【第15話】
ライブが終了すると、大通りを挟んだ貸し倉庫の一角でパーティーが始まった。
ひたすら大音量で流れるアップテンポな曲とDJ。ユーロビート系からトランスまでレパートリーは様々だった。
終電で帰る予定の成美と佳代は、少し顔を出す程度、と言う事でケンジ達に誘われ、ここまでついて来た。
ライブに来たお客と、パーティーだけが目当ての客が入り乱れて倉庫内は熱気に満ちていた。
成美は、この大音量がひたすら流れる空間に馴染めず、入り口付近でドリンクを口にしていた。
時間は11時を過ぎている。
成美は、薄暗く、工事用の照明を使って極端に陰影を浮かび上がらせる室内お見渡す。
先ほどから、佳代の姿が見えないのだ。携帯に何度も掛けてみたが、出る様子が無い。ケンジのバンドメンバーを探すが、それも見つからなかった。
ライトの光が届かない暗がりでは、抱き合った男女が何人も濃厚なキスをしている。
中には、既に衣服を半分以上脱いでいる女性の姿もあった。
成美はおかしな臭いに気付いた。それは、タバコの臭いでは無い。
嗅いだ事の無い、薬品のようでお香のようだった。
その人影の周りには、微かに届くライトの光に照らされて、黄粉色の煙が漂っているのが見えた。
成美は急に佳代の事が心配になった。
「1人?」
男が近づいて来て成美に声をかけた。
ライダースジャケットに革パンツを履いたその男は、目の焦点が合っていない。
「いいえ、連れが・・・・」
成美はその男に何かを訊いても無駄だと思ったが
「あの、ケンジ知りません?」
大声で話さないと相手に聞こえない。
「なんだ、ケンジの連れ?」
「ええ、友達と一緒なんです」
「ケンジなら外へ出たぜ」
男はろれつの回らない口調で言った。
倉庫の裏には、バンドのバンが何台か停まっていて、疲れた連中がシートにもたれてタバコを吸ったり、酒を飲んだりしている。いいかげん、喧騒に疲れた連中だろうか。
成美はその辺にいるバンド関係者であろう人を捕まえて、手当たり次第に訊いたが、みんなケンジを見ていないと言う。
「また、あれじゃねぇの」
すぐ後にいた男が言った。
「あれって、何ですか?」
成美は直ぐに訊き返した。
「あ、ああ。ん、ん」
男は軽く咳払いをした。
「キミ、ケンジのファンかい?」
「いいえ。友達が、彼の知り合いで、それで今日観に来たんです」
「そうか。アイツのファンならやめた方がいいと思ってさ・・・」
男は金色の短髪を自分の手で撫でながら言った。
「どういう事ですか?」
「あいつら、時々ファンだって言って近づいてくる娘達をマワスっていう噂なんだ」
「マワス・・・・?」
成美はその現実味を帯びた言い方に身震いした。
「おい、あまり関わると・・・・」
金髪の男が、横にいた赤い髪の男に肩を突かれた。
「あたしの友達もまさか・・・」
「通りの向こうの貸し倉庫に行ってみな。でも、一人じゃ危ないぜ。それしか言えない。じゃぁ」
そう言って、金髪の男は赤い髪の男とオンボロのバンに乗り込んだ。
成美は通りの向こうに並ぶ幾つかの倉庫群を見つめた。
あの金髪の男が言った「マワス」と言う言葉がとてもグロテスクに頭の中を駆け巡った。
成美は横断歩道を横切って、通りの向こうに並ぶ倉庫街へ駆け出した。
高速道路の高架下を抜けると、今いた場所よりも大きな倉庫が並んでいる。
成美は人の気配を探して倉庫の前を歩いた。全部で8つの倉庫が並んで奥から番号が振ってある。
その周りには大きなフォークリフトが数台置いてあった。
隣の建物との間は、トラック一台分くらいの幅があり、一つの建物に5つの扉があってそれぞれにも番号がふってある。中で仕切られているようだった。
月明かりと街灯で辺りはそんなに暗くは無かったが、倉庫の間の通路は建物の影で暗黒に包まれていた。
成美は建物の間の路地に足を踏み見入れた。小さな街灯だけが薄暗く点灯している。
本当に、こんな所に佳代がいるのだろうか・・・・
成美はその空虚な景色に、急激な心細さを感じて踏み出す足が震えた。
一端踏み出した足は、自然とスピードを上げ、彼女は足早に路地を通り抜けて倉庫の裏に出ると、隣の路地に入った。
微かな物音で成美は足を止めた。
「四―2」扉には、そう番号が書いてある。
成美は冷たい鉄の扉に耳を当てた。
誰かいる・・・・
「どうせ、少しは期待して来たんだろ」
「大人しくしてれば怪我もしないし、気持ちよくしてやるよ」
何人かの男の声と、何かもがくような、うめくような声が聞こえる。
成美の額から薄っすらと汗が流れた。
彼女は鉄の扉に手を掛けて思い切って横に引いた、
ゴーッと重い音が暗がりに響いた。
中は薄らと明るいが、人影が確認できるだけで、顔や身なりまではよく見えなかった。




