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町へ行こうとリューディアは言った。
「服を買いましょうね」
そう言うリューディア自身がまるでとっておきの服を買いに行くかのようにはしゃぎ、楽しそうに笑った。
パトリシアとしては今着ている間に合わせで充分だった。ちなみに前の服は食べかすで汚してしまったから、これで二着目だったりする。無論パンツはない。小さな腰巻きを何枚か重ね穿きしているのが下着となる。
季節は初夏の風情で、時おり乾いた風が吹くが陽射しは熱くて強い。この服でちょうどいいのだ。
そんなこともあるから余計に自分から新しい服が欲しいなんて言えない。買ったところでいつまで清潔に保てるか。
そんな内心も、パトリシアの控えめな遠慮の声もどこ吹く風でリューディアは着々と準備を進めていく。
その手がはたと止まった。
「パティは……」
荷で膨らんだ肩掛け鞄を眺めたまま、彼女は振り返らずに言う。
「どこか町に住みたいとか……思ったりする……?」
パトリシアは驚いた。その横顔は髪に隠れて表情が見えない。
先程までの明るい声音が嘘のようにしぼみ、囁きに近いそれはやっとのことで耳に拾えるほど小さいものだった。
「え、どうちて?……どおしてそんなことゆーの?」
椅子に座ってぶらぶらしていた足を下ろし、パトリシアはリューディアに近づこうとした。
すると彼女は弾かれたように顔を上げ、パトリシアから少し離れる。ぎこちない笑みにパトリシアは動けなくなった。
「な、なんでもないの。ただ、その……。ここにいるよりも町にいた方が色々あるし、欲しいものもすぐに手に入れられるから……。あなたには町にいる方が……。ね?ここにいるよりは何かわかるかもしれないじゃない?」
何かわかるとはパトリシアがこの世界に来た所以についてだろう。だが今に限ってはどうでもよかった。
「りゅでいーは?」
「え?」
「るでぃーはどおするの?」
「どうって……私はいつも通り、ここに……」
「あたちを町においといて?」
「……」
パトリシアは息を吸った。それならば町になど行けるわけがなかった。
「……あ!でもまだ町を見てないから、町のこと知らないのは当たり前ね。行って見てからにしましょう」
リューディアに最初ほどではないが明るい雰囲気が戻ってきている。
彼女の名を叫ぼうとしていたのを押し込め、パトリシアは唇を噛んだ。いっそ泣き喚いて駄々をこねようかとも思った。
だが準備しながら浮かべるリューディアの柔らかな微笑みはパトリシアを町に置き去りにするからではなく、当初の目的である服を買うという理由に純粋にたち帰っているためのものだ。だから無理に溜飲を下げず、飲み込んだままにした。
リューディアに限ってそれはあり得ない。でももし、町に置いていかれそうになったら、しがみ付いて腕にかじりついてでも離れないようにしよう。そう思ったのだった。




