Recollections
──無事、恐れていた事態も起きず、パーティーを終えることができた。
レオンと家族の隔心については平行線を辿ったけど、それは私にはどうにもできない。こういう問題は、他人が口を出すと拗れるものだ。
せいぜい私に出来ることは、三人とレオンの仲を取り持つことくらいかな。
それはそうと。レオンがどうしてあんなに反発するのか分からない。
今の段階では何も断定できる資料がないから、一方的にどちらが悪い、と決めつけられるものでもない。
もし徹底的に原因を解明するのなら、四人全員から話を聞くことが必要もなるだろう。
……とまあ、とにかく。
パーティーが終わってすぐに、レオンが私に「中庭に行こうよ」と誘ってきたので、今、私たちは二人っきりで、だだっ広い王宮の中庭にいる。
ただ、会話をするというよりは、レオンが話して、私が聞き役に徹しているのだけれど。
「それでね、その時は十二歳だったんだけど…」
話題は主に、レオンのこと。
子供の頃に好きだった事とか、今の趣味とか。
私は、相づちを打ったり短い返事をするだけだけれど、それでも楽しかった。
私はそんなに話すのが得意ではないから、レオンの話を聞いているだけで、充分に楽しい。
嬉しそうなレオンを見るのも好きだし、彼の子供時代のことを知りたいとも思う。
レオンはレオンで、気分が高まっているのか頬も赤いし、楽しそうだし。
家族の話題は一切出ない。私に、レオンが言いたくないのを無理矢理聞き出す趣味はないから、あえて聞こうとは思わないが。
「その時に兎を撃ったのが、初めてした狩りだったんだ。銃を撃ったときの反動が、思っていたよりも強かったのが印象的だよ」
「その時から、王宮の外に出て遊ぶのが好きだったの?」
「んー……もっと前からだよ。初めて王宮を出たのは七歳の時だから、それから」
「行き先は? 森?」
「いや、町。ここから森までは距離がありすぎるし、子供の頃は森の存在すら知らなかったから」
「楽しかった?」
「うん! いろんなところに行けたし、いろんな人とお話できたから。
それからも、ちょくちょくお城を抜け出して、町に行ってたんだー」
レオンの反応が、小さい子を相手にしているみたいだなと思う。
どうしてそう思うのかと改めて考えてみれば、すぐに思い当たった。
外見は美形の長身なのに、笑顔が小さい子のようなんだ。
「そういうの、わくわくするね。冒険みたいで」
「あ、フェリネも冒険とか、探検とか、好き?」
僕は好きなんだよ、と報告してくる。屈託ない笑みを浮かべつつ。
そうだよね。幼い頃って、冒険とかそーいうのワクワクするよね。男子の場合は大人になってもそうなのかもしれないけど。
「森の中の散歩を探検だとするのなら、好きだよ。毎日、新たな発見があるからね」
「森って、『精霊の森』のこと?」
「うん。……ていうか、『精霊の森』からあんま出たことないよ。出ても、せいぜい近くにある町に出掛けるくらいで」
だから噂にも疎いし、物を知らない。
王宮の実物を見たのはこれが初めてだし、活気がある市場や落ち着いた町並みも、今日ここに来るときに見たのが初めて。
貴族や王族のことについての情報源は、書物だ。絵本もあるけど。
その数少ない絵本の中に出てきた王子様のイメージに、レオンがぴったりだったから、精霊が『おうじさま』って呼んだときにも何ら違和感なかっただけで…。
「……王子様に憧れてたとか、死んでも言えない…」
「ん? 何か言った、フェリネ?」
過去の自分が恥ずかしいやら黒歴史を思い出すやらで、落ち込み、ぶつぶつとボヤく。
突然俯いた私を、どうしたのかと、下から覗き込んでくるレオン。
何でもないよ、と力無く答えようとして、ふと気付いた。
──精霊たちが、騒いでいる。
『来るー』
『くる? たいき?』
『ようい、急ぐの』
『お任せあれ、なの!』
ざわざわと情報を伝達し合う彼ら。
突如顔を上げて視線をさまよわせ始めた私に、一瞬訝しげな表情をするレオン。
次の瞬間には、私が精霊と話をできると思い出したのか、合点のいった表情になった。
「あのね…」
精霊たちが騒いでいるの。
そう、説明をしようと、口を開いた、ちょうどその時だった。
──パンッ
乾いた音がしたと同時に、私の腕に鋭い痛みが走った。




