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――さて。

――さて。いささかの説明が必要だろう。


まず、何を隠そうあれが――《呪ワレシ血ヲ分有セシ》我が妹である。

肩甲骨くらいまで伸びたつややかな栗毛の髪。それとよく調和したクリっとした鳶色の瞳は愛らしくもあるが、整った顔立ちのせいか、どこか凛々しさすら感じられる。背は低く、体も女性としては貧相でちんちくりんなのだけれど、すらりと伸びた手足は、もうすぐ14歳という少女にしては、まあなんというか可能性を感じさせる。

兄の俺が言うのもなんだけれど、間違いなく美少女である。……血を分けしこの俺に似ず。プロトタイプとの差は歴然である。あれ? 普通、プロトタイプの方が性能はいいんじゃなかったっけ?


リュミエール兄妹といえば、自慢じゃないがこのトゥールーズの街で知らない者はいない。

妹、クレア・リュミエールとくれば、剣術は抜群、魔術も優秀。なにより、その若さで、世界秩序の安定を目的とした<聖騎士(パラディン)>の騎士団に入団することが確約されている。……と、これについては紙幅の都合上後述しよう。

とにかく、俺の妹は、すごく強くて、すごく賢いので、世界を守る騎士団からスカウトされてしまったということだ!

金と実益にしか興味のないこの街で、それ以外の理由で名声をとどろかせるなんてことは、並大抵のことではない。

しかし、そんな完全無欠の妹にも唯一にして、とんでもない、欠点――というか問題がある。クレアはどこで仕入れた知識なのか<暗黒騎士>とやらに憧れ、自分のことを<呪ワレシ血族ノ末裔>とかなんとかだと思い込んでいるのだ。


――そう、俺の妹は「厨二病」なのである。

つまり、さっきの奇天烈なポーズややりとりは、そうした妹の痛いマイブームというわけだ。


で、その優秀な妹と血を分けた俺――リヒト・リュミエールといえば、もちろん! ……剣術はやったことはある程度、魔法は、知識こそあるものの、実技に関しては、少々《癒し》系統の魔法が得意な程度だ。

つまり、「俺YOEEEEE!」なのである。

俺の悪名を街中に轟かせているのは、この妹とは対照的な無能っぷりだけではない。

――俺は本と勉強が好きなのだ。

普通、勉強は推奨されこそすれ、禁止されも見下されもしないだろう。しかし、ここ<交易都市国家トゥールーズ>ではまったくの逆なのだ。すなわちこの街では、富と実益だけが唯一の正義なのである。「ガクモン? それ何の役に立つの?」が入れ替わりの激しいトゥールーズ市民と街を出入りする雑多な商人たちとの一致した見解なのだ。

とりわけ俺は古書や魔術書の類に目がない。アレクサンドリアの方から来た隊商キャラバンがあれば、逗留の間中掘り出し物を探してからみ続けるし、陶器なんかを包む紙には古書の切れ端が使われてたりするので、勝手に根こそぎ頂戴する。ほしい理由を説明したって相手にされるわけないからだ。


そんなわけで、リュミエール妹クレアは名声を、兄リヒトは悪名を、この街でほしいままにしているというわけだ。

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