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アスティカ王国物語  作者: 白雨
6/12

The truth


バグっているとのご報告を受け、直しました。

ご迷惑をおかけしました。



「客室はこちらでございます」

「どうも、ご丁寧に」


 使用人の女性に案内された部屋は、豪華絢爛な家具や内装で彩られた所だった。

 高価そうな花瓶や、繊細な彫刻が施された天井と壁…。ベッドに腰を下ろしてみたら、すっごくふかふかだった。ここでダイブしてみたら楽しそうだと考えつつ、そのままベッドに寝っ転がり、肢体を投げ出した。

 そのまま、大きく左右にそれぞれ一回転しても余裕があるほどに大きいベッドで寛ぐ。柔らかな弾力を堪能していると、精霊(レーシーは基本的に森から離れないので、べつの精霊だと思う)が話しかけてきた。


『遊ぶー?』

「遊びません。寝る」

『ゆめのなか?』

「そうそう。夢の中に行ってくるよ、じゃあそーいうことで、おやすみ」


 目を瞑ると、案外早くに眠気が襲ってきた。自分では気付かなかったけれど、けっこう疲れていたようだ。

 頭の片隅でそう思いながら、私は意識を手放した。



◆◇◆◇



「──きて…い」 

「……ん」


 誰かの声で、夢の世界から覚めた。目はうっすらと開くものの、まだ頭は覚醒していないのでまともな返答が出来ない。

 そのまま寝ぼけなまこでぼーっとしていると、再び声をかけられた。


「起きて下さい、フェリネ様」

「……おはよう」


 目が覚めてすぐに、寝具の具合から、ここが王宮であることを思い出したフェリネは、そう反射的に答えた。

 フェリネの頭の中では、『自分を起こす=レオン』の等式が成り立っているのだ。そのことが実際に起こったことは、昼寝以外では今まで無かったが。

 それまでは一人で住んでいたから誰も起こしには来なかった。精霊は『寝る子は育つ』と言って、どれだけ惰眠を貪っていても、起こしてくれないのだ。


「おはようございます。寝ていらっしゃるところ申し訳ございません」

「いえ。ご用件は何ですか?」

「──半刻ほど前のことです。

 陛下が、レオナール様が帰ってこられたからと、政務をしていたライオス様をお呼びになりました。そして、宰相の皆様も広間にお集まりいただきまして。

 それから、レオナール様をお誘いなさったのですが……それを伝えると、レオナール様はそちらに行きたくないと仰られ、部屋に閉じこもってしまわれました。鍵を掛けて。

 原因も分からず、困っているのです。…久しぶりに王子のお姿を拝見できると皆様が喜んでおられるので、会えないとなると皆様が落胆されてしまいます。

 それを避けたいのです。どうにか、説得していただけないでしょうか?」


 …自分が、寝起きに強くて助かった。そうでなければ、もう一度この説明をしてもらわなければいけないところだった。

 彼女の仕草から、その案件は火急を要するようなので、端的かつ的確に、質問事項だけを頭の中でまとめ、問うことにした。


「ライオス様とは誰ですか? それと、レオンの様子は?」

「ライオス様は、第一王子であり、レオナール様の二つ違いの実兄でございます。

 申しわけございませんが…そのことをお伝えしたときのご様子は、その時対応した者に聞かないと分かりません。今現在は、自室にこもっていらっしゃいます」


 第一王子の名前も知らないのか、と訝しげな表情ながらも、きちんと答えてくれる彼女。

 …スミマセン。王子が二人いることすら知りませんでした。


「だいたいは把握できました。…レオンのところまで案内してくれますか?

 ──できるだけ尽力しますが、レオンにそれを強要するつもりはありませんので、そのつもりで。あと、もしかしたら大胆な行動にでるかもしれませんが、そのときはフォロー宜しくお願いしますね」


