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パンツァー・ブル

「目前のオラストル級から、イシルディンの部隊が展開しているのを確認!数は四、それら全てがエリアルフロートを装備してる!」

通信士のジークが叫ぶ。

「っ、エリアルフロート、空中戦に持ち込むつもりか……」

リーテはそのまだ潤いがある眉間に皺を寄せる。エリアルフロート。イシルディン用の空中戦対応化オプションである。

「マトモに飛べる機体で残ってるのはジュリエザだけど、ねぇ」

エリアルフロートはいざと言う時の為に備えておくべきとは考えていたが、かなり前の戦闘で全て打ち捨ててしまっていた。

どうするか。

「私、出れますよ」

デッキのモニターに、イシルディンのコクピットの様子が映される。

「シャノンさん」

リーテは一瞬悩んだ。エリアルフロートが無ければマトモな空中戦も出来ない。おまけに彼女の機体は……

「魔力タンクを積んでる。滞空は無理でも、降下しながら撃つことは出来るはずよ」

通信は途絶えた。リーテが呼ぶ声も彼女にはもう届かない。

「大丈夫、なのかな……」


アルグレスが地上から戻ってこないと言う事は、あちらも苦戦している事を示すのはだいたいわかる。牡牛に翼は……不適切で不格好か。しかしウジウジ考えてはられなかった。

「シャノン・エルダーヴォルフ、ブロンディス……行きます」

背中から倒れ、降下する。砲塔が手首を軸に、回転する。地から空を向く砲身。ブーストを更かし、出来る限り滞空時間を延ばす。そして、引き金を。

魔力を纏った徹甲弾が、天駆ける馬に跨るケステロスに迫ってゆく。三発撃ち、命中したのは一発。こうべは吹き飛ばされ粉々となる。それを追うように落ちる胴体。

残りは三つ。背部に装備している魔導制御ミサイルポッドの蓋が開く。

煙を上げ、弧を描きながら空を登る。その間に右手の砲塔で狙いを定める。爆発が起こると同時にその引き金を。三つは落とせたか。腕を。胸を。腰を抉られた歩兵が馬と共に地へ近づく。碧の牡牛は地に向ける物を足と変え、地響きをさせて着地する。


「あれが第七魔艇団がやられた《ウサギ》なのか?」

聖騎士団にのみ与えられるイシルディンのアールムス、武器を構える。

背中に装備された鞘から剣を抜くその姿。まさしく騎士、それも高貴な。しろの装甲を彩る黄金の装飾。その佇まいは兵器よりも、洋室の棚や窓際に置く美術品の方が相応しい物である。フェイスガードの中から一対の光が、勇者を睨み付ける。騎士、勇者。二体の巨人。睨み合いは続く……

空から響く爆音と共に跳躍するは、アルグレス。武器を保持する右腕、その関節へ刃が向かう。ガキン、と音が合わさった刃から発せられる。弾かれ、アルグレスは仰け反る。一瞬の隙……アールムスは突く。アルグレスの左方の脇腹に斬り込みを入れ、エーテルの血液を飛び散らせる。アルグレスは構わず、剣を振りかぶる。軋み、刃から悲鳴のような金属音が発せ られる。鍔迫り合いとなる。額と額がぶつかり、衝撃をルインの、オーウェンの……コクピットへと伝える。眼前にある、勇者の眼。眼前にある、騎士の眼光。

「手練か、〈ウサギ〉……っ」

「鶏冠野郎……」

互いに実力を噛み締める。不意打ちでアルグレスのこめかみからバルカンを発砲。面を食らわせた。ルインは心中で拳を握り締める。左に剣を持ち替え、右手でアールムスを殴り飛ばす。騎士は倒れ、首を起こしアルグレスを睨む。

