【第22話】
「ねぇ、開けてみなよ」
佳代が、成美に言った。
「う、うん・・・」
箱を見つめていた成美が佳代を見返す。
「爆弾だったらどうすんの・・・」
美鈴が心配そうな顔で呟いた。
成美はおずおずと箱に近寄り、とりあえず足の先で恐る恐る軽く蹴ってみた。
ゴズッという鈍い音を立てて、箱が少しズレ動いた。
確かに、中には何かが入っている感触だった。
「どう?」
佳代が訊いた。
「解んない・・・けっこう重いかも・・・」
その時、箱がガタガタと微かに揺れた。
「わっ・・・」
美鈴が成美に抱きついた。
「揺れたよ・・・今」
美鈴が小さく震える声で呟きながら、成美と佳代の顔を見た。
寺澤は、三人のリアクションを見て、思わず吹き出しそうになるのを必死で堪えていた。
「クククク・・・・爆弾なんて、そう簡単に家の前に置かれないって・・・テレビの観過ぎだろう」
「どうするかな」
雪絵は、先行きが気になっていた。
成美達三人の間に、少しの間沈黙の時が流れ、寺澤と雪絵はその様子を静かに見守った。
その時、佳代がしゃがみ込んで、徐にダンボールのふたを一気に開けた。
成美と美鈴は抱き合いながら一瞬強く目を閉じた。
もし、爆弾だったら・・・テレビのドキュメンタリー番組で見たみたいに、手足を吹き飛ばすだけで中途半端に生かすのではなく、どうか確実に命を絶って下さい。
成美は心の中で早口に、そう願った。
「ねぇ、ねぇ、かわいい爆弾だよ」
佳代が二人に言った。
二人は、恐る恐る目を開けると、揃ってダンボールを覗き込み、一斉に声をあげた。
「かわいいー!」
少し震えた仔犬は、愛くるしい瞳を潤ませて、助けを請うように鼻を鳴らして鳴いていた。
「何で・・・何で仔犬がこんな所にいるの」
成美は訳がわからずにはしゃいだ声を出して、仔犬の頭を優しく撫でた。
「ねぇ、獣の臭いって、これだったんじゃないの?」
佳代が、少し冷静な口調で言った。
「でもさ、何でこの仔犬の臭いが、昨日の朝するわけ?」
美鈴も平静を取り戻した。
「んん、もう、そんなのどうでもいいから、この仔、運ぼうよ」
成美は急いで玄関のカギを開けると、ダンボールを抱え上げた佳代と美鈴を家の中に招き入れた。
「ねぇねぇ、成美、この犬飼うの」
「飼うよ。当り前じゃん」
玄関を入っていく少女達の声が、閉まるドアと共にフェードアウトしていった。
「もう、行こうよ」
閉じた玄関を見つめる寺澤に、雪絵が促す。
「ああ」
寺澤も肯いて、公園の反対側に止めた社用車に乗り込むと、会社に戻る為その場を後にした。
「本当に、あの娘、寺澤君の所に来る成美ちゃんとは違うのかしら」
雪絵が助手席で呟いた。
「よく判らないけど・・・・普通の人間なら部屋で消えたりしないだろ」
寺澤は冷静な口調で言った。
夕刻の渋滞の中を、車はゆっくりと走っていた。
退社時刻が迫る慌ただしいひと時。二人はしばらく黙ったまま夕暮れの雑踏を眺めるように視線を揺らしていた。
「ねぇ、今晩ひま?」
突然雪絵が言った。