 後から難癖をつけられても困るので、あらかじめ断っておく。そんなことを王宮付きの侍女がするとは思えないけど、念のためだ。


 フェリネの答えに了承の意を示した彼女は、「よろしくお願いします」とお辞儀をした。



◆◇◆◇



「レオナール様、どうか鍵を開けて下さいませ」


 レオンの自室に着くと、そこでは侍女の一人が扉に向かって呼びかけていた。

 室内からは何の音もしない。


「レオン、私だけど」


 侍女たちから懇願されるような視線を受けて、私は声を発した。

 まさか、これだけ部屋の外で騒がれて、寝ていられるとは思えない。レオンの眠りはそんなに深くはないのだ。

 身じろぎ一つせずに数秒待ってみたが、返事はこない。やはり私でも駄目なのだろうと悟る。

 一ヶ月という少ない期間で、それなりに仲良くなれたとは思うけれど。私の一声だけで、はたしてレオンが反応を返してくれるのだろうか。


「別に、出てくるのが嫌なら嫌で良いから。生存確認だけでもさせてよ」



 ここで暴露すると、「精霊に室内の状況を伝えてもらえば良いのではないか?」と、ここに来るとき一瞬考えた。

 しかし、それでは私生活プライバシーも何もあったものではない。

 即座にその案は却下された。


 だから今は、精霊が何を言っているのか聞き取らないようにしている。

 うっかり部屋の中の様子を話されたら困るからだ。いつもなら事前にしないように言っておくのだが、今回は侍女がそばに居たためにできなかった。 


 私にとって、精霊との会話は、日常に組み込まれている。

 精霊同士で話しているのを聞かないようにすることは容易だけれど、私に向かって話しかけてくる言葉は無視しにくい。

 精霊の声は心に直接響く感じなのだ。


だから今は、物事を考えるのとは違う類の集中力が必要だった。



「…………本当に、フェリネ?」


 そんなことを回想していると、部屋から、か細い声が聞こえてきた。無事に生存が確認された。


「そうだよ。私も、集まりに参加しようと思うんだ。だから、一緒に行こうと思って呼びに来た」


 実際には、つい先ほどまで集まりがあることすら知らなかったのだが、レオンが望むのならその集まりに同行しようと思った。


「……フェリネも、行くの?」

「レオンが行くのならね。…つまり、この部屋から出るっていうことだけれど」


 暗に、出てこいと催促した。

 レオンは考えているのか、数秒沈黙した。それから、カチャカチャと何かをいじる音が聞こえてきた。


「…何やってるの?」

「……今、鍵を開けたから、フェリネだけ入ってきて」


 質問の答えのような、そうでないような返答が返ってきて、扉が少し開いた。

 侍女たちは、レオンの願い通りに、動くつもりはないようだ。それを見届けた後、私は扉を必要最低限だけ開けて、中に入った。

 入ると同時に閉められる扉。

 扉を閉めたレオンを振り返って、体調を確認しようと顔を見る。

 視線が合う前に、レオンが私の手を引いた。力は強くて少し痛かったけれど、レオンが震えていることに気付いた私は、抗議しなかった。

 されるがままに進むと、辿り着いた先はソファーだった。


「…座って」

「分かった」


 疲れたような声でそう言われる。これ以上、身体に負担をかけないようにと、レオンにも座るように勧めた。

 けれど、レオンは弱々しく首を横に振る。そして、そのまま床へと座った。

 座った、というよりは、崩れ落ちた感じだろうか。座る元気もないようで、ソファーの側面に寄りかかっていた。


「……どうして、この数時間の間にそんなに衰弱したの?」


 レオンの並々ならぬ様子に、直球で尋ねた。これ以上迂回していたら、レオンが大変なことになりそうだったからだ。具体的にどうなるとは言えないけれど、何となく嫌な予感がする。

 この質問をはぐらかすようならどうしようかと、次の手を考えていると、レオンの小さな声が鼓膜に届いた。


「思い出したんだよ」

「思い出したって…記憶を?」


 レオンはこくりと頷いた。そのまま、顔を上げずに語り始める。


「僕の、今までの記憶を全てね。

 ──…怪我の理由も分かったよ」

「……教えてくれる?」


 辛そうだけれど、聞かないことには対処できない。

 レオンは、肯定する代わりに話し続ける。


「怪我の理由はね、…端的に言うと、撃たれたから。

 それも、事故ではなく故意に。


 ──あの日。僕は、一人で狩りをしていた。『精霊の森』の近くにある、別の場所でね。

 乗馬は僕の趣味の内の一つで、その日も、いつものように森へ出かけた。

 森へ行くまでは馬車で、それからは自分の足で歩いてね。


 …その日は一日中粘ったんだけど、どうしてか獲物を一匹も見つけられなくて。

 悔しかったから、一匹くらいはしと仕留めてやろうと思って、森の中を動き回っていたら…いつの間にか夜になっていたんだ。

 さすがに父上たちも心配しているだろうし、御者も待たせているから帰ろうと思って、来た道を戻ろうと身体を半回転させてる時に撃たれた。多分、相手は僕の心臓を狙っていたんだろうけど、運良く外れたんだろうね。

