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あるところに、小さな小さな村がありました。
村の人は山や街へ働きに出たり、畑の仕事をして日々を生きておりました。
そこに、一人の男がおりました。
男は働きに出るでもなく、畑をいじるでもなく、毎日毎日、ぐうたらに過ごしておりました。
この日も男は朝起きては酒をくらっておりました。
すると、
とんとん…とんとん…
扉を叩く音がします。
「あぁん?誰だ?」
訪ねてくる人の見当がつかずに扉を開けると、そこには黒いマントに黒いフードといういでたちをした人物が立っていました。
フードに顔をすっぽりと覆われてしまっているため、男女の区別もつきません。
「誰だ?あんたは」
「私は死神。お前の命の終わりを告げにきた」
死神と名乗った人物は淡々とした口調で告げました。
その言葉に男の顔は青ざめていきます。
「ひぃいい!勘弁してくれ!俺がなにしたっていうんだ!」
小さく震える男に死神が声をかけます。
「命は等しく終わる。永遠ではない。これは宿命なのだ」
どこかで聞いたことのある声でしたが、男は恐怖のあまりその記憶を探ることができません。
まだ、死にたくない。
そう思った男は死神に尋ねます。
「な、なぁ!なんとか永らえる方法はねぇのか!俺にはまだやりたいことがあるんだよぉ!」
半ば泣きながら尋ねた男に死神は言いました。
「ならば、『一番大切なもの』を持ってきなさい。期限は明日の同じ時刻だ」
静かに告げられた言葉に男は何度も頷きました。
「わ、わかった!一番大切なものだな!」
死神はその言葉にゆっくりと頷くと、男の家を出て行きました。