【第23話】
「成美、昨日の仔犬どうした?」
朝、学校に着いた成美に、美鈴が声をかけて来た。
「今朝、散歩させて来た。めちゃ、かわいいよ。今日の帰りにハンズで首輪と鎖買うから付き合ってね。あ、犬小屋どうしよう」
「あんた、電車で犬小屋持って帰る気・・・・」
傍にいた佳代がツッ込んできた。思わず三人共、吹き出すように笑った。
「あれって、ゴールデンレトリバーでしょ」
美鈴が少し得意げに言った。
「へぇ、そうなんだ・・・・じゃぁ、名前はデンにしようか」
「あんた、相変わらず短絡的ね・・・」
佳代が笑いながら言った。
佳代と美鈴は、成美の買い物に付き合った後、結局仔犬見たさに彼女の家まで行った。
東急ハンズで仔犬用の首輪と庭に繋いでおく鎖、それと散歩用のリードを買った。ついでにドックフードの缶詰を買ったが、あまりの重さに三人で代わる代わる持って帰った。
電車の中で、サラリーマンの足に缶詰の入ったハンズの袋がぶつかった時、嫌悪に満ちた目で睨まれたが、女子高生はそんな事では動揺しない。
「あんた、こういう重いものは近所で買いなさいよね」
駅から住宅街に続く道中で、佳代が言った。
「じゃぁ、買う前に言ってよ。あたしだって、こんなにしんどいとは思わなかったし・・・・」
「ねぇねぇ、西友にもドックフード売ってなかったっけ・・・」
美鈴が駅前の西友を、笑いながら指差して言った。
今更それに気付いた成美と佳代は、げんなりと瓜のように首をうな垂れた。
玄関を開けると、仔犬が愛くるしくシッポを振って駆け寄って来た。しかし、玄関に置きっぱなしにしていた靴には、犬の歯型が沢山ついていた。
「あはははは、仕方ないよ。成美、諦めな」
買ったばかりのニューバランスのスニーカーに着いた小さな幾つもの歯型を見つめる成美に向かって、佳代が笑って言った。
買って来たばかりの、エッヂが丸みを帯びた赤色の首輪を仔犬に取り付けた。少しの間、気になる様子で、しきりに首を振っていたが、スグに慣れたようだった。
早速三人は、散歩用のリードを仔犬に着けて、石神井公園内に遊びに出かけた。
公園内に遊びに来ていた子供達が、仔犬の可愛さにつられて、寄って来ては代わる代わるに頭や背中を撫でて行った。
成美はこの二日間、薬を飲んでいない。
仔犬の世話に追われているせいもあったが、薬を飲みたい衝動にまったくかられなくなったのだ。
「成美、犬どうしたんだ?」
その夜、三日ぶりに家に帰って来た父がリビングでテレビを観ていた成美に言った。
「家の前に捨てられてたの」
「捨てられてた?」
「そうよ。だから、あたしが飼うことに決めたの」
「そうか。お父さんも、お母さんも忙しいから、あてにするなよ」
「判ってるよ」
成美は、そう言い放ってリビングを後にすると、冷蔵庫から午後の紅茶を取り出して二階の自分の部屋へ向かった。
(今までだって、あんた達をあてにした事なんかないよ・・・)
成美は二日ぶりにハルシオンとレキソタンを二錠づつ口の中に放り込んで、ベッドの上に身体を投げ出すように寝転んだ。
何時もなら、この苛立ちを打ち消す為に、足首を切っていた事だろう。しかし、何故かそんな気にはならなかった。
おそらく、明日の朝も仔犬と散歩に行きたかった為に、足に傷をつけると言う思いが巡らなかったのだ。
彼女は気持ちを沈めるように、深く呼吸を整えて目を閉じた。
その後、デパスを一錠、追い討ちで口へ入れた。




