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霊術師!  作者: fang
2/5

2,班結成

「……っ」

 俺の頭に何かが降ってきて、冷たさのあまり、俺は意識を覚醒させた。

 目の前には艶やかな金髪が魅力的な女の子がいる。

「あっ、起きた! 立てる?」

 そう言って手を差し伸べてくる。

「悪い、ありがとう」

 俺は半ば無意識にその手を取り立ち上がった。それから少女の顔をじっと見つめる。


(かわいい子だな、てかなんで俺寝てたんだっけ……)


 ぽかんとした顔をしていたのだろう、少女が話しかけてくる。

「もしかして何があったか覚えてないの? 私が寝かせてあげたのに……」

 前半はあきれたような口調で、後半はまるでからかうように告げてくる。


(寝かせてあげた? …………あっ!)


 その瞬間、先ほどの光景が脳裏によぎる。俺はとっさに少女から距離をとり身構える。

 少女は気にせずこちらに向かって歩いてくる。

「もう試合終わったから何もしないわよ。それよりあなたの名前教えてくれる?」

 その一言で、俺は全身から力を抜く。


「“甲斐谷白夜かいたにびゃくや”だ」

「うちは安倍真理花、これからよろしくね」

「あぁ、よろしく」

「ところでさっき腰抜けてたよね。うち、腰抜けた人はじめて見た」

 楽しげな声で耳元でささやいてきたので、俺は思わず手を振り払った。

「うっせーよ」

「顔が赤いよ……すねてるの?」

(こいつ殴ってやろうか……)

 

「そろそろ、全員起きたやろ。A組まで戻るぞ」

 突然、低い声が耳に響いてくる。

 京極先生が歩き始めると、俺たちは続いていった。


 俺は教室に戻り席に着く。ふと隣に目をやると、赤髪の青年が肘をついて座っている。

(さっき、先生に絡んでたやつだ)

 そんなことを考えていると、前方から先生の声が耳に届いた。

「これから自己紹介してもらうわ。とりあえず名前と年を出席番号順に言ってもらえるか」

 そうして順番に声が聞こえてくるので、俺は順番に耳を傾けていく。


「安倍真理花、十五です。よろしくね」

(やっぱ、かわいいな……性格は最悪だけど)

「甲斐谷白夜、十五歳です。よろしくお願いします」

(ふぅ……自己紹介ってやっぱり緊張する)

「火野晃司、十七だ。よろしく頼む」

(隣の席だし、仲よくしていきたいな)

「御門桜と言います。歳は十五です。これからよろしくお願いします」

(すっごい綺麗……それに礼儀正しそう)

「…………」


「終わったようやな、これから班を発表させてもらう。これについては、こちらで決めさせてもらうし、異論反論は一切受け付けないから、そのつもりでな」

 立て続けに言葉が紡がれていく。


「まず一班、大谷翔、…………」

(まだ呼ばれないのか……)

「最後に七班、甲斐谷白夜、火野晃司、安倍真理花、御門桜、以上三十四名」

(俺らの班だけ四人か……それにしてもくせの強そうなメンバー)

「この班は原則として変更は無しや。霊術学院ではたびたび実習を行うが、その際は基本的に班でうごいてもらう。連絡事項はこれで全部やし、帰ってええで」 

 言うと同時に立ち去っていった。周りには、帰り支度をしている生徒もちらほらと見かけられる。


(俺も帰るか……)

 帰り支度をしていると、年上の青年が話しかけてくる。

「おい、お前一緒の班だろ」

「あぁ、白夜でいいよ。これからよろしくな」

「俺も晃司でいい、ところであの班分け納得いってるか?」

「どういうこと?」

「あの金髪女アマ、叩きのめす」


「誰を叩きのめすのかな?」

 いつの間にか性悪女が来ていた。御門さんも一緒だ。

「これからよろしくね、晃司、白夜」

「ふざけんなっ、この金髪女アマなんで呼び捨て、しかも下の名前なんだよ」


 金髪の少女は切れた青年を意にも介さない様子だ。

「うちは真理花でいいから、桜も下の名前でいいよね」

 こくりとうなずき、手を差し出してくる。

「これからよろしくお願いします。晃司君、白夜君」

 俺は立ち上がると、綺麗な手を握り締める。

「頑張っていこうな、桜」


 その様子を黙って見ていた晃司に対して、真理花がにやけながら手を差し出している。

(こいつ、完全に遊んでるな。そんなことしたら……)

