表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バニラ  作者: 徳次郎
PR
18/36

【第18話】

 寺澤は顔じゅうを這い回る生暖かい感触で目を覚ました。

 まどろみの中に片足を入れたような薄っすらとした目覚めだった。

 まさか、成美が俺の顔を・・・・

 眠たい目を渋々開けた寺澤の目に飛び込んで来たのは、毛むくじゃらで少し濡れた黒い鼻。

「うわっ」

 彼は反射的にその物体を手で払い除けた。

「キャウン!」

 と、小さく鳴いた。

 キャウン?・・・・

 寺澤が起き上がって見ると、成美が仔犬を抱えて寺澤の横に座っていた。

 やけに汚れてはいるが、ゴールデンレトリバーの仔犬のようだった。

「なんだ? どうしたんだよ、それ」

 寺澤は理由が判らず、頭をかいた。

「捨てられてたの」 

 成美が言った。

「だからって、そんなの拾ってくるなよ」

「だって、かわいそうじゃん」

「ここは、アパートだぞ。犬は飼えないよ」

「だって・・・・」

 成美は少ししょんぼりとして言った。

 寺澤も別に犬が嫌いなわけではない。寧ろ、動物は子供の頃から好きな方だろう。

 ただ、東京のアパート暮らしは、動物との共同生活を許してはくれないのだ。都心の高級マンションならば、ペット可の所もあるが、今の彼がそんな所に住めるはずも無い。

「そう言えば、キミん家はどうなんだ?」

 俯いていた成美が顔を上げて

「一戸建て」

「なんだよ、じゃぁ、持って帰って勝手に飼えよ」

 寺澤はゴロリとベッドに転がった。

「家の人が驚くよ」

「俺だって驚いたよ」

 寺澤は再び起き上がった。

「ねぇ、なんとか本当のあたしに渡して」

「はぁ?」

「本当のあたしならきっと飼うわ。だから、どうにかしてあたしに渡して」

「だって、池袋で会ったキミは、妙に警戒してたぞ」

「そこを、何とかしてさ」

「なんで、俺がそんな事まで。だいたい、なんでお前、俺の所に来るんだよ」

 寺澤は、タバコを咥え火をつけると

「だいたい知らない他人から犬なんて貰わないだろ。この年で新手の痴漢に間違われるのはヤダぜ」

「そんな事言うんなら、獲り付いてやる」

「あぁ? 生霊は獲り付かないだろ」

 そう言われた成美は、少しムッとしたかと思うと、両手で顔を覆って肩を振るわせた。

「おいおい・・・・」

 成美は鼻をすすりながら更に大きく肩を震わせ

「この仔がかわいそう・・・・」

「判ったよ。やりゃあいいんだろ・・・・」

「ほんと?」

 成美が顔を上げると頬は濡れてなかった。

 けろっとした笑顔で「約束よ。絶対よ」

 寺澤は、肩をすくめて大きく溜息をつくと、首をうな垂れた。

「そう考え込まずにさ、ご褒美に、チューしてあげるから」

 そう言って成美は寺澤に顔を近づけたが、彼はさっと身を引いて

「いや、やめておく・・・・」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