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霊術師!  作者: fang
4/5

4,霊装

 梅雨に入り、霊術学院のある京都にも連日雨が降っていた。

 第二訓練場には生徒の頭数分の妖がいる。これらは京極がゲートを開き、現出させたものだ。

「一人で一体ずつ倒せ」 

 それだけ告げると、京極は観覧スペースに移動する。その言葉に従って、生徒は四属を使いこなし、妖を次々と浄化していく。

 白夜を除いて。



 俺の目の前にはLEVELⅠの妖がいる。

「燃えろ!」

 それを倒そうと言霊を唱えるが、出てきたのはライターの大きさほどの火のみだ。

 周囲からは俺をののしる言葉が耳に入ってくる。

(くそっ、何で俺だけ倒せないんだよ?)

 

 やがてその形状を歪め始めたところで、突如妖が吹き飛んだ。

「そこまで!」

 先ほどまで妖がいた場所には、京極先生がたたずんでいた。

 


 晃司たちが夕食に誘ってくれたが、先ほどのことが頭をよぎり、食事を取る気にならなかった。

(俺って才能無かったんだ……)

 一人で部屋に戻り、ずっとそんなことを考えていた。

 先ほどまでは夕暮れだったのに、いつの間にか、部屋には月明かりが入ってきている。

 今まで妖を相手にするときはいつも班単位だったし、俺個人の力なんてあまり気にしたことがなかった。授業にも真面目に取り組んできたし、自分なりに全力を尽くしてきたつもりだ。だけど、同期と比べて四属を全く使いこなせていない自分がいる。

(一体どうしたらいいんだろうか……)


 ◇◇

 


 俺は真理花や桜とともに夕食を取ったが、なぜか、その食事はあまりうまくなかった。部屋の前まで行くと、隣人のドアが目に入る。同時に、先ほどの落ち込んだ白夜のことが脳裏をよぎった。

(あいつ、大丈夫か?)

 白夜の部屋に行こうか悩んだが、行ったところで自分にできることは何もない。ドアを開けて部屋に入る。

 何気なしにテレビをつけると、神院家襲撃事件の続報が報道されていた。事件後、二か月が経過した現在になっても、神院家の厳戒態勢は解かれていないらしい。唯一分かったことと言えば、襲撃した集団の名前だけだった。

(“北斗七星ほくとしちせい”か……それにしても不可解な事件だ)

 不意に、ドアをノックされた音が耳に届いた。


 ◇◇



 俺は迷った末に隣部屋のドアを叩く。晃司はすぐに出てきて、部屋に入れてくれる。晃司の部屋には物がほとんど置かれていなかったが、家族らしき人と一緒にいる写真が丁寧に飾られていた。


「コーラでいいか?」

 晃司は冷蔵庫を開けて、二本のペットボトルを持ってきてくれる。

「わりぃ、ありがとう……一つ頼みがあるんだ。俺に霊気を教えてほしい」

 俺は晃司の目を見据える。


「霊気は無理だ……霊装だったら教えてやるよ。」

「霊装?」

「なんで俺がこの刀で妖を斬れるか考えたことあるか?」

 晃司が刀を見せながら、見当違いなことを尋ねてきた。

「刀なんだからそんなの当たり前だろ」

「LEVELⅢまでの妖には実体が無いんだぜ」


 それを聞いた瞬間、質問の意図に気づいた。晃司は立て続けに言ってくる。


「霊装は武器に霊力を流し込むことだ。そうする事で実体がない妖に、武器でダメージが与えることができる。親父が言うには、実体があるLEVELⅣ以上の妖にも、霊装じゃなければ効かないらしいぜ。何でも霊的密度が高すぎて普通の武器じゃ一瞬で消えるんだとさ」

「じゃあ霊装が出来れば、銃でも妖に効くようになるのか」

「それは無理だ。体から離れた瞬間、ただ流し込んだだけの霊力は消えちまう。」

 首を横に振りながら告げてくる。


「残念だな、楽できそうだったのに」

「世の中そんな甘くねーよ」

「さすが先輩、これから敬わせていただきます」

「ふざけんな、そんな気無いくせに」

 俺たちは顔を見合わせながら、声を上げて笑った。


 ◇◇

 


 翌日の放課後、二人は霊術学院の第四道場にいた。比較的小さな空間で、畳が敷き詰められている。

「早速始めんぞ!」

 晃司はポケットから小さな紙を取り出す。

「それって四属に反応する紙だよな?」

「あぁ、霊装の修行で厄介なところは、霊力が目に見えないことだ。慣れれば感覚的に分かるようになるが、始めのうちは霊力を流し込んでいるか、そうで無いかが、自分では分かりづらい。だからこの紙を使う」



 すると、晃司の左手に握られている紙が、やんわりと紫色に輝き始めた。

「霊力を流し込むと光るのか」

「そういうことだ、四属の時みたいに霊力を流し込んでみろ。言霊無しでな」

 紙を渡された白夜は無言で紙をじっと見た。そして、二人はしばらくの間、口を閉じる。白夜は紙から目を離すと呟いた。

「言霊無しって、思ってたより難しいな」

「慣れれば、すぐに出来るぜ。俺は一、二時間で出来たしな」

「そっか、頑張るわ」

 白夜は口を閉じて、集中し始めた。


 

 

