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さて、男は困りました。


『一番大切なもの』と言われても見当がつきません。

自分が大事にしている酒か?

それとも棚の板の間に隠したヘソクリか?

どちらにしても違うような気がします。


「なにを用意しろっていうんだ?」


うんうんといつも使わない頭を捻って考えます。


そしてひとつ、思いつきました。


「そうだ…村長の家にある『アレ』を持ってこよう!」


男が思いついたのは、村長の家にあるもの。

それは、長い月日受け継がれてきた『お宝』でした。

貴重な宝石がつけられたそのお宝こそが一番大切なものと信じた男は、その夜、村長の家に忍び込みました。


村長の家の一番奥…普段は使われていない倉庫のような場所にそのお宝はひっそりと眠っていました。

別段、厳重な保管もされておらず、あっさりとお宝は男の手に収まりました。


「こ、これで…命が助かる…!」


嬉々として、男は家へと急ぎ帰りました。



翌日。

男は家で死神をまだかまだかと待ち構えていました。

その傍らには、昨日村長の家から奪ったお宝があります。

そわそわしながら待っていると、家に近づいてくる足音が聞こえました。



来た…!



そう思った男はお宝を握り締めて待ち構えます。


すると、扉がガラリと開けられました。


そこに立っていたのは、







村長と数人の村人でした。






───バレた…!


男の顔は一気に青ざめていきます。


「やはり貴様だったか…いつかやらかすとは思っていたが!」


普段は優しい村長が怒りに眉を吊り上げて怒鳴りつけました。


「ち、違うんだ!これは死神様が…!」


男は必死に弁解しようと首や腕をちぎれそうなほど振りますが、村長の怒りはおさまりません。


「ええい、黙れ!今までお前をのさばらせていたのがワシの間違いだった!」


村長が持っていた杖をカン!と高く鳴らすと一緒にきていた村人の一人が、スラリと刀を抜きました。

ギラリと光るその刀身に男の顔はさらに青ざめていきます。



「や、やめてくれぇええええええええ!!」



男の願いも虚しく、刀は空を切る音と共に振り下ろされ、男の首が跳ね飛びました。

血しぶきが上がり、飛んだ首がごろりと床に転がります。

尚も首からしぶきを上げながら、男の身体はゆっくりと前のめりに倒れていき、やがて自らが作った血だまりの中で動かなくなりました。


手に持っていたお宝がカラリと音をさせながら男の手から滑り落ち、村長がそれを拾い上げました。



「こやつの始末はあとじゃ。まずはこれを元あった場所に戻さねば」



村長の一言で村人はぞろぞろと男の家を出て行きました。



男の死体は、そのままに。






ややあって。

静かだった男の家の扉がからりと開きました。


まだ新しい血だまりの中で動かなくなっている男を見た死神は小さく息を吐きました。


「やれやれ…やはりわからなかったか…」


言葉とともにフードを取った死神。

そこにあった顔は、








まさしく男のものと同じでした。







そう、死神は、死したあとの男だったのです。



なんとか死ぬ宿命を変えたかった男は死神となって過去の自分のもとに現れたのです。



「『一番大切なもの』…わからなかったのだな…」



寂しそうに告げると男の首を持ち上げ、懇願の顔のままに死した男に語り掛けました。



「『一番大切なもの』…それは…───」













────お前の『命』だったのだよ?───










数時間後、男の死体を埋めるため、村人が家を訪れたとき。



そこには、血だまりもなく、ただ静まりかえった空間だけがあったそうな。

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