプーンを片手に硬直し、滝のごとく流れる汗を根菜のスープに落としていた。そろそろショウタも心配になってきた様子で、そっとスープを彼女のもとからずらす。味を確認しようとし、何かを思い出したようにアイカの顔を見てから、慌ててスプーンをしまった。


 そうした周囲の動きなど、一向に気にした様子もなく、キャロル・サザンガルドは言う。


「何、そう深い意味があるわけではない。これは騎士として正式な〝決闘〟の申し込みではないのだし、単に貴公の実力に興味が沸いただけだ。夜の訓練では模擬戦の場もあるにはあるのだが、基本、伝統騎士トラディション貴族騎士ノブレスと剣を合わさせてもらえない」


 そうして語るキャロルは、目元と口元を緩めてニコリと笑った。爽やかな笑い方をする女性だと、ショウタは思った。


「あー……」


 だが、アセンム・サザンガルドの名を出され、硬直したアイカが再起動するには、もうしばらくの猶予が必要そうである。ショウタはすっかり固まって動けないお嬢様に代わり、キャロルと問答をすることにした。


「お嬢様の実力を知りたいのに、理由はあるんですか?」

「ん?」


 ディム・ルテナント・キャロルは、そこで初めてショウタの存在に気づいたかのように、顔を向けた。しばらく訝しげな顔をしていたが、どうやら彼がアイカの従者であることに気づいたらしい。貴族騎士ノブレスが専用の従者を公私において引き連れ回すのはそう珍しい話ではない。

 キャロルはじっとショウタを見つめる。頭のてっぺんからつま先まで、値踏みするような視線はどうも居心地が悪い。父親によく似て、猛禽の眼光を思わせる鋭い目力があった。


 やがて、彼女はふっと笑う。


「実力に興味がある、という以上に、必要な回答があるとは思えないな。お座敷剣法の、形ばかりの習得に熱心で、民を護る強さに無頓着な貴族騎士ノブレスばかりで、辟易していたところでな。おまえの主人はどうだろう、と思っただけだ」


 キャロルの物言いは挑発的だ。ショウタにとっても、あまり気分のいい物言いではない。


「が、そうだな、こちらの事情を話しておかないとは、不誠実か」

「事情ですか?」

「うむ」


 キャロルは、甲冑をがちゃりと言わせて席につく。串に刺さった棒モチョロを手にとり、口にくわえる。肉汁が垂れないよう、下唇と舌を賢明に動かす仕草が、彼女の涼やかな佇まいとは不釣り合いで艶かしい。

 ショウタは妙な気分になる前に、一度視界にアイカを入れることで精神を落ち着けた。彼の主人は、未だに汗を無限にかくだけの置物と化している。


「実は私は、はぐれオーク袈裟懸けスラントライン討伐隊の隊長に任命されている」

「あ、あのはぐれオークですね」

「知っていたか」

「まぁ、その、名前だけは」


 この事実は周囲にはそこそこ知られたものではあったようで、そこまで驚きを伴った反応は見られなかったが、それでも出てきた袈裟懸けスラントラインの名に、周囲はどよめく。それだけで、そのはぐれオークが恐ろしい怪物なのだということは、ショウタにも理解はできた。

 キャロルは、またも棒モチョロから垂れそうになる肉汁を器用に舐め取る。いささか、汁が垂れることの食べにくさにやきもきしている様子で、眉間にしわが寄っていた。モチョロの表面を這う舌使いが、妙に蠱惑的であった。


「まぁ、討伐隊の編成は私に一任されている。信頼できる実力者を中心に隊を組んでいる途中だ。腕の立つものがいるならば、誰であろうと隊には入れたい。と、そんなところだな」

「お、お言葉ですが……」


 汗をだらだらと垂らしながら、アイカが辛うじて口を開いた。


「私は、その、袈裟懸けスラントラインの討伐には……」

「ほう?」


 キャロルの口から、嘲笑的な声が漏れる。


「しょせんは貴族騎士ノブレスか。噂を聞けば、誰しもが腰を抜かすからな。自分の身が可愛いだけの、お座敷剣法使いだったか?」


 その言葉を受けて、アイカはぴくりと肩を震わせた。先ほどに比べて、いささかはっきりした口調でこう告げた。


「安い挑発で乱心するほど未熟ではないつもりですが」

「ほう」

「ただ、挑戦ならば受けましょう。私の実力に興味をお持ちになったのは、事実のようですから」


 不敵な笑みを浮かべるキャロルに対し、アイカは満面の笑みで応じる。

 キャロル本人が言った通り、これは正式な〝決闘〟の申し出ではない。だが、両者の合意により成立する手合わせに、食堂の騎士達は大いにざわめいた。何しろ、正面から伝統騎士トラディションに試合を挑まれ、まともに応じる貴族騎士ノブレスなどそうそういるものではない。