 それから、霞む視界でどうにか犯人の顔を見ようと思ったんだけど……。

 どうやら、犯人はそのまま逃走したみたいで、走り去る足音だけ聞いた。残念ながら、顔は確認できなかったよ。

 …まぁ、安否確認されていたら、そこでトドメを打たれていただろうから、幸運だったと言えるんだろうけど」


 語り終えたレオンは、長い間詰めていた息を吐いた。


「どうして私だけ、会うのを許可したの?」

「犯人が分からないこの状況で、信用できるのはフェリネだけだからね。……王宮の者は、今は誰も信用できない」

「…何で、犯人は王宮の人限定なの? 馬鹿な貴族かもしれないじゃん」 

「僕があの森に行くのを知っていた──というか、そもそも、狩りを嗜むことを知っているのは、王宮内にいる人だけだからね。

 貴族を含む国民たちには、僕の趣味は弦楽器演奏だと知らされているから。あとは社交ダンスとかね。あくまでも、芸術面に長けているって設定なんだよ。


 それに、森へ行くために乗る馬車は、普通の人が乗るような外装にしてあるから、見た目で判断もできないよ。

 走っている時に王族の馬車だとバレたら大事おおごとだからね。王宮から出る時も、目につかないように細心の注意を払っているし、そもそも抜け道使うし」


 理論的かつ分かりやすい説明、ありがとうございました。


「集まりに出たくないのは、また撃たれるのを恐れているからってこと?」

「父上や母上がいるところで撃つとは思えないけど、念のためにね。

 犯罪に手を染める輩の思考回路は理解できないし、そもそも理性が働いていると思えないから、どんな奇行に出てもおかしくはないよ」


 そう言ってから、レオンは私の方を振り返った。どうしたのかと見つめていると、レオンが視線を合わせてきた。

 この部屋に入ってから、初めて交差した瞳。その聡明な瞳には、怯えが見て取れた。


 ──怖くないはずはないのだ。誰だって、命を狙われるのは怖い。

 狙われていると分かっているのにわざわざ姿を現すだなんて、愚の骨頂だ。

 そんなことをするのは、命を捨てたい者か、或いは力に自信がある者だけだ。


「…レオン。もし、私がさ…そのことに関して心配しなくて良いって言ったら、レオンは外に出てくれる?」

「……フェリネの事は信じているけど、その理由を聞かないことには何とも返答できない。…突拍子すぎるよ」

「ごめんごめん。

 種明かしをするとね、精霊に頼もうってことだよ」


 重々しい空気を払拭しようと思い、わざと「種明かしだなんて大仰なものじゃないけどね」と軽い口調で付け加える。


「……精霊に? …フェリネは精霊と喋ることができるの?」

「あれ、言ってなかった? そうだよ。

 ついでに言うと、『精霊の森』で倒れているレオンのことを知らせてくれたのも、意識がないレオンを小屋まで運ぶのを手伝ってくれたのも、精霊…レーシーたちだよ」

「…でも、ここにレーシーはいないよ?」

「あ、よく知ってるね」

「『精霊の森』にはレーシーがいるけれど、森からは出られない。…有名な童話だから、子供でも知ってるよ?」

「正確にいうと、離れられないんじゃなく、離れないんだけどね。風のシルフィーナや火のサラマンダーと違って、レーシー達には『精霊の森』という心地良い住処があるから。

 …まあもっとも、精霊にとって、『精霊の森』は総じて安らぎの場所らしいけど。


 ──話が脱線したけど、とにかく、精霊たちに頼めば大丈夫だよ。

 この話を聞いて、よく『精霊の森』に来る子たちが集まってきてくれているから、連携行動も大丈夫」

『『やるー』』

『いざ出陣っ』

「…精霊たちも味方だし」


 そう言って微笑んだら、少し固いながらもいつもの笑顔を返してくれた。

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