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世界の神話・異聞  作者: 叶 遼太郎
天使は空を侵略し、悪魔は大地を蹂躙する
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戦いは準備が八割

 ルシフル達は律儀なことに、昨日と同じ時間帯に現れた。かがり火が焚かれる広場の中心に、純白の翼が舞い降りる。

「出迎えか」

 広場にいる獣人たちを見渡す。

「急がせて悪いが、昨日の答えを聞かせてもらおうか」

 その呼びかけに、リャンシィが村人代表で、ルシフルの前に進み出た。

「ルシフル殿。ここにいるのは、あなたに協力すると申し出た者たちだ」

「そうか、・・・助かる」

 ふ、とルシフルから幾分緊張感が抜けたような気がした。

「だが、条件が二つある。条件次第で協力する」

「条件?」

 眉を顰めたのは共に現れたラジエルだ。気にせずリャンシィは続けた。

「一つ。あんたたちは、今日俺たちが戦いで何をするのかを指示するつもりなんだろう? その時、俺たちに無茶なことを言っていると思ったら、俺たちは考えを改めさせてもらう」

「おいおい、ここまできといてやっぱやめた、なんて、通ると思うので? こっちは協力するからにはそれを踏まえて戦うつもりなんだがね」

 ラジエルが笑みを作る。しかしそれは友好的な物とは程遠い、相手を威嚇する笑みだ。

「あら? それじゃあ、あんたらは私たちにそんな無茶なことをさせようって言うの? そちらとしては、後で作戦を無視される方が困るんじゃないの?」

 脅しに屈することなく、真っ向から言い返したのはリヴだ。意外にも彼女もここに残った。

「・・・」

 間に入ってとりなそうとしたルシフルが、固まった。整った顔が驚きに染まっている。奴の視線の先にいたのは、今しがた生意気な口を叩いたリヴだ。

「な、なによ・・・」

「・・・・」

 声は出ない。だが、口と舌がわずかに動いた。短い単語だ。多分二、三文字。人を見ながら呟いたってことは誰かの名前か。

「いや、すまない。なんでもない」

 軽く頭を振り、気を取り直したように、ルシフルは説明する。

「そちらの言い分はもっともだ。私たちとしては、素直に敵の出方や力量もわからないのに何をさせられるか不安もあるだろう。その点についてはこれから説明する」

 懐から何かを取り出した。丸い水晶みたいなものだ。ルシフルは、片手でそれを掲げながら、もう片方の手でその表面を撫でた。

 おお、と周囲がざわめく。水晶から光が溢れ、空中に地図が出現したのだ。それも衛星から撮影したと思しき鮮明な映像だ。天使はホログラムまで使うのか。でも、考えてみれば並行世界を行き来する技術を持っている連中だ。その程度の技術くらいあるだろう。

「今見てもらってるのは、この辺りの地図だ。我々の門、天界とこの世界が繋がる場所がここ」

 ルシフルが再び水晶を操作すると、地図の一部が線で囲われた。あの水晶はタブレット型の端末みたいなものか。あれ欲しいな。僕には報酬としてあれを要求しようかな。

「そして、この村がここになる。悪魔どもの門出現予測地点はこの辺りになるか」

 合計三か所が丸で囲まれた。南東側に村、そこから北に進んだところに天使の門。そこから真西へ行ったところに悪魔の門出現予測地点がある。

「そして、おそらく我々と悪魔がぶつかるのはここ」

 天使の門と悪魔の門の間に印が入る。

「皆には、戦闘が始まってしばらくしてから進軍し、悪魔どもの背後から奇襲を行ってもらいたい」

 地図に矢印が引かれる。線は村から弧を描き、悪魔側の背後を突いた。戦術としては分かりやすく効果的だ。悪魔側は獣人の存在を知らない。今回も天使とのガチンコ勝負だと思っているから、背後から襲われるなど考えてもいないだろう。

「悪魔どもの軍は大きく分けて三つの種類がある。一つは近距離を得意とする部隊。私のような剣や斧等で戦う部隊だと思ってくれて構わない。二つ目は遠距離からの魔法や、こういう飛び道具で戦う部隊」

 隣でラジエルがごそごそと背中から取り出したのは、まさかのガトリング。あのランボーやターミネーター御用達のゴツイ奴だ。射線を空けるように指示し、的を立てた。キュルキュルと砲塔が回転し始め、火を噴く。

 ボゴボガボゴボガッ、砲の先端からまばゆい閃光が迸るたびに轟音が獣人たちの耳を滅多打ちにし、的は穴だらけになっていった。

 あのガトリング、僕の知ってるガトリングと少し違う。薬きょうが落ちてない。なら何を飛ばしているんだ?

 ガトリングの銃声が止んだ頃、的は既に形を失っていた。

「こいつは銃と言って、この砲塔から銃弾を飛ばして敵を討つ武器だ。矢の鏃だけが飛んでいくと思ってもらって構わない。銃の種類はいくつもあって、これは一番シンプルな、使用者の魔力を銃弾に変換して放つタイプ。他にも着弾したら破裂する銃弾を放つタイプや、魔力を使わずにあらかじめ用意された弾丸を放つタイプもある・・・んだが。皆、大丈夫か? 聞こえているか?」

 ルシフルが尋ねるのも無理はない。獣人たちは皆耳を押さえて目を回している。発達しすぎた耳が何も知らないままあんな轟音を捉え、夜でもよく見える彼らの目は閃光の明滅を浴び続けたのだ。暗視ゴーグル使用者がフラッシュグレネード喰らったみたいにもなる。

