無力な少年
突然のことだった。
『無力な者など、この家にいる資格はない』と、僕は家を追い出された。
元々両親とはうまくいっていなかった。両親だけじゃない。
親戚、友人関係、全てにおいて絶望的だった。
それは僕が無能力者だから。
僕の家はかなり裕福な家庭で、左目能力者の中でもかなりレベルの高い両親の間に、
姉である季京の次に僕は生まれた。この両親の血を受け継ぐ子供ということで、
周囲の期待はとても大きいものだった。
姉はそんな期待通り・・・いや、期待以上の能力を持ってこの世に生まれた。
その能力は計り知れないもので、今や両親以上。それでいて、容姿はとても美しい。いつからか『親』という立場でありながら、
父は姉の顔色を伺っている。その姿は親などという面影を一切感じない。
姉は後継者として完璧だった。だが、一部の『後継者は男の方がいいんじゃない?』という声があり、
僕は生まれた。今思えば、その人達がいなければ僕は今この世にいなかったんだ・・・
まぁでも僕は生まれてこないほうが良かったのかもしれない。無力な僕などこの世界じゃ必要ない存在。
素晴らしい能力の持ち生まれた姉に対し、能力を持たずに生まれてきた僕。
勿論両親の僕に対する態度は姉とは間逆なもので・・・
『お前は要らない』『恥』
両親、特に父親から発せられる冷ややかな言葉はもう慣れっこだ。
どんなに勉強を頑張ったって、どんなにテストで良い点数を取ったって、
家の中でも外でも無力な僕は認めてもらえない、居場所などなかった。
それでも唯一僕を見てくれた人・・・それは姉さんだった。
右目能力者、絶大な能力を持つ『最高能力者』に匹敵するほどの能力を持っているにも関わらず、
無力な僕を見下したりしなかった。僕が何かを頑張れば褒めてくれたし、両親から守ってくれた。
何より、僕にたくさんの愛情をくれた。
『翡翠、能力があるない関係ない。貴方は私の大切な弟よ』
姉さんの優しい言葉は、僕に温もりを与えてくれた。
当たり前にそんな状況、両親が良く思うはずがなかった。
それでも姉に怯えて何も出来なかった両親もとうとう我慢の限界が来たのだろう。
『もう限界だ。無力な者など、この家にいる資格はない。出て行け。』と、僕を追い出した。
『どうしてもこの家に戻りたいと言うのなら、最高能力者7人と契約しろ。そうすれば戻してやる』
とだけ言い捨てて、父は家の扉を閉めた。僕はただただ呆然とするしかなかった。
これからどうすればいいのか分からない。考えれば考えるほど『もう消えてしまいたい』という思いが沸いてきた。
すると、突然閉められたはずの扉が開いた。
開いた扉から現れたのは姉さんだった。
「・・・姉さん?」
姉さんはとても悲しそうな、辛そうな表情をしていた。まるで、自分のせいで僕が追い出されたと、自分を責めているようだった。
『翡翠・・・守ってあげられなくてごめんなさい。』
とても弱弱しい声。姉さんのこんな声は聞いたことなかった。僕はいてもたってもいられず、優しく姉さんを抱き寄せた。
「どうして姉さんが謝るの?僕姉さんにたくさん守ってもらったよ?」
『・・・翡翠・・・』
「姉さんは何も悪くないから。だから泣かないで?それに僕は必ず戻ってくるから」
父は言った。最高能力者7人と契約すれば家に戻してやると。
とても簡単とは言えない、寧ろかなり無理がある条件。それでも、
こんなに僕を大事に思ってくれている姉がいるこの家に戻りたい。僕は強くそう思った。
『季京様!』
屋敷の中で誰かが姉さんを呼んでいる。部屋に姉さんがいないと分かり、執事とメイドは少々慌てているのだろう。
「姉さん、誰かが呼んでいるよ?僕はもう行くから。」
まだ少し悲しそうな表情をしている姉さんを屋敷に戻るようにと促し、僕は行く当てもないまま外の世界に歩き出した。
『翡翠!』
少し歩いたくらいの時に後ろから姉さんが僕を呼んだ。でも僕は振り返らなかった。
ここで振り返ると、先ほどの決意が緩んでしまいそうだったから。そんな僕に姉さんはこう継げた。
『必ず戻ってきて。待ってるから』と。
涙が出そうだった。今すぐにでも振り返り姉さんの元に行きたかった。
でもそんな思いを殺し、僕は歩き続けた。
心の中で、「約束する」と呟いて・・・
それからどれだけの時間が経ったのだろうか。
あれから数時間後、僕は邪犬に囲まれていた。
読んでいただきありがとうございますた
よろしければコメントを