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世界の神話・異聞  作者: 叶 遼太郎
【外伝 現代に生きるありとあらゆるモノ】
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箸休め 上

 息苦しい。

 意識は覚醒したが、目を開けても暗闇しか見えない。頭を振っても、暗闇はぬぐえない。しばらくあがいてみたが、どうにもならない。手足も動かず、体をゆすることすら出来ないのだから。どうやら椅子に体をくくりつけられているようだ。諦めて大人しくしていると、顔をざらざらとした質感の何かが撫でる。ずるずると、下から上へ。あご、頬と順にその不快感は消えていき、変わりに顔の周りが充分な空気に満たされた。顔にまとわりついていた暗闇が取り払われた。

「っつ」

 息苦しさから開放されたは良いものの、次は白い闇が視界を覆った。痛みすら感じる視界不良の原因は、強烈なLEDライトが顔に直接向けられているせいだ。少しでも痛みから逃げるために、首を左右上下に曲げ、俯く体勢に行き着いた。

「ようやくお目覚め?」

 後頭部に声が降りてくる。女性の声だ。声が少し枯れているのは、加齢のためか、はたまたタバコや酒などの外的要因か。

「・・・どちらさん?」

 呼びかけた自分の声は、思いのほか小さい。

「坂元辰真。二十九歳。カフェ店員・・・」

 人の問いに答えず、女性はつらつらと自分の経歴を述べていく。プライバシーなどあったものではない。

「だけど、君の経歴には欠けている部分がある。そうでしょう?」

「欠けている、と言われても困るんだが。ずいぶん詳しくお調べなさってるみたいで。その優れた情報収集力に引っかからないような経歴を、僕が持ってると?」

 ばかばかしい、と顔を振る。いい加減ライトをよそに向けて欲しい。

「思っているわ」

 LEDの強烈な光に影が差す。誰かが間に入ったのだ。相手の顔は逆光で良く見えないが、おそらくさっきから話しかけてくる女性だろう。

「カフェの店員は仮の姿。坂元辰真。あなたは、この世界の支配を目論む宇宙人の尖兵。そうなんでしょう?」

「そうなんでしょうもどうなんでしょうも、あるかよ。今時子どもでもここまで真面目にごっこ遊びなんぞしないぞ」

「ごっこじゃないわ。これは、綿密な調査によってつまびらかにされた、純然たる事実。だから私は、私たちはあなたを拉致してまで連れてきた」

 普通だったら犯罪よ。と女は苦笑した。

「普通じゃなくてもこの国なら拉致監禁は立派な犯罪だよ」

「誤解しているわね。それは、人が人に対してしたら、よ。宇宙人、別の種族に対して適用されないわ。そこらのカラスを捕らえても罪に問われないでしょう?」

「人をそこらのカラス扱いかよ」

「カラスよりもたちが悪いわ。あなた方はゴミを漁るように、人を漁って改造して、少しずつ人類を駆逐しているのでしょう。水面下で、気づけばひっくり返せないように」

「・・・はあ、で? その尊大で遠大な計画を読んだあんたは何者だい?」

「私たちは『惑星の守護者』。古よりあなたのような侵略者と戦う者よ」



「惑星の守護者様が何用だよ。僕はどこにでもいる、ただの一般人だ。ポイ捨てしたことがあるからか? それなら今後は改める。きちんとゴミはゴミ箱に捨てるよ」

 ため息をつきながら、坂元は目の前の影に言った。

「一般人なら発狂するような状況で平然としているのが、何よりの証拠とは思わない?」

「驚きすぎて驚けないんだよ。何だこの状況は一体」

 目を細めながら、分かる範囲で周囲を確認する。

 セメントむき出しの壁が四方を囲む。窓は左側に一つ。多くの窓に使われるクレセント錠、片方の窓についているつまみを動かすことで、もう片方の窓にある鍵受けの部分に引っ掛けてかけるタイプだ。右側には扉が一つ。唯一の出入り口だろう。天井にはむき出しの白熱電球。LEDよりも優しい光で部屋を照らし出している。後は、さっきから人の顔を照らし続けているLEDライトと、それを置いている机。