突如、ソニアがハッチを開けて身を乗り出し、叫ぶ。

「兄さん!もう戦うのはやめてよ!」

騎士の胸のハッチも開き、中の騎士が顔を出す。

「ソニア……なのか……」

金を帯びた瞳に映る、金を帯びた瞳。彼らは夜空のような紺青の髪。それは風になびき、風は森のさざめきを呼び、倒れた木の転がる荒廃の地へ消える。

「兄さん、こんな戦い意味ないじゃないの、こんな事止めて騎士なんか……」

「だが、こうせねば姫と皇帝は……」

オーウェンは機体を起こす。彼が睨んだ、蒼の瞳。

「ソニア、彼は」

口を開こうとしたソニアを、ルインが遮る。

「俺が言う。ルイン……ルイン・リゼイデル」

オーウェンは、少し目を細める。睨んだようにルインには見えた。

「避けたのか、コクピットを」

ルインは少し驚いたように、しかしすぐさま落ち着きを取り戻し、

「俺にも……わからない」

オーウェンは口角を少し上げ、 ふと柔らかい表情を見せた、気がした。

「ルイン・リゼイデル。……死ぬな」

ハッチを閉じ、背中を向ける。何故敵の前でそんな事が出来るのか。ルインは戸惑う。そうしているうちに、騎士は森の奥へ消えていった。


「このままだとかち合う、ルインくんを呼べるかな」

リーテは焦った様子だ。飛空戦艇が目の前にいる。小型の魔艇が後続しているのも見える。敵の搭載しているイシルディンの数がわからない異常、下手に突っ込む事は出来なかった。奥の手こそあるが、それこそルイン達の操るイシルディンが無ければ……

だが、確実な方にしておいた方が、ここではベター、リーテは思考する。

「整備班、ジュリエザをバアル、ゼブル両方とも修理を急がせてちょうだい、現時点の損傷で武装がフルに使えないなら、リミッターもかけて、ね」

リーテの願いに、バアルに集中させれば、直ぐにでも出せると提案。承諾するリーテ。そして。


独房にリーテの声が響く。ヘルムを独房から出して、ジュリエザに乗せて出撃させろ、との事だった。

「聴こえたなヘルム、出ろ」

ブレードが解錠し、鉄格子を開ける。

「へへへ、やっと出れるか」

「一先ず、艦長の所へ行って作戦内容を聴いてこい」

廊下を一直線に駆けるヘルム。

「死ぬなよっ、ヘルム」

ラディの声が聴こえたのか、片手で親指を立てたサインを後ろへ振り返り、見せた。


エッケザックスからジュリエザ・バアルが飛び出す。時間を稼ぎ、エッケザックスの囮になれと聴いたヘルム。敵の魔導艦に近付くと、そうさせまいと敵のイシルディンが展開する。ジュリエザが体の各所にある宝玉から放つ光線は、敵のイシルディン達を近づけさせない。

「ほら、ついて来なっ」

ジュリエザが高度を上げ、それを追う枢機卿のイシルディン。全てはリーテの手の内か。エッケザックスが、前進をする。そのまま、前進をする。その刃を敵の艦へ向けて。

「揺れますぜ、艦長っ…」

操舵士が警告する。

「これのために建造されたんでしょ、この戦艦は」

さらに加速する。枢機卿のイシルディンが踊らされていたと気付いた時には、既に剣は貫き、オラストル級は炎を噴いていた。

「でなきゃ、こんな形してないよ」

リーテは呟いた。


「敵の戦艦が墜ちてるのか?」

ケステロスに囲まれたルインが敵を掃討しながら、向こうの空を見て呟く。センサーの反応を見て、ソニアは返答する。

「ジュリエザが出てる、修理を急がせたのかな……」

「どういう事だ、乗ってるのはヘルムなのか?」

「囮としてジュリエザが出たのかもね、武器の威力があまり……」

仕方ない。ルインは余所よりもこちらに気を配る事にする。

何体かは倒した。残りは三つほどか。

ソニアが見据えるレーダーに探知されているのは味方の識別が一つ、それの前方に二つの敵性反応。それらがあるのは右手、いや正面か。

ソニアはルインに告げる。

「森の奥に味方が降りてるみたい、敵と交戦してるみたいよ」

「ッつ……」

爆音が森に響く。すぐさまアルグレスは向かう。背の翼を開き、蒼とも宙色とも言える魔力の光で整形された飛膜を発する。刹那、加速し、飛翔する。剣を抜き、森を貫き裂いてゆく。