 ましてや、相手は名門サザンガルド家の長女。数百年の昔より、ただ強さのみを求めて婚姻を重ねてきた純血の戦闘民族である。多少腕の立つ貴族騎士ノブレスであっても、戦う前から勝敗が決しているようなものだ。


 そうした意味では、キャロルの挑戦は非常に大人げないものだった。だが、彼女が袈裟懸けスラントライン討伐のために、腕の立つ騎士を求めているというのならば、わからない話ではない。

 むろん、アイカはその勝敗にかかわらず、彼女の部下に加わるつもりはない。というよりは、加わることはできない。何よりキャロルの父であるアンセムが、それを認めたりしないだろうからだ。キャロルは、アイカのことを何も聞かされてはいないのだろう。アンセムの厳格な性格を思えば、公私を混同するなどということは有り得ないから、まぁ、当然だ。


「挑戦を受けてもらえて何よりだ。感謝しよう。ディム・アイカ」

「いえ、それよりも、ひとつお尋ねしてよろしいですか? ディム・ルテナント・キャロル・サザンガルド」


 アイカは最後、彼女のファミリーネームを呼ぶ際に、わずかに語調を強める。アンセム将軍の娘であるキャロルに、何かを問おうという姿勢だ。周囲は、アイカの怖いもの知らずな態度に固唾を飲み、キャロルもまた、家名を正面から見据えたアイカの目に、佇まいを直す。


「先程の貴公の言動には、いささか貴族騎士ノブレスを軽んずる部分が見受けられました。ディム・キャロル。貴公は、貴族騎士ノブレスを軽蔑していますか?」


 それはまさしく、王国の未来を担うプリンセス・アリアスフィリーゼから、キャロル・サザンガルドに向けて放たれた質問であっただろう。サザンガルド家の長女は、貴族騎士ノブレスをどう思っているのか。姫騎士殿下は、今はただのアイカ・ノクターンとして、それを問おうとしているのだ。


 しばらくの沈黙があった。

 後に、キャロルはその形のいい赤い唇を、開く。


「気を悪くしないで欲しいが。ディム・アイカ」

「はい」

「いや、これは自己弁護だな。正直に言おう。私は、口ばかりで戦場の役に立たない貴族騎士ノブレスが嫌いだ。連中が騎士王陛下より騎士位を賜り、プライドと地位ばかりが先行して戦いの流れを乱すことには、強い憤りを感じている」


 当の貴族騎士ノブレスを相手に、はっきりと言ってのけたキャロルである。周囲の騎士達は、自らの心を代弁するかのような彼女の強い言動に、拍手と賞賛をもって答えた。そしてそれらは、今ここに貴族騎士ノブレスとして座っているアイカとショウタにはまさしく礫のごとく降りかかる。


「そうですか」


 アイカは少し寂しそうな顔をして言った。すっかり冷めてしまったスープを取り、一気に飲み干してから席を立つ。


「行きましょう、ショウタ」

「あ、はいはい」


 割れんばかりの喝采をあとに、ふたりは食堂をあとにした。


 キャロル・サザンガルドは、決してアイカへの悪意をもってあのようなことを言ったわけでは、ないのだろう。彼女の鳶色の瞳には、確かに正道を歩む騎士の眼差しがあった。

 貴族騎士ノブレスが、口ばかりで戦場の役に立たないというのも、プライドと地位ばかりが先行してかえって足でまといになっているというのも、また事実である。本来彼らは、騎士位を賜って戦場に立つ身分でないところを、騎士王の臣下として面目を立てるためにそうしているのだ。


 王が騎士たる以上、その臣下もまた騎士たらねばならない。

 初代騎士王デルオダートの時代より連綿と続く、200年の因縁。アイカとショウタは、まさしくその結実を、キャロルの瞳に見ていたのだ。






Episode 21 『因縁200年』

FATAL PRINCESS of the KNIGHT KINGDOM



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「ああああああああああああ!!」


 アイカは枕に顔をうずめながら、バタ足をしていた。


「まさか、まさか、まさかアンセムの娘と手合わせをすることになるなんて! どうしましょう、どうしましょうショウタ!」


 将校居住区の居室である。二人が食堂から戻る頃には、既に荷物が運び込まれていた。ショウタは自らの荷解きをしながら、アイカお嬢様の奇行を微笑ましく見守っている。


「どうしましょうって、どうかするんですか?」

「どうかするかもしれません。だって、あのアンセムの娘ですよ!?」

「あんまり似てませんよね。目つき以外」

「はい。キャロルにとっては幸いなことだったでしょう!」


 姫騎士殿下もなかなかストレートなことを言う。

 威圧感の権化、200セルチセンチメーティアメートルのむくつけき巨漢、鳶色の瞳に猛禽の眼光を宿した鷲鼻のカミナリ親父。それがアンセム・サザンガルドだ。おおよそ、男らしさを凝縮したような人間であり、オールバックに撫で付けた鳶色の髪を持つ。