 晃司はそれを無視すると、カバンを手に取り、席を立とうとしていたが……

「動くな!」

 呪符を突きつけた真理花に邪魔され、動作を停止させていた。真理花は実に良い笑みを浮かべている。

「ぶっころすぞ、この金髪女アマ

 怒鳴りつけるが、真理花はまったくひるんでいないようだ。

「下の名前で呼ぶまで返さないよ~だ」


「ところで桜、一つ気になってたことがあるんだけど」 

「はい、何でしょうか?」

「あの呪術ってやつ、なんで口だけは動かせるの?」

「真理花の趣味です。人をからかう時、口だけは動かせるようにするんですよ。私も小さいころ何度やられたことか……」

 昔を思い出したのだろう。大和撫子を体現したような少女は、心底疲れたように息を漏らしていた。


 ……結局、このやり取りは晃司が真理花と呼ぶまで……実に一時間もの間続いた。

(この班、大丈夫かな?)



 完全にすねてしまった晃司を何とかなだめて、四人で学院寮の食堂に来ている。学院寮は霊術学院から徒歩五分程度の場所にあり、全寮制で、階こそ違うものの、男女が同一の建物で生活するのだ。


「ごめんってば、いい加減機嫌直してよ、晃司」

「黙れ、このア……」

 真理花は無言で呪符を手に持っている。

「……真理花」

「うん、よろしい」

(もう二度と真理花に逆らえないな、ドンマイ)

「明日の朝も一緒に食べようね」

 満面の笑みで姫はつぶやいていた。

 

 


「ジリリリッッ!」

 翌朝、目覚ましの無機質な音で起こされる。

 一人部屋としては十分な広さがあり、エアコン、ベッド、クーラー、冷蔵庫などの備品も揃えられている。俺は朝の支度を終えると、隣部屋のドアを叩く。

「おはよう晃司、飯行こうぜ」

 しばらくすると、出てきたのでともに食堂に向かう。食堂にはすでに席についていた真理花と桜がいたので、二人がいるテーブルに座った。


 ふとテレビを見上げると、連日“神院家しんいんけ襲撃事件”について報道されている。五名家の一角である神院家を謎の集団が襲撃した前代未聞の事件だ。 上空ヘリからの映像では、広大な敷地にある建物が損壊している様子が映し出されている。


「そういえば、真理花と桜って五名家なのか?」

 昨日から気になっていたことを尋ねる。

「うん、そうだよ」

「はい、そうですよ…………でも私には五名家たる資格はありませんが……」

 後半はうつむきながら、小声で言っていたため、ほとんど聞こえなかった。心なしか落ち込んでいるように感じる。


(なんかまずいこと聞いちゃったかな……)

 辺りに少し気まずい雰囲気が漂ってしまった。

「晃司と白夜の家はどんな感じなの?」

「俺ん家は別に普通だよ。親が霊術師やっちゃいるが、その辺にある一般家庭だ。」


「そっか、白夜は?」

「…………両親いないんだ」

 三人の瞳が一様に見開かれているのが目に入る。


「実は俺、五年より前の記憶が一切無いんだ。居候させてもらってた親戚が言うには、平成の大災禍に巻き込まれたらしくて、親はその時に亡くなったみたいなんだ。」

「ごめん、変なこと聞いちゃったね」

「別にいいよ。はっきり言って、記憶がないから他人事って感じなんだよ。叔母さんも叔父さんも凄い優しくてさ。俺にとっては二人が自慢の家族なんだ」


 知らない家でいきなり暮らすことになった俺を、二人は優しく迎え入れてくれた。二人がいたからこそ今俺はここにいるんだし、心の底から感謝している。

「本当にお優しい方たちなんですね。羨ましいです」

 桜が優しげな目で見つめながら、ささやきかけてくる。

「だろ、俺の自慢の両親だ……おっとそろそろ時間やばいな、行こうぜ」

「「「おう、はい、うんっ」」」



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