 晃司は白夜が集中している横で、刀の手入れをしている。突然、晃司のスマートフォンから、メールの受信音が響く。

「真理花が腹減ったから、早く食堂こいだとよ。そろそろ行くか」

「分かった……結局、出来なかったな」

 白夜は浮かない顔で、紙をポケットにしまう。


「まだ始めて三時間じゃねえか。個人差があるんだから、あんま気にすんなよ」

「そうだな……明日こそやってやるぜ」

「……明日は日曜だぜ」

「当然付き合ってくれるよな?」

 ため息をつきながらも、晃司の口元は緩んでいる。

「しごいてやるぜ。明日は今のを早く終わらせて、次のステップに進むぞ」

 もう一度、メールの受信音がする。今度は白夜の携帯だ。

「“は、や、く。”だとよ、行こうぜ」

 二人は駆け足で食堂へ向かった。


 ◇◇




 私と真理花は五名家の一角である咲守さきもり家にいる。白夜君たちは今日一日修行するらしい。

「けど、加奈と会うの久しぶりだね」

「そうですね。霊術学園に入って以来ですから、二月半ぶりでしょうか」

 私たちは引き戸を開けると、巫女服に身を包んで全身から優しげな光を発している加奈がいた。


「やっほー、久しぶり」

「すいません、修行中でしたか……お邪魔だったでしょうか?」

 加奈から発せられていた光が消えると、首をブンブンと大きく横に振る。

「そんな訳ないよ。二人が霊術学院に入ちゃって、全然来てくれなくなったから……もしかしたら私の事嫌いになっちゃったのかもって」

「そんな事あるわけないわよ。ほんっと、心配性ね」

「そうですよ加奈、私たちはずっと友達です。今日は久しぶりに時間が取れたので、遊びに来たんですよ」

 それを聞くと、加奈は満面の笑みを向けてくれた。

「ありがとう、凄い嬉しい。久しぶりにお話しよ。」


 それから私と真理花は最近会った出来事について語った。

 加奈は相槌を打ちながら、私たちの話を楽しそうに聞いてくれた。


「へぇー、そうなんだ。良い人たちなんだね、白夜君と火野君」

「はい、大切な仲間です。ところで、加奈はやっぱり霊術学院には入らないんですか?」

「うん……そのつもり」

「けど、いつまでもこのままじゃ!」

「はい、桜ストップだよ! 今日は楽しくお話しするってきめたじゃん」

 真理花の大きな声が耳に届いて、きつい言い方をしていた事に気づいた。


「そう……ですね、すいません加奈、言い過ぎました」

「ううん、ありがとう。桜が私のためを思って言ってくれてるのは分かる。けどやっぱり……知らない人とお話しするのは…………怖い」

 そこで加奈は押し黙ってしまった。


(やっぱりまだ……いじめられてたことを引きずってるんですね……すごく良い子なのに……)

 加奈は小学五年生の頃、学校でいじめられて以来、人と接するのが怖くなり引きこもってしまったのだ。当時、私と真理花と加奈は家のつながりをきっかけとして仲よくしていたものの、通う学校はそれぞれ異なっていた。

 だから私は加奈がいじめられていたのが分からなかった……

(いや、そんなのは言いわけですね。今思えば、あの頃の加奈は突然暗い表情になったりして……おかしなところはたくさんあったのに)


 それからの会話はどこかぎこちないものになってしまい、私たちは少し早めにお暇することにした。

「来てくれてありがとう。今日はすごく楽しかったよ……また来てくれるかな」


 それを聞いて私は加奈の両手をつかみ、その目をじっと見つめた。

「そんな当たり前のことを聞かないでください。私たちにとって加奈は大切な人なんですから、ねっ、真理花」

 振り返って、私の横にいる真理花を見た。真理花は真剣な表情で加奈を見据えていた。

「そうだよ、加奈はうち達にとって大切な人……加奈は違うのかな?」

「そんなことある訳無い! ある訳ないよぉ……」

 大きな声が私の鼓膜を振動させた。加奈の目には輝くものが浮かんでいるように見える。


「だったら心配しないでください。すぐに来ますよ」

 私たちは立ち上がると、引き戸を開けて道場を出た。

「うん……待ってるね」

 後ろから小さな声が聞こえたような気がした。



 帰ろうと門扉へ向かっていると、咲守家の現当主である加奈のおばさまが前方から歩いてきた。


「桜ちゃん、真理花ちゃん、いつもありがとうね。二人が来てくれた後は、加奈ちゃんいつも明るくなるのよ」

「加奈は私たちにとって大切な友達ですから。こちらこそ、いつもお邪魔させていただいてありがとうございます。」

「実のところを言うとね……私は二人が来てくれてる度に安心するのよ。こんなに思ってくれる友達がいるなら、あの子は大丈夫だって。平成の大災禍で本当のご両親……先代の当主様と奥様が亡くなられてから、すぐにあの子はいじめられて、引きこもるようになってしまった。だけどそんなあの子が桜ちゃん、真理花ちゃんと話しているときはいつも幸せそうな顔をしているの。だからまた来てくれるかな?」

「もちろんです、加奈は大切な友達ですから。ところでひとつお願いしたいことがあるんですが……」

 

 私は以前から真理花と一緒に考えていた案を話してみた。聞いてくれたおばさまの優しげな表情には困惑の色が見えたが、すぐに微笑み、承諾の返事をくれた。

 それからもう一度おばさまにお別れを告げ、白夜君と話をするために第四道場に向かうことにした。

  

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