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隣に座る  作者: 近藤近道
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第一話

 教室で過ごす昼休みは苦手。これなら授業の方がまだいい、なんてことを思ってしまう。さっきまでだらりと整列していた机がグループを作って固まっている。その中で僕の机は一人でぽつんとしている。それに加えて僕の席は教室の真ん中付近にあるため日が当たらなくて、それが憂鬱な気分をそのまま表現しているようで、嫌な気分になる。

 自分の居場所が日なたか日陰かということさえ気になってしまうくらいに沈んでいたからだろうか。外で昼食を食べてみよう、と思った。鞄をできるだけ軽くして、筆箱を置いた机とさよならする。

 あの机を誰も使わなかったらそれは寂しいことだ。そう思いながら校舎から出る。芝生、ベンチ、自動販売機。僕の通っていた小学校や中学校とは違って整った姿をしている。この学校が人間だったらあだ名はお嬢さんになるのではないかと僕は思っている。来客の視線を常に意識しているような雰囲気。教師と学生のためのスペースといった印象は薄い。

 観賞用に近いスペースに置かれたベンチ。そこに座っている生徒は結構いた。談笑している様は絵になっていて、まるで苺の実のようだった。爽やかな青春。そして僕は自分の座る場所を探して蝿のように落ち着けないでいる。

 歩き回るものの、どのベンチにも人が座っていた。困ってしまう。一応座れる場所はあったけれど、見知らぬ人の隣に座らなくてはならない。赤の他人が隣にいる昼食を想像して気が滅入る。それよりかは教室に戻って自分の席で食べる方がまだいいだろう。でもこのまま教室に戻ってしまうのは悲しいことのように思えた。今日は晴れていた。体に当たる日光が気持ちいい。体に付着している不純物が蒸発しているような心地よさから離れてしまうのは勿体無いことのように感じて、僕は来た道を戻りながらベンチに座っている人たちを見る。できれば一人で食べている人の横がいい。探して、見つける。女の子が一人で食べていた。

 接近する。こういうのには慣れていないから、緊張してしまう。そんな自分をどうにかするために気楽な風を装ってから声を掛ける。

「すみません、隣、いいですか?」

 女の子が顔を上げた。僕の顔を見つめて、そのまま軽く会釈してくる。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

 頭を下げて、間に二人くらいなら入れそうな程度に距離を開け、腰掛ける。電車の中のやり取りみたいに。鞄からコンビニで買ってきたおにぎりを出す。梅のを二つ。好きだから買ってしまったが、おにぎりを二つ買うならそれぞれ別の具にしてもよかったかもしれない。でも今朝は二つとも梅にする気分だった。おにぎりをかじる。前を向いて咀嚼する間、横にいる彼女のことが気になったけれど、視線をそちらに向けるのは失礼なような気がして、髪の毛も手も視線に入れないようにしていた。

 それでも一つ食べ終えた頃には視線を前方に固定しているのも辛くなってきて、何か話すことにした。

「あの、僕二年生なんですけど、そちらは?」

 おにぎりを包んでいるフィルムを解体しながら聞く。

「私も二年生」

「あ、そうだったんですか。それはよかった」

「五組なんだけど、そっちは?」

「こっちは二組です」

 左右に分かれたフィルムをコンビニ袋に入れる。彼女はお弁当。煮物を口に入れるところが可愛くて、名前が気になった。

「僕、竹村って言います。よろしく」

「私、相原」

 相原さん。おかっぱと呼べばいいのだろうか。髪型が丸みを帯びたシルエットを作っていた。そして目がぱっちりしている。名前と印象を記憶にしっかり留めておこうとテスト前のように頭を働かせつつおにぎりを口に入れたら、海苔がぱりっと気持ちのいい音を立てた。

「外でお昼にするの初めてなんですけど、いいですね、こういうの。相原さんはいつもここに?」

「毎日ってわけじゃないね。のんびりしてると他の人に取られちゃうし」

「ああ、なるほど」

 こうやって外で食べている人はカップルらしき男女や友達グループばかり。団体一つにつきベンチ一つ。クラスが違うとここで集まるのが都合がいいのだろう。ベンチの数が足りるかどうか。だけど外にいるのは既に座っている人だけだ。

「もうちょっと早い時間に来ると、人がいっぱいいるんですかね」

「ううん、そうでもないかな。この時期だともう縄張り争い終わっちゃってるし」

「じゃああのカップルはいつもあそこでいちゃついてるんですね」

 右手の方に女の子が彼氏にお弁当を食べさせているのが見える。「ああ、あれね」と相原さんが言う。

「いつもあんな感じで、はいあーんってやってたと思うよ。よく飽きないよね」

「青春ですね」

「だね」

 おにぎりはすぐに無くなってしまった。食べ終わったのにこのまま居座っては迷惑だろう。お礼を言って、退散した。まだ話していたかったけれど、直射日光が十分楽しかったという気分にさせてくれた。これから少しずつ暖かくなってくるのだろう。


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