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アスティカ王国物語  作者: 白雨
2/12

Communal life


 ──フェリネ・アーデライトの朝は、小鳥のさえずりから始まります。(……というと聞こえは良いが、朝っぱらからやかましく耳許で鳴かれるこちらの身にもなってほしい。目覚まし時計というより、立派な騒音だ)


 まだ寝たい気持ちを切り替えるために井戸の清水で顔を洗ってから、動きやすさを重視した服を着る…それだけで、彼女の身仕度は完了です。


 それから、彼女は小屋の周りの陽の当たる場所に洗濯物を干します。小屋の周りは木々があまりないため、長時間日光が当たるからです。

 ──ただ、陽が当たるとは言っても、所詮ここは森の中。朝早くから干したとして、日没前にようやく乾くといった感じです。

 そんな感じですから、曇り空、ましてや雨の日は、洗濯物は諦める他ありません。まあ、そういう日は長く続いて三日ほどですから、生活にあまり支障はありませんが。


 最近は晴れの日が続いているから良いけれど…と考えつつ、フェリネは空をぼんやりと見上げます。この行動に特に意味はありません。いわば、フェリネの習慣のようなものでしょうか。


 洗濯物を干し終えたのち、ささっと簡単に作った朝食を、小さなテーブルに二人分並べます。朝食の置き方を考えながら運んでいると、もう一人の住人が起きてきました。


「おはよう、フェリネ」

「あぁ、おはよう」


 ふんわりと、魅惑の王子様スマイル(フェリネ命名)を浮かべるレオン。寝起きだと、この笑顔が何倍にも輝いて見えるのです。


「(レオンの七不思議だわ)」


 実際には七つもありませんが。


「ねぇ、今日の朝ご飯は何?」 

「麦のパンと、胃腸に優しい野菜スープとサラダと、あと炒り卵」

「これが炒り卵っていうの? 初めて食べる。楽しみ」

「あんまり期待しない方がいいよ。落胆との差が少なくて済むから」

「この一か月で、フェリネの料理の腕は分かってるよ。だから期待してるの」

「……その口説き文句、私以外のお嬢さんにやれば? すごく喜ばれると思うよ」


 褒められ慣れていないから反応に困る。答えに窮してそう答えれば、苦笑が返ってきた。


 ──あの日、レオンをこの小屋で面倒を見始めた日から、早くも1か月が過ぎた。


 レオンが快方に向かっていると確信したのは、彼が初めて目覚めてから二日後──この小屋に運んできてから三日後のことだった。

 このころには流動食を食べれるようになり、日中を寝て過ごすということもなくなってきていた。

 長時間話しても大丈夫そうだと確信したので、それとなく怪我の具合を確認してみると、思ったより良かった。傷は化膿せずに治りかけており、幸い怪我の後遺症も無かったのだ。

 腕の筋が切れていたら、だとか、骨に異常があったら、とか心配していたのだが、それも無く。ひとまず、日常的な生活は自力で営めるだろうと判断した。

 そうして、もう一つ分かったのは、記憶の欠陥は自分の生い立ちに関することだけだということだった。昨日確認してみたところ、これまでに受けた教養や一般常識などは記憶にあることが分かったのだ。



 ──自力で生きていけると分かれば、もうこちらで面倒を見る必要はないだろう。

 そう考え、レオンにそのことを告げようとしたのだが、


『まだおうじさま治ってないのにー』

『フェリネの鬼畜ぅ』

『……可哀想』


 その度に、精霊たちにことごとく阻まれた。

 精霊たちのレオンの呼び名である『王子様』は、恐らく見た目から付けたのだろう。確かにピッタリだと思う。


 …私=鬼畜発言かましてくれたレーシーに一言言っておこう。私は鬼畜じゃない。他人と極力関わりたくないだけだ!

 ……そりゃあ、ここ『精霊の森』で死なれるのは避けたいし、精霊たちも嫌がるからさー、助けるけど。

 でもさー…ここまで回復したなら、森の近くの町に保護してもらえば後は自分でどうにかすると思うんだよ。

 命は助かったんだから、後は自分の努力でどうにかできるだろうに。…できなくても、どうにかして下さい。


 ──…いつもは反対しないし、むしろ『じゃあねー』って言って、見送るの推進派なのに。どうしてコイツ…レオンの時だけ止めるんだろ?

 精霊たちは人間の顔の良し悪しで懐くわけじゃないから(もしそうだとしたら、私に友好的な筈がない)、何かもっと他の理由があるんだろうけれど…──


 ともかく、かくかくしかじかな理由により、レオンとの小屋共有生活が始まったのだった。




 ──朝食後のこと。


「フェリネ、午前中は何をすれば良い?」

「えーっと…小屋の掃除と薬草摘みを予定してる。あと、できれば晴れているうちに近くの町で買い物をしたい。ただ、これは別に今すぐじゃないといけないってわけじゃないので、可能ならしたいって範疇はんちゅうとどまるけど」


 問いかけにそう答えると、レオンが首を傾げつつ提案してきた。…彼の背は私より高いのだが、私が食器を洗うために立っているので、座っている彼は自然と上目遣いになるみたいだ。美形がすると絵になる。

 断りを入れておくと、別に手伝ってもらわなくて構わないし、やることなすことが許可制なわけじゃない。けど、レオン的には一応家主である私の許可がいるらしく、毎日聞いてくるのだ。

 初めはこの決まり(?)に戸惑ったが、今はもう慣れた。逡巡せずにスラスラと答えることができた。


「僕は買い物でも行ってこようか? 寝ているうちに衰えた体力をつけるためにも」

「体力をつけるんなら、小屋の掃除をしていた方がいいと思う。小屋には私が届かないところが多々あるから、そこを重点的にしてくれるかな?」

「うん、分かった」

「レオンが掃除をしてくれているなら、その間に私は薬草を摘んでくるよ。それで、もし時間に余裕が生まれたら、一緒に町まで買い物に行こう。道を覚えてもらわないとだし」

「任せて! じゃあフェリネ、気を付けてね」

「うん。レオンも怪我しないように。…じゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい。気を付けて」



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