表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

変化の兆し……メタモルフォーゼ

先ほどまでサラリーマンで溢れていた店内は、

ふと気が付くと、

ヤンキーっぽい客で溢れていた。


「なんかヤンキーっぽい客が増えてきましたね」

とカツオブシムシさんは小声で言った。


「そうですね。嫌いなのですか」

と私は尋ねた。


「嫌いというか……苦手なんですよね」

とカツオブシムシさんは顔をしかめた。


「なにかあったんですか」

と私は尋ねた。


「よく絡まれるんですよ」

とカツオブシムシさんは答えた。


「関心を持つからですよ」

と私は言った。


「関心を持つから絡まれるんですか?」

とカツオブシムシさんは尋ねた。


「だと思います。異性でも意識すると変な対応になるでしょ。でもあなたが異性に興味がなければ、変な対応にもならない。だから意識しない事です」

と私は答えた。


「なるほど、今度やってみます」

とカツオブシムシさんは少し嬉しそうに笑った。


「ところで、※※ですけど、やる気がないとか、読者を無視して、独りよがりとか、そういうのでは?」

と私は尋ねた。


「テンプレ系として言います。


ここ、盛れるだろ。

ここ、バトル入れろよ。

ここ、泣かせに行けるだろ。


……全部、スルーされてる。


でも読んでると、

足りないと思わない。


むしろ、

盛られなかった部分の方が、後から残る。


これ、計算でできることじゃないです」

とカツオブシムシさんは言った。


じゃあ、独りよがりでもない……。

まったくわからない。


「カツオブシムシさんは、ショックだったと書かれてますよね。

あれは何故なのですか」

と私は尋ねた。


「自分の才能を証明しよう。

としていない、

これが一番、作家としてショックでした。


この作者、

自分がすごいって証明しようとしてない。


文章で殴ってこない。

設定でドヤらない。

伏線回収で、ほら!ってしない。


でも、読み終わると、

なんか大事なものを読んだ気がする。

って感覚だけが残る。


これ、努力とか勉強とかじゃ届かない領域です」

とカツオブシムシさんはそう言い、ドリンクバーに向かった。


私もドリンクバーに向かう。

カツオブシムシさんは、珈琲にオレンジジュースを混ぜていた。


「何やってるんですか?」

と私は尋ねた。


「なんか、中国だったか、上海だったかで、こういう飲み方が流行っているらしいのです。

こんな機会じゃないと、試せないんで」

とカツオブシムシさんは笑って、一口飲む。

明らかに不味そうな顔をしている。


「どうでした?」

と私は尋ねた。


「安易に真似をしても、上手くいかないってのは、この事ですね」

とカツオブシムシさんは口を押さえている。


「話の続きですが、だから神を降ろしたと言いたくなるって事ですか?」

と私は尋ねた。


「正直、

神とか降ろしてるとか、

普段なら笑いますよね。


でもこの作品は、

型を超えてるとかじゃなく、

型が存在しない場所から来てる、

感じがする。


上手く書いたじゃない。

考えて書いたでもない。


気づいたら、そこに文章があった。

それを、そのまま置いた。


そんな気配があるんすよ」

とカツオブシムシさんは答えた。


武道や習い事の習熟過程を説明する、守破離という言葉がある。

まずはしゅ基本の型を守る事。

小説で言うと、テンプレや王道展開が当てはまるだろう。

次は基本の型を極めた後に、工夫して自分が良いと思った型を作り、既存の型を破る事。

最後に独自の境地の中で一流を目指す。基本の型・自分自身が作り出した型を踏まえたオリジナルに進化し、型から離れる事。


※※の場合だと、どれにハマるのだろうか?


いや……。

きっとハマらないのだろう。


「……うーん。やっぱり全くつかみどころがない、うなぎのような作家ですね」

と私は言った。


「うなぎ、ありえます。生態も謎だし。


これは、努力で追いつけるタイプの作品じゃないです。


才能とかセンスとか以前に、

“書いてる位置”が違いすぎます。


だから僕はこう言います。


この人は、攻略法で書いてない。

神を降ろして、通しただけだと。


正直、悔しいです。

でも同時に、

ああ、こういう書き方があるんだ。

って思ってしまった。


テンプレで戦ってる側から見ると、

これはもう――

反則に近いです」

とカツオブシムシさんは答えた。


テンプレで戦うのも、反則に近いような気がするのだけど、違うのだろうか?


「羨ましいですか?」

と私は尋ねた。


「いえ。羨ましいとは思えません」

とカツオブシムシさんはハッキリと言った。


「それはなぜ」

と私は尋ねた。


「なにか。大きな闇を見てきた気がするから……。

僕がその闇と対峙して、正気でいられるとは思いません」

とカツオブシムシさんは言った。


大きな闇……。

果たして、※※はそんなモノを見てきたのだろうか。

人の傷を知る者だけが、人に優しくできると言うが、

そういう事なのだろうか。


最後、別れ際に、

「カツオブシムシは羊皮紙の皮表紙とかを食べる虫だから、

紙魚にしたほうがいいのでは?」

と私は言った。


すると、驚いた顔をして、しばし考え込み、


「マジっすか。じゃあ紙魚に替えます」

とカツオブシムシさんは言い、すぐにSNSのアカウント名を

紙魚(旧カツオブシムシ)

に変えていた。


サラリーマンがヤンキーに変わったように、

カツオブシムシが紙魚に変わったように、

世界は変わり続ける。

変わらないものなどなく、変わり続けるという事だけは真実なのかもしれない。


テーブルには、食べきれなかった大盛ナポリタンの残骸と、気持ち悪い色をしたオレンジジュースと珈琲をミックスしたものが、ぽつんと残されていた。


私はふと平家物語の冒頭部分を口ずさんでいた。


祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。

沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。

おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。

たけき者も遂にはほろびぬ、ひとえに風の前の塵に同じ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