第三話
コンビニにいる商品たちは文字や色で必死にアピールしているものの喋ってくるわけではない。動けるわけでもなく、ただじっと買ってくれる誰か、自分を選んでくれる人を待ち続けるというのは辛いことなのではないか。もしかしたら捨てられてしまうかもしれない。孤独から逃げ出すために打てる手が無いおにぎりやサンドイッチたち。可哀想だ、と同情しかけて、朝っぱらから食べ物に感情移入するなんて妙なことをしている、と思った。
授業の時間はぼんやりと過ぎていって、昼休みになる。退屈で凍っていた心がどきどきと落ち着かなくなってくる。それを表に出さないように
僕はゆっくりと手を動かして筆箱にシャーペンと消しゴムを入れ、ゆっくりと机の上を整理してから立ち上がった。
あのカップルは今日も元気そうだった。三日目ともなると、変わらずにいちゃついているのを見ると嫉妬ではなく安心が込み上げてくる。そしてその先に相原さんが座っていた。今日も一人。
「相原さん、隣、座ってもいいですか?」
「いいよ」
親しげな感じで許可してくれた。
「竹村君お久しぶり」
頬を綿のようにさせて微笑むので、こちらも笑顔になる。
「久しぶりですね」
一日置いただけなんだけど、という温度の低い言葉は声にならなかった。今日も梅を選んでしまった。もう一つは鮭。どちらから食べようかと迷う。梅は後にしようと決めて、コンビニの袋から鮭の方を出す。すると相原さんが「おにぎり、好きなの?」と聞いてきた。
「むしろ嫌いです」
「え、嘘」
「嘘です」
相原さんは目を尖らせた。無言の非難を受けながら正直に話す。
「なんか習慣になってしまったんですよね。いちいち選ぶのが面倒で、昨日と同じでいいや、ってやってるうちに」
「なるほどね」
会話が途切れる。今度はこちらから聞く番だな、と思って質問を考える。気になること。
「そういやここって、相原さんの場所だったりします?」
相原さんは首を傾げた。
「それってどういうこと?」
「領土というかなんというか。ええと、つまり、一人になるための場所なのかなって」
相原さんはもうお弁当を食べ始めていて、誰かを待っているような様子ではない。僕が外に出たのは、元々そういう場所を探すためだったから、相原さんも一人で落ち着くためにここで食べているのだろうかと思ったのだ。
「まあ、そうではあるね」
そう言う相原さんの手は箸をスムーズに口に運んでいる。穏やかな口元は不満を訴える風ではなかった。
「でもたまには誰かと食べてみようという気分になるからね。だから別に迷惑に思ってるとかそういうことは無いよ」
「それならよかった」
この人も一人ぼっちなのだろうか。安堵しかけた自分を戒める。都合がいいからといって、そんな悲しいことを相手に期待しては駄目だ。
「ではお近付きの印におかず交換などしてみませんか?」
「いいよ。そっちは何があるの?」
そう聞かれて、何も考えないで発言していたことに気付いた。
「これしかありませんでした」
梅のおにぎりを取り出す。相原さんは梅干の乗ったご飯をこちらに見せながら苦笑いした。
「次来る時は色々と買ってきます」
「うん、よろしく」