 キャロルに受け継がれたアンセムの遺伝子は、猛禽の眼光を宿した金色の瞳だけである。髪の色は鳶色というにはややくすんでいた。うなじがちょうど隠れるくらいまで伸ばしたセミロングヘアで、天然なのか意図的なのか、やや外ハネ気味である。


「でも、アンセム将軍も、娘さんを叩きのめしたからといって殿下にどうこう言ってくるような人ではないでしょ?」

「はい。アンセムもそのあたりはキチッとしてると思うのですが……」

「つまり、アンセム・サザンガルドの娘というネームバリューにおビビりになっていらっしゃると……」

「は、はい……」


 ショウタも、この食堂に戻ってくる途中、いくらかキャロル・サザンガルドの評判を聞いてきた。食堂にいなかった伝統騎士トラディションや、要塞内に立ち並ぶ商店の店員、将校居住区で出会った貴族騎士ノブレスの将校など、対象は様々だ。

 往々にして、キャロルの評価は『父親譲りの堅物』という点においては一致していた。先祖代々受け継がれたサザンガルド家の超人的な戦闘能力は、徐々に開花しつつあり、今ではひとりで複数の騎士を相手どり、圧倒するほどの実力を備える。ま、その程度なら姫騎士殿下アイカおじょうさまもやってのけるので、どっちが強いかと言われると難しいところだが。


 父アンセムに比べると、いささか理想家で潔癖のきらいがある。この辺は、まるごと騎士王セプテトールと姫騎士アリアスフィリーゼの対比にそっくりだ。だが、キャロルの場合は、これまた父親譲りの論旨の過激さと堅物加減が、少しばかり問題をややこしくしている。


「キャロルさん、貴族騎士ノブレス嫌いなんですね……」


 まぁ、伝統騎士トラディションらしいといえばそうなのだが。父であるアンセムが堅物ながら公平そうな人物であったところを見るに、意外であるようにも思える。

 話題がそこに及べば、アイカの表情も神妙なものになる。


貴族騎士ノブレス伝統騎士トラディションの対立は、話としては知っていたのですが……」

「直で見るとショックですか?」

「ショックというよりは……なんでしょうね?」


 王都デルオダートでは、こうした問題はそこまで表面化していない。王都はもともと貴族騎士ノブレスの比率が多いが、騎士王の膝下という自覚もあってか、彼らがごく少数の伝統騎士トラディションにちょっかいをかけるということは稀だ。伝統騎士は伝統騎士で、貴族騎士にはないその戦闘能力をしっかり評価され、騎士団の重要なポストや王立騎士学校の教官などに抜擢されているため、不満は噴出しにくい。

 それでも、水面下でのいざこざはあるのかもしれないが、このマーリヴァーナ要塞線のように露骨な対立にまでは発展していなかった。食堂という公共の空間で、騎士将軍の娘という立場の人間が『貴族騎士ノブレスが嫌いだ』などと発言し、あまつさえそれが賞賛されるような環境なのである。


 こればかりは、アンセムの管理を責められるものではないだろう。何より、当のアンセム本人が、両者の対立の最前線に立つような人物である。彼の極端な軍事力第一主義が、貴族騎士の軽視に繋がっているという話は、否定できるものではない。


「とにかくお嬢様、もうすぐ夜の訓練の時間です」

「あ、はい。ショウタ、私の荷物の中に、替えの鎧下ギャンべゾンがあると思いますので、とっていただいても?」

「はいはい」


 ショウタは、アイカお嬢様の荷物をあさり、言われたとおりのものを取り出す。ビロードと金銀糸織であしらわれた、高級そうなギャンべゾンだ。アイカはそれを受け取ると、満面の笑みで『ありがとう』と返す。

 ショウタも照れ笑いで頷いたが、アイカがいきなり今着ているギャンべゾンを脱ぎ始めたので、慌てて目をそらした。


 衣擦れの音が心臓にとても悪かった。





 夜の訓練は、要塞線の外にある演習場で行われる。周囲を城壁に囲まれておらず、常に魔獣や獣魔の襲撃を受ける可能性があるロケーションだったが、それがかえって訓練に緊張感をもたらしていた。

 これはあくまでも、騎士の訓練であり、従騎士エスクワイア小姓ペイジは参加することができない。重そうな騎士剣を振って鍛錬にいそしむ騎士たちの姿を横目に、ショウタは参加しなくてよかった、と思っていた。サザンガルド式の訓練は過酷であるというが、ショウタはどうやらその洗礼を受けずに済みそうである。


