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謎の多い作者

隣の席のグループが、私たちの乾杯=飲み干す意味だの言葉を聞いていたのか、一気コールでわいている。


あぁ嫌だ。帰りたい、そう思った。

私は一気飲みを強要する風潮が大嫌いなのだ。


「私ね。一気飲みを強要する人って大嫌いなの」

と私は少し声を張り上げた。


「そうね。一気飲みを強要する人って、嫌われるよね」

と彼女も笑いながら言った。


「私の知り合いの知り合いが、一気飲みを強要されて、急性アルコール中毒で亡くなったの。

それで飲ませた人も、飲まされた人の家族も、地獄行き。

あんなリスキーなことないわ」

と私は言った。


隣の席がシーンとなっている。


「まぁ今はアルコールハラスメントとかで訴えられるしね。

訴えればいいんじゃない」

と彼女は笑った。


静かになったので、本題に戻ろう。


「まったくテイストが違うって。でも作品が適当なんじゃないの?」

と私は言った。


「それが、構成が結構しっかりしているのよ。

こんなことできるのって」

と彼女は首を傾げた。


「私は雑誌の記者だから、わからないんだけど、そういうのってどうなの?あり得るの」

と私は尋ねた。


「稀にあるらしいのだけど、結構珍しいタイプではあるみたい」

と彼女は答えた。


「それだったら、単に珍しいタイプの作家ってだけなんじゃないの?天才肌とか」

と私は尋ねた。


「それがね。技巧的じゃないのよ」

と彼女は言った。


「技巧的じゃないって?」

と私は尋ねた。


「ほら、数を書く人って、割とテクニックに頼るのよね。その作家はそのテクニックをあまり使わないらしいの」

と彼女は答えた。


「知らないだけなのでは?」

と私は尋ねた。


「いや……、あえて使ってないと思う」

と彼女は言った。


「じゃあ、ひねくれて変化球が好きなだけなのでは」

と私は答えた。


「そうとも言えるけど、変化球が多い作家って、物語が破綻しがちなのだけど、破綻してないのよ」

と彼女は言った。


「セオリーを無視して破綻してない……」

と私は呟いた。


「それが、私の結論ね。

あれは神を降ろしているとしか思えない。

たまにいるらしいの、そういう作家」

と彼女は生中を飲み干した。


「その作家に取材したら良いのでは?」

と私は尋ねた。


「難しいわね」

と彼女は答えた。


「断られるの?」

と私は尋ねた。


「SNSもしないし、取材も基本的には受けない」

と彼女は言った。


「なんで、宣伝になりますよって言えば、のるでしょ」

と私は尋ねた。


「のらないのよ」

と彼女は肩を落とした。


「なんで?」

と私は首を傾げる。


「わからない。

知り合いに聞いたことがある。

こう言われたわ。

あの人は多分、自分が個として知られることに興味がないんだ。

と……」

と彼女は言った。


私は、この作家という人物が、果たして人であるのかどうか、

そのような疑問を感じた。

承認欲求や存在証明、そういったものに興味がない人物がいるのか?

そこに非常に興味を持ったのだった。


しかし、取材は不可能だろう。

どうやって作家を知ればいいのだろうか?


「ではどうやって取材しろと」

と私は尋ねた。


「作家の作品を読む。あとは作家の作品が神降ろしをして書かれたものだと主張する人物に会うことね」

と彼女は答えた。


彼女は、いくつかのSNSアカウントと、作者が投稿しているサイトのURLを教えてくれた。

得られる情報はこれくらいよ。


私たちは、それから3杯ほどビールを飲み、帰宅することにした。


会社から50分ほどの場所にあるペット可のアパートで、私は黒猫のプーと暮らしている。

部屋に酔って帰ると、プーは、私を素通りしてキッチンへ向かう。

そして「ニャー」と言って、食事を要求した。

帰宅が遅くなったことで、どうも不機嫌なようだ。

私はプーの食事を用意し、パソコンで作家の投稿しているサイトを覗いた。

たしかに異常な数だ。

私はいくつか読み始める。

始めのほうは、あまり思わなかったが、たしかに読んでいると、神を降ろして書かれたと言われても、眉唾ではあるが、完全に否定もできない。


私は同僚の丸尾さんに、この作家の作品について聞いてみることにした。

なにかわかるかもしれない。


雪峰「お疲れさまです。ちょっと聞きたいのですが、※※って作家知ってます」

丸尾「あぁ知ってるよ。神を降ろして書いてるんじゃねぇかって噂の作家でしょ」

雪峰「明日話聞かせてもらっていいですか?」

丸尾「いいよ。じゃあ明日飯でも食いながら」


9月1日

私と丸尾さんは、会社近くの中華料理屋に行った。


「へい。いらっしゃい。ご注文は?」

店主が元気よく尋ねる。


「俺はレバニラ炒め定食」

と丸尾さんは答えた。


「じゃあ私は天津飯定食」

と私は答えた。


「はいよ。レバニラ炒め定食一丁、天津飯定食一丁。はい喜んで」

店主は言った。


「それで※※の何を調べるの?」

と丸尾さんは興味深そうに言った。


「何を調べたらいいかも見当もつかなくて、丸尾さんに、とりあえず聞いてみようかなと」

と私は答えた。


「じゃあ、ほとんどゼロ知識か」

と丸尾さんは腕を組んだ。


「そうなんですよ」

と私は頭をかいた。


「俺はこれまで、

・自称・降霊作家

・自動書記を名乗る人

・神託系ポエマー

・前世作家

こういう連中は……、

山ほど見てきたんだわ」

と丸尾さんは言った。


「編集のキャリア長いですもんね」

と私は言った。


「で、だいたい分かるんだよな。

これは演出だなぁ。

これはキャラ作りだなぁ。

これはビジネスってな。


でも、

この作家の作品は、

そのどれにも当てはまらない感じなんだわ。

だからこそ、逆に怖いんだよ」

と丸尾さんは唇をゆがめた。


「なんだか、わからないけど、丸尾さんの勘がそう言ってるみたいな感じですか?」

と私は尋ねた。


ざわついた店内に、束の間の沈黙が流れる。


「いや……、

いくつかあるんだけどな」

と丸尾さんは言った。


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