第六話
雨。窓の外に無数の線が走っている。天気はあまり気にならないはずだった。それこそゲーム内の天候の方が重要だったのに、今日は外の様子をうかがっていないと落ち着かない。もうすぐ四時限目が終わる。
「お腹減ったし今日はここまでにしよっか」
お茶目な先生がそう言って、雰囲気が緩む。
「一応まだ授業中だから騒ぐなよ。それからチャイムなるまで外出るなよ」
先生は黒板を綺麗にしながら注意する。しかし大人しくする様子は無く、外には出ないものの皆はざわざわと喋り始めていた。雨が止む気配は無い。いつ見ても無表情に大量の水を落としている。相原さんはこんな日にはどうするのだろう。考えるまでもない。自分のクラスで食べるに決まっている。そこで彼女はもしかしたら一人だ。それから、いつもあそこで集合していたあのカップル。彼らはどこで待ち合わせるのか。離れ離れだとしたら、彼らにとって雨は恋の障害だ。窓の向こうで降っている雨はまるで水のカーテンみたいだ。綺麗な印象とは裏腹に、人々の間に割って入る迷惑なカーテン。
会話を気にしないように努めながらサンドイッチを食べる。僕の机を使うはずだったグループはどうするのか、とか気にしない。お菓子は食べないことに決める。サンドイッチとお茶を素早く胃の中に入れ、僕は突っ伏して寝た。
放課後、無数の矢が降ってきたかのようになっている傘立てから自分の傘を引き抜く。
外に出ると下校する人たちの傘が道路を埋めるかのように敷き詰められていた。一つ一つがそれぞれの領域だ。ぶつかっても不快感が生まれる、可視化されたパーソナルスペース。窮屈な世界を歩くのが嫌で、僕は遠回りをした。昼休みの道を歩く。灰色の雲が空を埋めていて、芝生も綺麗な物には見えなくなっている。ベンチはびしょ濡れだった。これでは座れない。タオルを大量に用意してどうにか座ったとしても、傘を持ったままでは食べにくい。雨だったら諦めるしかないというわけだ。こうしていると前みたく相原さんに会えないだろうか、と思ったのだけど、歩いている傘は僕のだけだった。