一体多では分が悪いか。シャノンは残弾に目を配る。 右手の徹甲弾はもう切らしてしまったか。ミサイルも、一度にあの二体を蹴散らせる程には残っていない。大盤振る舞いし過ぎたかと後悔する。ここは。左手首が肘の方へ伸びた 銃口と位置を入れ替え、その穴を目の前にある二体のケステロスへ向ける。標準セット。シャノンが引き金を引く。

銃口からぶつ切りの、桜色に輝く魔力の光弾が無数に放たれる。二体のケステロスは右、左と、別の方向へ移動し回避する。右に銃身を返し、追う。左の方へ行った、ケステロスが後ろから迫ってきた。不意打ちか。目前のケステロスの左手を吹き飛ばした直後だった。

「えっ……」

シャノンは固く目を瞑り歯を食いしばった。しかし、何ともなく、自分は無事、そのようだった。目を開き、何故無事か、それを確認する。

ケステロスが、胸の辺りを剣で後ろから貫かれ、エーテルの血液を流し、静止していた。ケステロスの後ろには、翼を広げた勇者が、紅の眼を光らせていた。

「間に合ったな……」

ルインが呟き、アルグレスはその剣を抜き、眼を向かいのケステロスへと向け、睨む。

片腕を洩がれた兵士が機関銃を握り、発砲。ブロンディスは持ち前の防御力で耐える。アルグレスは天高く飛翔し、回避。鞘へと剣を納め、背中の魔光銃を抜く。相手の銃弾をかわしつつ、落ちる。アルグレスは後ろへ周り、引き金を引いた。

「当たれぇぇぇえっ!」

ルインが叫ぶ。その瞬間に、ケステロスの頭は魔の光で吹き飛び、その場に倒れ込んだ。

ソニアがモニターの確認をし、状況を告げる。

「辺りの敵の反応は消えたみたい、お疲れ様……」

ルイン共々、安堵の表情を見せていた。

「こっちの敵も落とした、後続も撤退したみたいだ」

通信士がルインに、戦闘が終わった事を告げた。

リーテも、続けて朽ちを開く。

「降りるから今すぐ帰還して。そろそろ次の街に着くから、補給をしよう」

了解とルインは返し、着陸すると聞いた森の広間までアルグレスを歩ませた。


「剣突艦相手では分が悪かったかな、やっぱり」

帰投した飛空艇から、レーゼルが降りる。

「聖騎士団長さん、勇者を落とせなかったみたいですね」

嫌味をオーウェンへ飛ばすレーゼル。

「今後は善処する」

オーウェンは、そう返した。

すると基地の方から、私兵団の兵卒が駆けてきた。

「どうしたんだい、君」

レーゼルが目を見開く。息を切らし、兵卒が返す。

「姫が、リオステル姫が、襲ってきた賊軍によって……」

「何!?警備隊は何をしていたんだ!!」

オーウェンが前に出て、襟を掴んで問い質す。

「わ、私にもわかりません……あいつら、警備の穴を上手いこと掻い潜ってきたみたいで……」

「聖騎士団長さん、あまりムキになるのは」

落ち着いた口ぶりであれ、レーゼルも内心焦っていた。犯人の特定なんてちょっと親族を人質に取れば、楽に終わるのは分かっている。枢機卿による支配を快く思っていない宮廷の人間も多かれど、それを超える数の枢機卿私兵団がいる。しかし、警備の穴、宮廷の間取り。レーゼルには、犯人が分かっているようだった。


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