 元に戻るまで、しばらく全員が耳を押さえたり瞬きを何度も繰り返したりしていた。

「ルシフル殿。今度からは事前に言っていただけると助かるのだけど」

 本当に噛みつきかねない全員の怒りを何とか抑え、リャンシィが切に願った。すまない、とルシフルは小さくなる。

「気を取り直して、三つ目。この部隊は近距離、遠距離両方の部隊が混ざった部隊で、皆と同じ奇襲や援護等、戦況に応じて臨機応変に戦う遊軍だ。他の二つの部隊に比べて少ないが、いくつかの少数部隊に分かれ、相手をかき回す。以上三つの部隊だ。本当はもっと細かく、率いる将ごとに軍が分かれ、部隊はさらに細分化されるが、それらを説明するには時間が足りないし、どんな将が率いるどんな部隊かなどは当日にならないと判明しないため、割愛させてもらう」

 メインで戦うのが最初の近距離と遠距離の二つの部隊。そいつらがやりあってる間に、遊軍が走り回って敵を崩す。

「やることはわかった。俺たちは、あんたらの遊軍の一つとして動けばいいってことだな?」

 銃の威力を見て、てっきり腰が引けるかと思いきや、リャンシィは当たり前のように、ああいう物もあるんだろう、みたいな顔で受け入れ、話を進めていた。未開の人間があんな凶悪な武器を見たら勝ち目無しと判断するかと思ったのだが。周りも、音はうるさくて驚いたけど、という認識ではあるが、怯えは見えない。彼らの中では、恐怖するに値しないのだろうか。肝が据わっているのか、はたまた僕を超える戦闘狂なのか。

 ただまあ、天使側にとっては朗報だろう。あれで逃げ出されたら計画は狂ってしまうのだから。あのデモンストレーションは、彼らにとってのふるいだったのだろう。あれで逃げてしまうようであれば役に立たない、みたいな感じの。

 戦場ではガトリングや、話ぶりからするとミサイルっぽい物も飛び交うようだ。あの程度で逃げてたら話にならない。

「そういう事になる。どうだ、やってもらえるか」

 リャンシィは村人たちの方を振り返る。問題ない、という顔の者から、納得いかない、という顔の者、様々だが、最後には全員が頷いた。

「分かった。協力する。言われた通り行動しよう」

「良し。・・・では、二つ目の条件を聞こうか」

 ルシフルが緊張を持って尋ねる。

「報酬だ」

「報酬?」

「そうだ。あんたらの指示で戦う訳だから、報酬が欲しい」

「例えば?」

「そうだな。まずは、これ以上あんたらの戦争の置き土産、虫とかゾンビ、死霊兵、だったか? あいつらに襲われるのはこりごりだ。この戦いが終わったらそいつらを全部連れて帰るか、せめて、俺たちを襲わないようにしてくれ。虫を操って俺たちの実力を試したんだから、それくらいの操作は可能なんじゃないのか?」

 どうなんだ? というリャンシィの問い、村人たちからの視線に「可能だ」とルシフルが答える。要求は一つ通ったようだ。

「他には?」

「この世界に、戦いとか、二度と問題を持ち込まないでくれ」

 その条件に、天使たちは目を瞬かせた。

「巻き込まれるのは、俺たちだけで充分だ。俺たちはあんたたちが勝つように頑張る。だから、今回で勝負を決めてくれ。悪魔の連中がいなくなれば、この世界は助かるんだろ? 問題はなくなるんだろ?」

「それは・・・」

「その通りだ」

 この問いに答えたのはラジエルだった。ルシフルが答えに詰まったように見えたのは気のせいだろうか。それをフォローする、もしくは余計なことを喋らせないように先に答えた。

「悪魔がいなくなれば、この世界を害そうとする連中はいなくなる。俺たちは、この世界を傷つけるつもりはないから、お宅らは助かり、俺たちも助かる。両方助かるんだ」

 それを聞いて安心したのか、獣人たちがホッとしたように胸をなでおろした。

「じゃあ、納得してもらえたところで、細かい作戦を詰めたい。お宅らの指揮を執るリーダーは集まってくれ。そのほかの皆も、聞いておきたい奴は残っていいし、必要ない奴は解散ってことで」

 獣人たちを見渡して、ラジエルが呼びかけた。リャンシィたちが彼の下に集まる。その中にはリヴや獅子のおっさんもいた。

「タケル、私たちも行くんでしょう?」

 クシナダに促され、僕も彼等の下へ向かう。

 さて、話は終わり、みたいな流れになったが、本当にそうだろうか。ならなぜルシフルは、あんな苦虫を噛み潰した様な、苦しそうな顔をしている?

 何か、裏があるんだろうな。まあ、当然だろう。悪魔と天使は、元は同じ種族なのだから。僕は戦うことが優先だ。彼らが何をたくらんでいようが知ったことではない。それでくたばるのも目的の一つだし。


 けれど、戦うからには勝ちに行く。


 いつの間にか、口の端がまた吊り上っている自分がいた。

続きを書かせていただきました。

次回からいよいよ戦闘です。

そして、今回は珍しい戦闘です。軍勢対軍勢です。

今まで強大な怪物対多数、一対一とかが多かったのですが

実力は同じ程度の連中がぶつかる予定です。


さておき、ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。

楽しんでいただければ幸いです。

またよろしければ、次回も遊びに来てください。

お待ちしております。

感想・レビュー・評価、お気軽にお寄せください。

よろしくお願い致します。

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