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アスティカ王国物語  作者: 白雨
5/12

Royal palace


◆◇◆◇


 ──そうして、私たちは、町から出てそのままの流れで王宮へと直行した。



 王宮に着いたと思ったら、すぐに国王、王妃と対面することになった。本当はそれなりの服を着用しないといけないんだろうけど、それは王宮側の事情により略された。(王妃様の、一刻も早く息子か確認したいという要望により。そりゃあ心配だよね)


 そして、玉座の間というところに呼ばれて、いよいよ対面。

 扉が仰々しく開けられ、中へ入るように促された。


「……」


 中に入ると同時に感じる、幾多の視線。中で待機していたらしい、騎士たちや使用人たちの視線だった。無遠慮ではなかったけれど、緊張している身にはけっこう辛い。

 ほとんどが、私の隣で歩くレオンに注がれていたんだけれど、それでも多少の居心地の悪さを感じた。


「──…被り物を取りなさい」


 凛とした声でそう言ったのは王妃様。さらさらとした長い金髪に茶瞳。お召し物は、裾に白いレースがあしらわれた、お淑やかな感じのふんわりドレスだ。首には真珠のネックレスらしき物。


 その隣で座っているのは王様。こちらは、生粋のアスティカ王国人らしく、髪も瞳も漆黒。着ている物は、赤を基調として、所々に金色で刺繍が施されている貴族服。…いや、服に金色を使うのが許されているのは王族だけだったから、王族服か。


 ──どちらも若い。

 この国で結婚が許されているのは、男女共に十六歳以上だから、第一王子の年齢である二一歳を考えると、少なくともお互いに三十代後半である。しかし、みたところ二十代にしか見えない。 



「…良いですけど」


 王妃様の、被り物を取れという命令に、渋々ながらも従うレオン。…どうしてそんなに嫌そうなの?


 周りの目から隠すために使われたフードが取れると、さらっさらな金髪が現れた。その髪を所有するレオンは無表情だったが、周りがどよめいた。

 所々から「王子!」という驚きが滲んだ声が上がることから、レオン=王子説はビンゴだったようだ。


「レオナールっ!」

「(あ、レオンって本名レオナールだったんだ)」


 感極まって抱きつく王妃様、それを感慨深げに見守る王様、そして感動の再会に涙ぐむ周囲。だが、その中心であるレオンはなぜか無表情。もちろん私も無表情。…というか、なんとなく蚊帳の外っぽいので、この騒ぎに乗じて今すぐおいとましたいとすら考えている。

 

「(帰って良いのかな? あぁ、駄目だとしても帰りたい…)」


 迷子の子犬レオンは無事に王宮まで送り届けたし、もう用はないよね?

 ……よし、帰らせてもらおう。誰もこっちに注意を払っていない今がチャンスだ!


「……」


 レオンたちを取り囲んでいる周りに気付かれないようにじりじりと後退、その輪を抜けたところで一気に逃げる!


『帰るのー?』

『遊ばないの?』

「…遊ぶって何!?」


 精霊たちに律儀に返答しながら、王宮の無駄に長い廊下を全力疾走する。ようやく曲がり角にたどり着き、勢いそのまま曲がり…


 ぼすっ。


「……ん? (ぼすっ?)」


 何かにぶつかった。痛くはなかったけど、そのまま体重をかけてみてもびくともしない。


「……」


 視界が真っ暗だ。

 離れようと思って身体を引こうとしたが、それも阻まれる。


「…フェリネ、どこに行くの?」

「……。いやいやいや、なんでレオンが此処にいるの? 感動の再会は!?」

「記憶ないから別に感動とかしないよ。それよりフェリネ、質問に答えて」

「……感動の再会を邪魔しちゃいけないかと思いまして」

「感動も何もないし、フェリネが帰るみたいだったから帰るって言ってきた」

「えぇ!? 王妃様の気持ち考えようよ! それに、王様だって心配してたんだし。せめて演技でも…」

「フェリネがどこか行くんじゃないかと、そっちの方が心配だった」

「私は、取り残された人たちの空気の方が心配だけどね!」


 重々しくなければいいけど。



「……ていうかレオン、腕ほどいて」

「嫌だよ。逃げるもん」

「逃げてもどうせ捕まるだろうから逃げないよ。…ていうか帰れって。(そして、あの場の空気をどうにかしてきて)」

「……帰りたくない」

「両親に甘えてきなよ」

「記憶ないから分からない」


 抱きしめているのを放して欲しいと頼んだのに解放されないし、帰りたくないって言いつつ、さらに固く抱きしめてくるし。…私、潰れるよ?


「はぁ…分かった。私も一緒に行くから」

「ずっと一緒にいる?」

「…それはどういう意味かな」


 行きたくないと渋るレオンの腕を引いて、無理やり戻らせる。

 余計なことを言われては困るので、そこを厳重に注意しておく。

 意を決して扉を開けると、そこの空気は文字通り固まっていた。


「……えぇっと…」


 謝罪すらできる雰囲気じゃない。それでも、そのままにしておくわけにはいかないので、声を発した。

 一斉に集まった多くの視線にたじろぎつつも、手早く説明をする。


「レオンを保護したのは私です。『精霊の森』にて、血を流して気を失っている彼を見つけて、看護しました。怪我の後遺症はありませんが、彼の記憶は一般常識を除いてほぼありません。原因は不明です。脳に被害を受けたわけではないようなので、一時的なものかもしれません。

 今日、町で張り紙を見て、そのまま王宮へ直行してきました。『精霊の森』からあまり出ないので、ビラに気付くのが遅れてしまいました。申し訳ございませんでした。…彼の姿はこの通りフードで隠してきましたので誰にも見られていないかと思います。金髪はこの国では目立つので、それを隠すためにこのような処置をとりました」

「……ええっと…」


 説明が早すぎて理解が追い付けないのか、口ごもる王妃様。

 この場で一番早く復帰したのは、さすがというか何というか、やはり王様であった。


「君は、『精霊の森』の近くに住んでいるのか?」

「…そうですねぇ」


 曖昧な返事をしておく。

 ここで肯定なんてしようものなら、精霊を見ることが出来ると思われてしまうじゃないか。つまり、有無を言わせず王宮に召しかかえられる……この大勢に囲まれて暮らすだなんて、それは絶対に避けたい!

 私は静かに暮らしたいんだよ。


「…記憶が、なくなっている?」

「(あ、お后様復活した)

 はい。…ですから、お二人が親だということも分かりません。自分のことでさえも、分かっているのはレオンという愛称だけでしたから」

「…そうか。大儀であった。

 ──客室を用意しておる。そこへ泊まっていきなさい」

「……はい、ありがとうございます」


 本心は今すぐ帰りたいけどね。




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