4-3
4-1と4-2を飛ばされた方に少しばかり説明しますと、ロリコン糞親父に虐められていたパティーシャをリューディアが助けたのでありました(自覚なし)
マリューヌ領マルド・カルヴァート男爵は死んだ。
詳しい死因は不明だったが、おそらく心臓発作だろうということになった。
マルドの弟であるケインが領地を引き継ぐことになった。
ケインは館内に足を踏み入れるにあたって、そのあまりの頽廃ぶりに度肝を抜かれた。
料理人や召使などはごく僅かしかおらず、あとは年端のいかぬ薄着の少女ばかり。鎖に繋がれた者や、もっと酷いと地下室で裸に剥かれたまま体中鞭跡や切り傷だらけになっている者もいた。奥の穴倉には死体すら捨て置かれていた。
この尋常ならざる風景になんとか吐き気を押しとどめながら、少女たちの当てを見つけてやったりいくばくか金をやったりして外に追い出した。
その際に口止めすることも忘れなかった。これほどの醜状が世に知られてしまえば家は間違いなく取り潰しである。
幸いなことに連れてこられた少女たちにきちんとした身寄りはなく、大抵は孤児院か奴隷市場から買われた者たちだったので大した詮索もされなかった。少女たちが何か言おうとも子供の妄言と思われた。というより思われるようにした。
ケインは巷に流れていた噂を強調し、真であるようにした。
傷だらけの体や、さらには妊娠している少女には舌を切り取ってしまったり無理やり堕ろさせたりもした。
少女たちを片付けると今度は借金が残った。ケインは館と土地の一部を売った。そもそもこんな常軌を逸した館なんぞ、とてもじゃないが住む気にはなれぬ。
そんなごたごたの中、パティーシャは叔父夫婦に引き取られた。
リューディアは本来なら孤児院に入る予定だったのだがパティーシャが頑として譲らず、館にいた少女としては唯一留まることになった。
養女として育てられることになったのである。
二人は本当の姉妹であるかのように、いや姉妹以上に片時も離れず寄り添っていた。
叔父夫婦には二人の子がいたが、長男は騎士見習いとして別の家に奉公に出ていたし、長女は貴族の娘たちと遊び社交デビューに向けてのレッスンやおめかしに忙しい年頃であった。
それでなくとも、心身共に実の父親から傷つけられたパティーシャはリューディアだけに心を開いていた。引き取られて日も浅い頃はリューディア以外の者に近寄られることすらも拒絶した。部屋にこもりがちで笑顔もなく、またあまり話さなかった。
ケインはマルドに比べたらはるかにまともな人間だったが、パティーシャのそういった態度のせいか深くは干渉せず淡々としていた。実子でないからかその妻も同じような接し方だった。つまりは二人とも積極的にパティーシャの心の傷を癒そうと試みることはなかった。
接触を良しとしないパティーシャにはかえってありがたかった。
けれども夜、闇に落ちた空っぽの部屋でひきつけを起こしたり一晩中泣きじゃくったりした。
誰も傍に寄ってほしくないのに、まだまだ幼いゆえに人恋しくてたまらない。眠れば恐ろしい悪夢を見る。その葛藤が全身を苛むようだった。
そんな時、そっと差し出された手がパティーシャの背に回される。
パティーシャはなぜかリューディアの手だけは怖くなかった。
あるいは父親が死んだあの日、虚脱したまま座り込んだ彼女の背をリューディアがずっと撫でていたのを、無意識のうちに肌が覚えているのかもしれない。
リューディアは根気強くパティーシャを抱き締めていた。幼い体でいっぱいにパティーシャを包み、小さな手で髪や背を撫で続ける。するとパティーシャに走った発作は次第に収まり、うなされて泣き喚いていた声も涙もまた止まっていった。
二人は一つの寝台で抱き合って眠った。
部屋は小さいながら一つずつ与えられていたけれど、リューディアはほとんどをパティーシャの部屋で過ごしていた。
リューディアは大人しく、その年頃の子にしては奇妙に見えるほど二人はそろって静かだった。昼となく夜となく静かに寄り添い人形遊びや手遊びをしていた。食事も入浴も二人だけで行った。
言葉に表されなくとも共有する思いが、雰囲気が二人の間にはあった。
そしてそれはしばしば他の者を寄せつけなかった。
そんな関係が数年続き、物心がついてきた時にはパティーシャは自ら殻を破って外界へと飛び出していった。
元来明るく天真爛漫な性質のパティーシャがいつまでも閉じこもったままでいられるはずがなかったのだ。
発作も減っていき、悪夢を見ることはあってもなんとか自力で荒れた心を落ち着かせることができるようなっていた。
それでも二人の関係に隔たりが生じるわけではない。
数は少なくなってきたものの、パティーシャは時折甘えてこっそりリューディアと一緒に寝ていた。
そしてリューディアも拒むことなく応じていた。リューディアは長じても静かな娘だった。




