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アスティカ王国物語  作者: 白雨
9/12

Dangerous person

「ッ……」


 私の右腕を掠めて、その弾は何もない地面に着弾した。少し血が服に染みている。

 ──一発目の攻撃を防げば、もう大丈夫。それを知っている《・・・・・》私は、安堵の溜め息をついた。



「フェリネ!!」


 呼ばれた名前に反応して、レオンの顔を見上げる。彼は、ひどく焦った表情だった。…私とは対称的に。


「大丈夫だよレオン。それと、誰も呼びにいかなくて良いからね」

「で、でも、手当てしないと…っ」

「焦らなくて大丈夫だよ」

「──って、何でフェリネはそんなに余裕なのさ? …痛くない?」

「うん。だってほら、もう治ったし」



 見る? と問いながら、返事が来る前に、怪我をした部分までドレスの右袖を捲り上げる。

 ──そこには、傷一つ無かった。

 血は、服に滲んでいるだけ。肌に付いてすらいない。


「……え…? え、でも銃弾が…」

「私たちには、精霊がついているから大丈夫だって言ったじゃん?」

「じゃあ何で、フェリネが怪我して……っ!?」

「うん、それも今から説明するからちょっと落ち着いて」


 私と同じくレオンも、パーティーが何事もなく終わったことで、気が緩んでいたのだろう。もう、攻撃されることはないと想っていた。


 それに、この中庭には人気もない。まさか、王宮内で、発砲音が響く銃を使うとは思わなかったから、私は警戒していなかった。

 発砲音が響けば、すぐに衛兵が駆けつける。それは、言わずもがなの常識だからだ。


 ──その矢先に、こうなった。


 その驚きは計り知れないだろう。だからこそ、普段焦った表情を見せないレオンが、こんなに取り乱している。


 私としては今すぐにでも説明したかったのだが。

 大混乱の中で説明しても意味がないだろうと判断したために、ひとまず、外見を取り繕えるくらいには落ち着いて欲しかった。



「(…落ち着いたかな)

 まず、この状況から整理して話すよ。私もついさっき──怪我をした後に説明を受けたくらいだから、上手くまとめられないかもしれないけど…。


 発砲した犯人が隠れているのは、私たちの背後のでかい木の陰。あの草むらみたいな所らしいよ。

 そこに犯人が隠れているのを発見したのは、見回り担当だった精霊。その情報は、私たちの周りにいる精霊たちに素早く伝達された。

 作戦としては、一回だけこちらに撃たせて状況証拠を作ってから、捕獲って流れ。捕獲はすでにしてあるらしいよ。風のシルフィーナが、犯人を撃った体制のまま動けなくしてるって。

 そっちに人員を割いたから、こっちの方、私たちを守る方が手薄になったんだって。レオンの心臓から弾丸を反らすのに一生懸命で、細かい操作ができなかったってさ」


 そこまで説明したフェリネは、犯人がいるであろう方に身体ごと向き、精霊たちに話しかけた。

 先ほどから、皆騒いでいたのだ。


『女の子だいじょうぶ?』

『…ごめん』

『やけど?』

『いきおい削いだのー!』

『ぼうはつさせなかったの偉いー』



「火のサラマンダー

 火力を制限してくれていたから、それほど威力が出なくて助かったよ、ありがとう。

 ていうか、暴発する危険性があったんだ…。


 ……まぁ、私も、レオンを守るのを第一目的に、って言ってあったからねぇ。

 それを達成してくれたんだから、そんなに謝らないでよ風のシルフィーナ。むしろ、ありがとうね」



 微笑を浮かべて感謝の言葉を述べるフェリネ。

 これが人間相手ならば嫉妬していたであろうレオンだが、精霊相手ならばそれはないらしい。

 判断基準がよく分からない、と心の中で呟いたフェリネは、再びレオンに向き直った。

 そうして、説明を大人しく聞いているレオンへと続ける。



「──それにね、レオン?

 見えてるのは私だけだろうけど、私の周りにはレーシーもいるんだよ。傷を癒してくれたのは彼ら。

 この作戦をすることをレーシーたちに伝えたのは、地の精《》。彼らは、情報伝達の速さが精霊一だから、適性だったね。

 それを聞いたレーシーたちが、『何かできることあるかもー?』『フェリネとあうの!』『行くよっ』って言って、来てくれたみたい。

 あ、ちなみに、怪我するのを予期していたわけでは無いみたいだよ。

 


 それでさ?

 その銃に入ってる弾と、地面にめり込んでるこの弾丸を照らし合わせれば一発で逮捕だね。

 …不敬罪どころか、反逆者として極刑だね?」


 レオンを狙われたことによる怒りが溜まっていたフェリネは、「もちろん死刑だよね?」と笑顔で訊ねる。


「……えぇっと、どうだろうね? 僕が判断できる事じゃないから、何とも言えないかな…」


 フェリネの気迫に押されたレオンが、しどろもどろにそう答えた。

 普段は自分から進んで合わせる視線を、さまよわせる。


『? これころすー?』

『フェリネにこうげきした奴けす?』

『楽しいの?』

『フェリネがするからたのしいはずだよ』

『じゃあするーっ』


「……精霊たちの賛同も得ているから、っちゃっていいかな? あぁ、大丈夫。精霊が血に弱いことは知ってるから、彼らのいないところでやるよ」

「ちょ、フェリネ!? 目が座ってる!」

「そりゃそうだよ。…本気で苛ついてるからね」


 …それからの、レオンの必死の説得で、なんとか思いとどまったフェリネだった。



「……でもやっぱりさぁ」

「今は犯人より、フェリネの方が危険だよねほんと」

「……えー? いや、だって…」


 不服そうなフェリネを抑えつつ、レオンが声を上げた。


「…ほら、近衛も駆けつけてきたし」

「遅い。銃音が響いてからどれだけ経ってると思って……」

消音装置サプレッサーがついている銃だよ、あれは。

 だから、音は僕ら以外には聞こえていなかったと思うよ?」

「じゃあ何で来て──…彼ら、レオンと私がいないから捜索してたの? あぁ、何も言わずに来たもんねー、中庭」


 精霊からの情報に納得の表情を浮かべるフェリネ。精霊の話を聞いている内に落ち着いてきたようで、もう殺気は出ていない。

 そのことに、レオンはほっと胸をなで下ろしたのだった。



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