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異界の姫君  作者: Maverick
2章 アスターヴルムの金獅子
22/52

2-2

「あいたっ!」

 よろけたパトリシアは謝ろうと顔を上げて、再び固まった。火照った体に一気に冷水を浴びせられたようだった。

 ぼろぼろのローブのようなものを着た痩せこけた男が木箱に座っていた。

 何が起こったのかもまるで気づかぬといった様子だったその男は、ようやくのろのろと顔を上げて彼女と視線を合わせる。だが合わない。濁った黒の目はてんでパトリシアのことなど見ておらず、うつろに浮かんでいる。

 しかし思わず後ずさった彼女に触発されたのか、突然大声を上げると骨ばったがさがさの手を伸ばしてパトリシアの腕を掴んでしまった。


 恐怖のあまり喉が詰まる。


 追っていたもののことなど完全に吹き飛び、ただただぎらつき出した男の目とかさぶたまみれの黄ばんだ肌を見た。ローブの中から、わけのわからぬことを叫ぶ男の口から、凄まじい悪臭が溢れる。

 木枝のような手からどこに力があるのか、逃げようにも全く振り解けない。握られた腕は鬱血し始めている。

 男はさらにパトリシアを揺さぶりだした。

 完全に血の気が失せたパトリシアは、心臓を握られたと感じるほどのショックを覚えて身を縮めた。


「その子を放して下さい」


 その声は狂った男の動きを一瞬止めるほど静かな、だが驚くほど冷然としたものだった。

「リュ、リュディ……」

 恐怖が緩んだパトリシアの目からは堪えきれずに大粒の涙が溢れる。

 男の顔はリューディアの方を向いているが、やはり何も見ていないようだ。ただおもちゃを取り上げられると思った子供がそれを頑なに引き寄せるように、パトリシアを掴む腕を強め木箱から立ち上がる。


「聞こえませんでしたか?その子を放して下さいと言ったんです」


 あのいつも優しく温厚なリューディアが完全な無表情でひたと男を見据えながら近づく。帽子は被っていなかった。

 そのために暗く光る双眸がほとんど瞬きもせずに男を射抜いているのがありありとわかる。


 空気が変わったような、そんな感じがした。

 まるでその空間だけに冬の息吹が不意に通り過ぎたかのような。

 時間が宙空で凍りついたみたいに。


 男は唾を飛ばしながらわめき、離れようとする。リューディアはもう確認などしなかった。

 男の隙をついて詰め寄るとその両肩に手を置いた。

 羽をむしられた鳥にも似た耳障りな声を上げた男はめちゃくちゃに腕を振り回しリューディアを引き離そうとする。パトリシアは解放され、すぐにリューディアの後ろに隠れることができた。


 その抵抗は唐突に終わった。


 糸が切れた人形の如く男は崩れ、木箱の上に転がり落ちた。ぴくりともしない。

 リューディアはすぐにパトリシアを抱きしめ、腕のあざ以外どこにも怪我がないことがわかると強張っていた表情は安堵のために緩んでいつもの優しい顔に戻った。

「行きましょう」

 リューディアは振り返らない。一瞥すらせず、パトリシアを抱えるようにして路地裏を後にする。

 まだ状況が上手く飲み込めていないパトリシアだったが、涙はすでに止まっていた。






 元通りの静けさを取り戻した路地裏は、しかし一つの足音によって僅かに乱される。

 男が一人、先ほどの騒ぎの元へと歩み寄り立ち止まった。手には女物の帽子がある。落とし主を追ってきたのだが、これは一体どういうことなのか。

 木箱の上にのびた男に近づき引きずり出した。道に仰向けに横たえ、鼻や首元に手をやる。

 それからあちこち触れて外傷がないことを調べると、少し思案した後いずこへと立ち去ったのだった。










本当は出会いがしらにチンピラ野郎共に絡まれて……というパターンの方がファンタジーにはありがちだし、話の流れ的にも違和感がないのでしょうけど。

なんだガキかよ。でも、まっいいか。

おいおいロリコンかよw

ウホッ!いい女。

よお。そこのねーちゃん、俺らと遊ばねぇ?云々。

を考えるのがすんげーかったるかったんで、ただの狂人にしてしまいました。

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