【第1話】
小説を書く場合、特にジャンルを意識しないので「その他」としていますが、青春ファンタジーな作品だと思います。
月の無い夜だった。
東京の夜空は月が無くても真っ暗と言う事は無い。
煌々と照らし出される街の灯が、上空の大気に反射して夜空を明るくするのだ。その代償として、ほとんど星は見えない。
寺澤豊は、新宿落合に住んでいる友達の家の帰り道、青梅街道を車で走っていた。
途中で右折して、石神井公園の横を通って大泉に向かう交差点を通り過ぎた時、ヘッドライトが人影を照らした。
「うわ!」
寺澤はあわててブレーキを踏んだ。
ABSが作動して、ペダルに激しいキックバックが伝わる。
そんなにスピードは出ていなかった為、車は僅かな距離で停止した。
ぶつかった音や衝撃は無かった。が、今見えたはずの人影がいない。
寺澤は、急いでドアを開けると車の外へ出た。
少女が一人、車の前に倒れている。
自分は、轢いてはいないはずだ。
寺澤は少女の傍に近づいて、怪我の具合を見た。
何処かの高校の制服を着ているが、寺澤には、それが何処の学校かは判らなかった。
こんな夜中に・・・・
夜中の1時を過ぎていた。
「おい」
寺澤は、怪我をしている様子がないその少女の身体を、少しだけ揺すってみた。
ぐったりして、反応が無い。
病院へでも運べばよかったのだ。何か病気を抱えている為に倒れたのかもしれない。
しかし、寺澤は自分の車に乗せると、自宅へ連れて行ったしまった。
もう、あとほんの僅かで彼のアパートだったから仕方ないかもしれない。
いったんアパートの前に車を止めて、少女を抱かかえると自分の部屋へ運んで、ベッドの上に寝かせた。
車を駐車場へ入れないといけない為、寺澤は再び部屋を出ようとした。
「う、うん・・・」
小さなうめき声で、寺澤が振り返えると、少女は目をぱちくりとさせながらベッドの上で起き上がっていた。
「ああ、良かった。目が覚めたのか」
寺澤は、ホッとしたようにベッドへ近づいた。
「あなた、誰?ここは、何処?」
「ああ、キミ、いきなり車の前に飛び出したんだ」
「あたし、車に轢かれたの?」
「いや、轢いちゃいないけど、何でか気を失って倒れたんだ」
「それで、さらって来たのね」
少女は少し身を引くようにして言った。
「いや、さらって来た訳じゃないよ。道路に放って置くのもなんだろう」
寺澤は、病院へ連れて行けばよかったのかと、今更思いついた。
「あ、俺、寺澤豊って言うんだ。君は?」
「安二崎成美」
「よかったよ、気がついて。何処も何とも無い?」
成美と名乗った少女は、自分の身体を見回して「ええ、たぶん」
「じゃぁ、家まで送ろうか」
「いい」
「は?」
彼女はベッドの布団に素早く潜り込んで「帰りたくない」
「いや、帰りたくないって・・・」
寺澤は思わず困惑して
「あのさぁ、困るんだけど」
「もう寝る」
彼女は、布団をさらに頭まですっぽりと被ってしまった。
寺澤はそれを見て、しばし唖然とした。
「キミ、家出?」
寺澤は布団を剥ぎ取るべきか迷っていた。
すると、突然今度は
「喉かわいた」
成美が布団を被ったまま言った。
「は?」
「喉かわいた。飲み物ある?」
成美はガバッと、布団をまくって起き上がった。
何て図々しい・・・・最近の娘はこんなもんなのか。
寺澤は仕方なく、キッチンの冷蔵庫から烏龍茶を持って来て成美に渡した。
「とりあえず、俺、車移動してくるから」
なんだか変なのと関わりあってしまった。寺澤は正直、そう思いながら車を駐車場へ移動する為に外へ出た。
東京の明かりを反射した夜空は、月がなくても薄明るかったが、どんよりと敷き詰められた雲からは、細い雨が降り出していた。
寺澤が部屋へ戻ると、成美はすやすやと寝息を立てて寝ていた。
「マジか・・・・」
彼女の顔を覗き込む。
少し茶色い髪、マスカラの着いた睫毛、ピンク色の唇。
寺澤は溜息をついて、ソファにゴロリと横になった。




