Dangerous person
「ッ……」
私の右腕を掠めて、その弾は何もない地面に着弾した。少し血が服に染みている。
──一発目の攻撃を防げば、もう大丈夫。それを知っている《・・・・・》私は、安堵の溜め息をついた。
「フェリネ!!」
呼ばれた名前に反応して、レオンの顔を見上げる。彼は、ひどく焦った表情だった。…私とは対称的に。
「大丈夫だよレオン。それと、誰も呼びにいかなくて良いからね」
「で、でも、手当てしないと…っ」
「焦らなくて大丈夫だよ」
「──って、何でフェリネはそんなに余裕なのさ? …痛くない?」
「うん。だってほら、もう治ったし」
見る? と問いながら、返事が来る前に、怪我をした部分までドレスの右袖を捲り上げる。
──そこには、傷一つ無かった。
血は、服に滲んでいるだけ。肌に付いてすらいない。
「……え…? え、でも銃弾が…」
「私たちには、精霊がついているから大丈夫だって言ったじゃん?」
「じゃあ何で、フェリネが怪我して……っ!?」
「うん、それも今から説明するからちょっと落ち着いて」
私と同じくレオンも、パーティーが何事もなく終わったことで、気が緩んでいたのだろう。もう、攻撃されることはないと想っていた。
それに、この中庭には人気もない。まさか、王宮内で、発砲音が響く銃を使うとは思わなかったから、私は警戒していなかった。
発砲音が響けば、すぐに衛兵が駆けつける。それは、言わずもがなの常識だからだ。
──その矢先に、こうなった。
その驚きは計り知れないだろう。だからこそ、普段焦った表情を見せないレオンが、こんなに取り乱している。
私としては今すぐにでも説明したかったのだが。
大混乱の中で説明しても意味がないだろうと判断したために、ひとまず、外見を取り繕えるくらいには落ち着いて欲しかった。
「(…落ち着いたかな)
まず、この状況から整理して話すよ。私もついさっき──怪我をした後に説明を受けたくらいだから、上手くまとめられないかもしれないけど…。
発砲した犯人が隠れているのは、私たちの背後のでかい木の陰。あの草むらみたいな所らしいよ。
そこに犯人が隠れているのを発見したのは、見回り担当だった精霊。その情報は、私たちの周りにいる精霊たちに素早く伝達された。
作戦としては、一回だけこちらに撃たせて状況証拠を作ってから、捕獲って流れ。捕獲はすでにしてあるらしいよ。風の精が、犯人を撃った体制のまま動けなくしてるって。
そっちに人員を割いたから、こっちの方、私たちを守る方が手薄になったんだって。レオンの心臓から弾丸を反らすのに一生懸命で、細かい操作ができなかったってさ」
そこまで説明したフェリネは、犯人がいるであろう方に身体ごと向き、精霊たちに話しかけた。
先ほどから、皆騒いでいたのだ。
『女の子だいじょうぶ?』
『…ごめん』
『やけど?』
『いきおい削いだのー!』
『ぼうはつさせなかったの偉いー』
「火の精。
火力を制限してくれていたから、それほど威力が出なくて助かったよ、ありがとう。
ていうか、暴発する危険性があったんだ…。
……まぁ、私も、レオンを守るのを第一目的に、って言ってあったからねぇ。
それを達成してくれたんだから、そんなに謝らないでよ風の精。むしろ、ありがとうね」
微笑を浮かべて感謝の言葉を述べるフェリネ。
これが人間相手ならば嫉妬していたであろうレオンだが、精霊相手ならばそれはないらしい。
判断基準がよく分からない、と心の中で呟いたフェリネは、再びレオンに向き直った。
そうして、説明を大人しく聞いているレオンへと続ける。
「──それにね、レオン?
見えてるのは私だけだろうけど、私の周りにはレーシーもいるんだよ。傷を癒してくれたのは彼ら。
この作戦をすることをレーシーたちに伝えたのは、地の精《》。彼らは、情報伝達の速さが精霊一だから、適性だったね。
それを聞いたレーシーたちが、『何かできることあるかもー?』『フェリネとあうの!』『行くよっ』って言って、来てくれたみたい。
あ、ちなみに、怪我するのを予期していたわけでは無いみたいだよ。
それでさ?
その銃に入ってる弾と、地面にめり込んでるこの弾丸を照らし合わせれば一発で逮捕だね。
…不敬罪どころか、反逆者として極刑だね?」
レオンを狙われたことによる怒りが溜まっていたフェリネは、「もちろん死刑だよね?」と笑顔で訊ねる。
「……えぇっと、どうだろうね? 僕が判断できる事じゃないから、何とも言えないかな…」
フェリネの気迫に押されたレオンが、しどろもどろにそう答えた。
普段は自分から進んで合わせる視線を、さまよわせる。
『? これころすー?』
『フェリネにこうげきした奴けす?』
『楽しいの?』
『フェリネがするからたのしいはずだよ』
『じゃあするーっ』
「……精霊たちの賛同も得ているから、殺っちゃっていいかな? あぁ、大丈夫。精霊が血に弱いことは知ってるから、彼らのいないところでやるよ」
「ちょ、フェリネ!? 目が座ってる!」
「そりゃそうだよ。…本気で苛ついてるからね」
…それからの、レオンの必死の説得で、なんとか思いとどまったフェリネだった。
「……でもやっぱりさぁ」
「今は犯人より、フェリネの方が危険だよねほんと」
「……えー? いや、だって…」
不服そうなフェリネを抑えつつ、レオンが声を上げた。
「…ほら、近衛も駆けつけてきたし」
「遅い。銃音が響いてからどれだけ経ってると思って……」
「消音装置がついている銃だよ、あれは。
だから、音は僕ら以外には聞こえていなかったと思うよ?」
「じゃあ何で来て──…彼ら、レオンと私がいないから捜索してたの? あぁ、何も言わずに来たもんねー、中庭」
精霊からの情報に納得の表情を浮かべるフェリネ。精霊の話を聞いている内に落ち着いてきたようで、もう殺気は出ていない。
そのことに、レオンはほっと胸をなで下ろしたのだった。




