3-1
これは神が与えたもうた試練であり、奇跡が起こったのだろうか。
いや、それよりも悪魔の仕業だったらどうする……?
神の御業。悪魔の悪戯。
魔女とか下手すれば幽霊とか、いずれにしても御しがたく人知の及ばぬ力だと思うだろう。
理解の範疇を超えた予想だにしない出来事に遭遇すると、人は何となく悪い予感を覚える。
もちろん正常な防御本能の表れだ。
しかしその予感を破ることは案外難しい。時間をかければかけるほど、単なる当て推量は見えない鎧を幾重にも纏い出してその人を覆っていく。
必死に言葉を探してきてそれをリューディアにぶつけると、彼女はこちらが拍子抜けするくらいきょとんとした顔をした。
悪意があるとはとても思えない美しい顔はふとしたときにあどけなさすら滲み出てきて、本当に若い女なのだと実感する。
絵のそれよりも若い。美貌はときに冴えた影をもたらす。パトリシアは自分より年上だと思っていたが、もしかしたら同年かもしれない。
ただし今現在のパトリシアの年齢はわからない。わかりたくもない。
一つだけ酷似しているものがある。
パトリシアは初めて絵を見たときに感じたあの感覚を思い出していた。
リューディアの微笑みは一時ちょっとした騒ぎになるくらいに興奮してみせたそれを除いて、翳りがあってどこか悲しそうで。
蓋を開けてみたら少しずつ差異が見つかっていくなかで、その微笑だけは虚実の別を超えて驚くほど重なっていた。
細く優しげな眉。長い睫に縁取られた大きなまろい目はやや下がり気味で、控えめに通った鼻梁は存在を誇示するものではない。形良く膨らんだ唇は小さく、品のある薄桃をしている。そしていっそ青白いといえるほど透けた肌。
一体何が、彼女をこんなに寂しく魅せているのだろう。
「……りゅでーはまじょ、なの?」
すらすらした物言いを望むよりむしろ直情的な言葉の方がいい。というより幼女の身ではそういう返答しかできない。早くもパトリシアはそれを利用し始めていた。大人であればまず使えない手だ。
リューディアは何も言わない。ただ影のある瞳を困惑に揺らしてひたすらパトリシアを見つめ続けるだけだ。
「つまり、あなたはその……。絵をたくさん見る所で、私が描かれた絵を見て……そうしたらその絵に吸い込まれてしまったと……そういうことなの?」
リューディアは魔女か否かについては、すぐには答えようとしなかった。