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吐き気

9月5日

今日は朝から吐き気がする。

昨日コロッケが美味しかったものだから、

10個も大人買いをして、5個食べたら気持ち悪くなった。


私はカプチーノを飲みながら考えた。

シナモンは身体が暖まるから、夏に飲むべきではなかったと。


私は先生に会うまで、作家に対して、理解が進んだと思い込んでいた。

しかしここで、立往生をしてしまった。


やはり理解ができない。

※※は作家ではないのか?

いわば蟹なのに、ハサミのない蟹みたいなものだろ。

作家でありながら、作家として理解してはいけないのだろうか?


それに、芹沢先生の状態論。

あれも一理あるが、そんな事が本当に起こるのだろうか。


ますます、わからない。


私は、次の取材対象者とコンタクトを取った。

相手は20代男性で、いわゆるテンプレ系の作品を書く作家だった。

決めた理由は、同じプラットフォームに出している作家という事と、今回も近いからだ。


男性はSNSでやり取りをすると、HNを出す事を条件に受け入れてくれた。

指定された場所は、男性の住まいの近くの低価格のイタリア料理店だった。


大通りに面したビルの1階にそのイタリア料理店はあった。


SNSでDMを送ると手を振る男性がいた。

アイコンがアニメキャラだったので、アニメキャラが来ると思っていたが、普通の人だった。


「はじめまして。雪峰朱音です。今日は取材を受けていただき、ありがとうございます」

と私は頭を下げる。


「どうも。カツオブシムシです」

とカツオブシムシさんも頭を下げる。


店員がやってきた。

「いらっしゃいませ。ご注文は?」


「僕はナポリタン大盛で、あとドリンクバー」

とカツオブシムシさんは言った。


「じゃあ私もナポリタンで、ドリンクバーで」

と私は言った。


店員は注文をくり返し、確認を取り、戻っていった。


「僕のHN、なんでカツオブシムシなのか気になります?」

とカツオブシムシさんは笑った。


まったく気にならないが、社交辞令として気になる風にしておこうか。

それともネタとして、塩対応にしておこうか。


「いえ、まったく気になりません」

と私は答えた。


「いやぁ。やっぱり気になりますよね。実はね。ほらカツオブシムシって本を食うじゃないですか。だから本で食って行きたいという願いを込めて、カツオブシムシにしたんですよ」

とカツオブシムシさんは頭をかいた。


「ほぅほぅ、なるほど」

と私は相槌を打っておいた。

気にならないと言ったのに、人の話を聞いていないのか?


「それで、僕の新作の話しても良いっすか?」

とカツオブシムシさんは前のめりになった。


私はしばらく考える。


「新作はね。落ちこぼれの少年がトラックにひかれて、異世界転生したら、王族に生まれたんだけど、長男の王子に騙されて、追放されて、そしたら魔族に拾われて、もといた国を滅ぼして、可愛い子たちを全員ハーレムに入れるって話で……」

とカツオブシムシさんは楽しそうに語りだした。


やばい、この話は、長く続きそうだ。

私はとっさに話を切り替える。


「ナポリタン来ましたよ」

と私は言った。


「まじっすね。いただきます」

とカツオブシムシさんはナポリタンを食べだした。


「それで、※※はなんで神を降ろしてるって思ったのですか?」

と私は尋ねた。


「いや。それね。はじめそう言ってる人がいたから、話乗っかっただけなんすよ」

とカツオブシムシさんは笑った。


「じゃあ。読んでないとか?」

と私は尋ねた。


「いや。読みましたよ。真似できるかなって思って」

とカツオブシムシさんは頭をかいた。


真似……。

意味がわからない。


「……で、どうだったんですか?」

と私は尋ねた。

しかしこのナポリタン美味いな。


「……正直、めちゃくちゃ困りました。

これ、どうやって真似すればいいのか分からないからです。


僕は普段、

冒頭でフックを入れて、

属性を立てて、

読者が気持ちよく分かる感情曲線を作って、

伸びる型に合わせて調整する。


そうやって書いています。

それが作家の仕事だと思ってました。


でも、この作品を読んで、

その前提が全部ひっくり返った」

とカツオブシムシさんは言った。


私はナポリタンにタバスコをかける。

タバスコをかけるのは、あんまりだな。

溶けたチーズを絡めたい。


「真似しにくい型という意味ですか?」

と私は尋ねた。


「どう言えばいいんでしょう。

しかしまず、これだけは断言できます。

この作者、

テンプレを知らないわけじゃない。


むしろ、

WEB小説的な構造も、

感情の引き金も、

読者が反応するポイントも、

全部、分かってる人の書き方です。

なのに――

一切、使っていない。


これは初心者じゃない。

ただ、使わない選択をしている。


でも、それが戦略的じゃない、

計算で外してる感じがしないんです」

とカツオブシムシさんは熱を込めて言った。


話に乗っかっただけにしては、ずいぶん分析しているな。

私は感じた。

どうも、ただ軽いだけの作家じゃないのかもしれない。


「カツオブシムシさんは、どんな感じだと?」

と私は尋ねた。


「僕らは常に考えます。


ここで読者がどう感じるか、

ここでブクマが入るか、

感想を書いてもらえるか。


でもこの作品、

読者の存在を前提にしていない。


猫になった妻の話も、

復讐しない復讐者も、

龍宮城の話も、


読者に届けるじゃなくて、

そこにあったものを書いてる感じがする。


これ、創作論的には一番ヤバいやつです」

とカツオブシムシさんは答えた。


なるほど、彼もまた、ノンフィクション的な体温を感じているのだろうか。

……にしても、作家というのは、読者の反応を考えて書いているのか。

私はそんな事を考えていたかな。

まったく考えていない事はないけど、カツオブシムシさんほどは、考えてはいない。


つまり、

読者の反応を考えている順でいうと、


カツオブシムシ>私>※※


という事になるのだろうか?




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