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アスティカ王国物語  作者: 白雨
3/12

A small town


「あとは、毒消し薬だっけ。ポワル草は…たぶんこっちなはず」


 基本的に、フェリネは香りを頼りに薬草を探している。

 ただ、あまりにも希少なものや、毒を含むために近寄ってはいけない所までは分からないので、さすがにそれは精霊たちに頼っているが。


『そっち、あるけど危険かも?』

『行ってもいいよーたぶん』

「ありがとう。…危険なの? 行っていいの?」

『ポワル草はえてるの、崖なの』

「絶対に行きません!」


 移動中に通る木の中に、たまに木の実がなっているものがある。それは、この森にしかならない果物であったり、食べれないけれども薬の元となるものであったりするから、見逃さないようにしている。

 とはいえ、目についたものを全て採集するわけにはいかないので、適度に戴く。


 人には食べることができないけれども特定の動物なら食べても平気、といった種類の木の実は、少量採集したものを夜のうちに窓際に置いておく。すると、朝には鳥などの小動物が食しているというわけだ。

 フェリネが迷惑だと言っている毎朝恒例の目覚まし騒動もこのせいだが、フェリネは、この習慣を一向にやめる気は全くなかった。



◆◇◆◇


「ただいまー」

「おかえり」

「…ほんと見違えるように綺麗になったね、この小屋」


 もっと早くに頼めば良かったという若干の後悔と、素直な驚きを交えてそうコメントすると、ぱぁっと嬉しげな表情になるレオン。褒めて褒めてと犬の尻尾をふっている幻が見えた。

 …レオン、(おそらく)貴族なのにこれで良いんだろうか。出会ってからのこの1か月で相当性格が変わったように思う。もっとも、記憶喪失だから元の性格は知らないけど。


「掃除終わったよー」

「ありがとう、レオン。じゃあお昼食べたら買い物行こうか」


 私は前から、薬草を売ってお金にしている。この『精霊の森』でとったものだから最高品質なのは間違いないし、新鮮なのはお墨付き。薬に加工すればこれまた状態のいい薬となるから、高値で売れる。乱獲するのは御法度だからあまり多くは作れないけれど、それでも欲しいと言ってくれる人たちはたくさんいた。


 そういえば痛み止めの薬を持ってきてほしいと頼まれていたな、と思考を巡らせながら町へと出る支度をする。


「昼食できたよ。…忙しいなら、来るまで食べるの待ってるから、急がなくていいけど」

「あ、今行く」


 朝食はフェリネ、昼食はレオン、夕食は二人で。レオンがここに住むことになった初日に二人で決めた通りに、お互いに作る。

 これならどちらの負担にもならないし、レオンの自立のためにも(これは断念したが)大切なことだろうと、フェリネが提案したのだった。


「いただきます」

「…召し上がれ?」

「何で疑問系? …あ、野菜スティック」

「専用ソースは二種類だよ。これが柑橘系の果物をベースにしたもので、こっちは──」


 和やかな時間が過ぎていく。


 …レオンはこの一月ひとつきで、メキメキと腕を上げた。

 当初は包丁すら握ったことがないと言っていたのに、少し教えたらすぐにそれを吸収して、今では私以上の料理の腕だ。

 飲み込みが早い上に初めてのことでも器用にこなすだなんて、天は人に二物を与えるらしい。


 …おっと違った、三物か。三つ目は容貌だ。

 長身ですらりとした体躯に見合わない力の強さ。日を受けると輝く金髪(この国では珍しい色だと思う)に、アイスブルーの知性に富んだ瞳。おまけに日光を知らないのかってくらい白い肌。…誰もが口を揃える、美男子だ。


 肌の白さは血が足りないからなのかと思ったが、どうやら違うらしい。どうして分かったのかというと、一週間ほど精の出る食事をとらせたにもかかわらず、一向に白いまま変わらなかったからだ。


「……ほれ、もっと食べろー」

「むぐっ? …フェリネこそ」

「私は全部食べたし」

「えー……食べるの早いよ」

「レオンが遅いだけだよ」


 私が食べ終わったというのにまだ終わっていないようだったから、ちょっかいをかけてみた。(…トロいんじゃなくて、上品な食べ方をしてるからなんだけどね)

 手に持ったパンを彼の口に運んで食べさせると、一瞬顔をしかめたもののあまり抵抗せずにパクついた。

 

 ──と、まあこんな風にレオンをからかいつつ、食事を終えた。



◆◇◆◇



「…ここが、エイネル?」

「そうだよ。気まぐれにだけど、ここで薬草を売ってるんだ」


 隣のフードを被った人物──レオンにそう問われ、頷いた。

 レオンの容姿は良くも悪くも目立つから、念のためにフード付きのローブを着せたのだ。


 ここで、少し余談。

 我が国は隣国と仲が良いけれど、鎖国時代に育ったこの国独特の文化に馴染めないからか、他の国から嫁いでくる人はあまりいない。

 この町を含め、この国では黒髪や茶髪の人が多いのは、そういう理由わけだった。

 因みに、瞳の色は多種多様だ。


 …まぁ、適当に歩いていれば用のある人から寄ってくるだろうから、自分の買い物をしよう。



「(まずは包帯とガーゼかな)

 すみません、セレスさんいますかー?」


 木で作られたドアを開けて中へ声をかけると、すぐに返事があった。


「おぉ、森のお嬢ちゃん。久しぶりだね。何の用だい?」

「お久しぶりです。ええっと、網ガーゼと包帯が無くなってきたので、それを一つずつ下さい」

「あいよ。毎度あり!」


 きっちりとお金を払って、ガーゼと包帯を受け取る。それらを仕舞っていると、薬屋の店主であるセレスが傍らに立つレオンに話しかけてきた。


「おや、お兄ちゃんは見たことのない顔だね。お嬢ちゃんのお弟子さんかい?」

「……」


 なかなか質問の返答がないので、疑問に思って顔を上げると、レオンが困ったような表情で固まっていた。

 ……そんな、助けを求めるような視線でこちらを見られても困る。私にどうしろと。


「…すみません、人見知りなんです。っていうか、弟子はとらないって言ってるでしょう。そうじゃなくて…いつものことです」


 この店には、森でけが人が出る度に来ている。案の定、この説明で大体を察してくれたようで、ああ、と納得の表情で頷かれた。


「もう怪我は大丈夫なのか?」

「……多分?」


 そう聞かれたレオンが、首を傾げてこちらを窺ってきた。

 なぜ私を見る。


「ええ、大丈夫です」


 いまいちはっきりとした返答をしないレオンの代わりに答える。

 セレスは、そんなレオンと私を代わる代わる見てから、


「随分と懐かれてるな、お嬢ちゃん」

「…どうなんでしょうかね」


 そんな微笑ましげに見られても困るのですが。




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