 まるで取調室だ。実際に入った事はないけど。

「訴えたら絶対に勝てる要素ばかりだな。拉致監禁に拘束、訳の分からん罪による冤罪の三点セットだ。拘束を解いてさっさと家に返してくれたら、見逃してやるつもりだが?」

「交渉にもならない、下手な嘘はおよしなさい。調べはついていると言ったでしょう? あなたは宇宙人の仲間。その証拠よ。見なさい」

 ばらばらと机の上に何かがばら撒かれる音。

「見なさいと言われても、遠いし、ライトがまぶしくて見えないんだが」

 見せつけるように顔をしかめる。影があごをしゃくるような動作をする。光の中から男が二人現れ、坂元を縛りつけた椅子ごと持ち上げ、机の前まで運ぶ。がたん、と乱暴に設置する。クッションもないステンレスむき出しの椅子から振動と衝撃がもろに伝わる。

「もう少し丁寧に運べないのか。引越し屋のバイトなら即クビになるぞ」

「気をつけるよう注意しておくわ。それより、これを見て」

 目の前に突きつけられるのは。数枚の写真。坂元と、これまでの客が映っている。最近の客である安倍晶や金長和人も映っている。その中に、『彼女』が映っているのを発見して、坂元は片目だけを器用に細めた。

「どれもこれも、企業のCEOやら社長やら支配人やら、各方面の有力者ばかりよ。たかがカフェ店員がどうやって彼らとパイプを作ったのかしら」

「常連なんだよ。カフェの。店長の腕が良いからか、上流階級の御仁が良く来るんだ。その流れで知り会ったんだ」

「その割には、あなた週一くらいしか勤務していないじゃない。曜日もまちまち。それで各界のビッグネームと出会って知り合えるってすごいわね。コミュニケーション不得手そうなのに」

「不得手なのはほっとけ。幸運だっただけ。偶然に偶然が重なっただけだよ」

「違うでしょう」

 坂元の言葉を戯言と言わんばかりに、守護者たる女性は切って捨てた。

「彼らが来て、たまたまあなたがいて、幸運にも知りあった? 違うわ。全部逆よ。彼らは、あなた目当てで来店したの」

「へえ? 一体どんな理由で僕に会ったって言うんだ?」

「決まっているわ。彼らは、あなたが送り込んだ協力者たち。この国の中枢にあなたが打ち込んだ楔。裏から支配するために、あなたは支配者層を取り込んだのよ。違う?」

 違うと言っても、信じてくれなさそうだ。彼女は、完全に自分の説を信じ込んでいる。何を言っても、宇宙人の言い訳としか見ず、耳から通って頭に達した頃には、自分にとって都合の良い話になっていることだろう。

「はあ。ま、色々置いといて、だ。惑星の守護者たるあんたらは、宇宙人の尖兵である僕をこんなところまで連れてきて、どうしようってんだ?」

「あなたたちの存在を世間に公表し、警鐘を鳴らす。そして、あなたたちの侵略に備えて地球人が一丸となるの」

「地球人が一丸になるのは良いことだとは思うよ。敵がいなければ一丸になれないのはちょっと悲しいけどね」

「黙りなさい。侵略者。すぐにあなたたちの化けの皮を剥いでやるわ」

「穏やかじゃないな。剥ぐって、僕をどうする気だ。そもそもどうやって宇宙人の存在を公表する? 警鐘をどうやって鳴らす。危機が差し迫ってもいないのに。あんたらが一丸にしようとしている人間は、ケツに火がつかなきゃ危機だと理解できないもんだろ?」

「ええ、だから、まずは火をつけるの」

「・・・穏やかを通り越して過激になったな。本末転倒と言うんじゃないのか」

「そんなことはないわ。だって、火をつけるのはあなただもの」

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