 なんのかんの言って、アイカも訓練には普通についてきていた。周囲の貴族騎士ノブレスがヒイヒイ言っている中、涼しい顔で素振りや走り込みに混じっている。教官担当の伝統騎士トラディションも、これには目を丸くしていた。

 さて、メニューが次々とこなされていく中、とうとう組手スパーリングの時間になる。

 プログラムでは、このあと対オークや対ゴブリンを想定した模擬戦演習があり、そこには騎士将軍ジェネラルアンセム・サザンガルドも教官として参加するらしい。アンセムを尊敬する多くの伝統騎士トラディション達は、今回の訓練には相当気合を入れている様子だった。


 伝統騎士は伝統騎士同士、貴族騎士は貴族騎士同士、適当な相手とペアになり、スパーリングに打ち込む。訓練を見学する小姓ペイジはショウタの他にも何人か見受けられたが、こうして傍から見ると、熱意の差は一目瞭然だ。

 後にアンセムが視察にくるという事情を差し置いても、伝統騎士の組手は迫力が凄まじい。実戦さながらの剣技の応酬であり、手にしているのが模擬剣でなければ、演習場には屍山血河が築かれていたことだろう。いや、模擬剣であったとしても、このままでは骨折や打ち身で故障する騎士が出てくるのではないか、と思われるほどだった。

 対して、貴族騎士の組手は適当だ。真剣にやっていると思われる者もいくらかはいるが、その様子は伝統騎士達と比べるべくもない。繰り出される剣技も、型通りののろのろとしたものばかりで、到底実戦に耐えうるものには、見えなかった。キャロルが貴族騎士に対して強い軽蔑を抱いていたのも、わからない話ではない。


「やあ、」


 ショウタが複雑な思いでスパーリングの光景を眺めているとき、横からそのような声がかけられた。

 育ちの良さそうな顔をした少年が、笑顔で片手をあげている。ショウタはぺこりと頭を下げる。


「きみ、ディム・アイカのところの小姓ペイジだろう? 話は聞いたよ。彼女は、どうもキャロル騎士隊長の挑戦を受けたらしいじゃないか」

「はい、まあ」


 この人は誰だろう、と思いつつショウタは曖昧な返事をする。ショウタと共に訓練を見学しているのだから、どこかの騎士の小姓ペイジであることには間違いないのだが。友好的な態度を見るに、おそらくは貴族騎士ノブレスか。

 彼の周りにいた少年たちも、立て続けに声をかけてくる。


「素晴らしい話だ。キャロル騎士隊長は、今までに何度もいろんな騎士と手合わせしては、コテンパンに負かしてきてね。特に被害に遭うのは、だいたいが貴族騎士ノブレスさ。みんな、何とかして欲しいって思ってたんだ」

「私たちとしても、歯がゆい思いだったよ。何せ、主人たちがコケにされているわけだからさ」

「話に聞いたんだが、ディム・アイカは相当腕が立つんだろう?」


 やはり、貴族騎士ノブレスのところの小姓ペイジ達だ。彼らは、主人について武具の整備や騎士としての心構えを学び、やがて従騎士エスクワイアとなり、その働きが認められて騎士になる。多くの場合は、貴族の家に生まれた子供がこうした過程を経るわけだが、このマーリヴァーナ要塞線では、市井の子供を小姓ペイジとして受け入れる旧来の文化がまだ残っているのだ。

 おそらく、ショウタに話しかけてきた彼らは、市井から貴族に選び出されたエリートであり、それゆえに高い意識を持っている。伝統騎士トラディションのむやみな台頭を苦々しく思う程度には。


 ここにも、因縁200年の片鱗があるわけだ。


「私の主人は、ハイゼンベルグ侯爵でね。百騎士長メイジャーでもあり、騎士隊長ルテナントキャロルの直接の上司でもあるんだが……」


 最初に話しかけてきた少年が、苦笑しながら言った。


「正直、キャロル騎士隊長の強行的なやり方とは対立が絶えない。それもこれも、貴族騎士ノブレスが軽視されているせいだと思うんだ。腕力だけがすべてではないのにね」

「は、はぁ……」


 いきなりそのようなことを語られても、ショウタは『はぁ』と答えるしかない。


「だが、腕力しかない連中を黙らせるには腕力しかない。ディム・アイカには期待しているよ」


 二人がそんな話をしているさなか、ふと、幾人もの騎士たちがぶつかり合う剣戟の音が止んだ。


 見れば、月明かりに照らされた演習場に、二人の女騎士が甲冑を纏い、相対している。一同は、両者の美しさを前にして息を飲んでいた。模擬剣を携え、にらみ合う姿は象徴的であった。

 赤い甲冑を身にまとう伝統騎士トラディションが、キャロル・サザンガルド。

 白い甲冑を身にまとう貴族騎士ノブレスが、アイカ・ノクターン。


 二人の試合が、今、始まろうとしていたのである。

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