第5話 死霊魔導師の謹慎生活は波乱含みです。
「ネクロウ様、いっぱい怒られました」
「そう、だな」
「うー、ネクロウ様と中々会えないし、しばらく森に遊びに行けない」
でも森の異変のことを言う前に気付いてくれて調査開始するとか流石父様だ。
森に行けないのはセレスの言う通りだが、会う時間が減る方が俺は辛い。
まあ、セレスは特に森遊びが好きだから辛いだろうな。
でも今回は怒られて当然だった……。色々とやってしまったし。
森にある英霊墓地の鐘を鳴らしまくり、騎士団が出動するはめになったのが一つ。
もう一つは不可抗力とはいえ塔の扉も壊れ、塔前の石畳が所々砕けていたり、ゴブリンで血塗れになっていたため掃除と補修しなければならなかったこと。
シュヴェールト騎士団が駆けつけたのが、ゴブリンの処理を眷属となった死霊騎士団に頼む前で良かったよ。
もし残ってなければそれも追及されていただろうし、ホブゴブリンの存在を伝える手間も省けた。
「十日は長いですよ……」
そう、今回の罰は十日の自室待機、謹慎だ、単純に辛い。
セレスと一緒なら部屋の中で何かしら遊ぶこともできただろうがそれも封じられてしまった。
「うん。こっそり抜け出して会えるといいんだけ……」
「え! 来てくれるのネクロウ様! あ、でも、しばらくはメイド長のお部屋にお泊まりですぅ」
パァと花が咲くように喜んだと思ったら、急激にしぼんだ風船のようにしょぼんとしてしまった。
あの影転移が俺も可能なら誰に知られることもなく会うことだって、それこそメイド長の目を誤魔化すことだってできるじゃないか。
問題解決!
って解決してないよ……セレスにも内緒にしてるじゃん……。
「無理、だよなぁ」
「無理、ですねぇ」
とぼとぼと、なるべく長く一緒にいるためゆっくりと歩いてきたが、ついに俺の部屋に到着してしまった。
「はぁ、セレス、次遊べるのは十日後だね」
「はいぃ」
完全に空気の抜けた風船だ。
「ほら、魔法と剣の修練の時は会えるんだからさ」
そう言い頭を撫でておく。
そこへ音もなく、いきなり背後からメイド長が声をかけてきたんだけど、いつもビビるよこの現れ方……。
「ネクロウ様、お部屋にお入りください。セレスはこの機会にネクロウ様専属メイドとしてのお勉強をするよう当主様より言付かってます」
セレスが専属メイドに? ……気持ち的には少し複雑だな。
貴族の三男と遊び相手の関係だから今まで長い時間一緒にいれたけど、本格的なメイドになったらその時間が少なくなるだろう。
「メイド長様本当ですか! ついに本物の専属メイド! わたし頑張ります!」
セレスは乗り気なようで、しぼんでいたのが嘘のように、その場でぴょんぴょん飛び跳ねている。
ちょっと寂しいが、セレスの希望通りなのか。
拾い屋敷に連れてきた日にメイド服を着て、『ネクロウのメイドになる!』と宣言していたからな。
「それではネクロウ様。失礼いたします」
「あ、ネ、ネクロウ様失礼します」
メイド長は綺麗なカーテシーを決めると、その隣でセレスも見様見真似でスカートをつまんで膝をおった。
ふらついてるけど挨拶ができたからか、満足そうな笑顔で背筋の伸びたメイド長の後についていく。
いつものようにスカートの裾を踏みつけないように持ち上げながらだが。
セレスとメイド長が廊下の角に消えるまで見送ってから、一人きりの部屋に入った。
さて、これから何をしようか。この騒ぎで今日の修練は中止になった。
だから暇なのだ。
寝台に背中からダイブして天井を見上げる。
耳をすませばまったくの無音ではない。
聞き取れないが、誰かの話し声や、鳥のさえずりに風が草木を揺らす音が聞こえる。
よく考えたら静かさを意識したことなかった気がする。
「たまにはこんなこともいいかもな」
だけどセレスのいない時間でやりたいことがある。
「団長さん、いる?」
上半身を起こし、自分の影に向かって話しかける。
これ、知らない人が見たら『大丈夫か?』と心配されるかもな。
だが、予想通り影から鎧騎士が姿を現した。
『お呼びかな主よ』
「うん。森の様子はどうかと気になってね」
カチャカチャと音がなりそうな鎧なのに擦れる音すらせずに腕を組み顎に手をあてる団長さん。
『気になる箇所はいくつかジェイミーとジムから聞いておりますな』
「え? ジェイミーさんにジムさん? あ、そっか、みんな名前あるよね」
そうだな、いくらゴーストになったとしても、生前の名前が無いわけない。
『はい。そういえば名を言っておりませんでしたな。私はデバンと申します』
「デバン団長だね。俺はネクロウよろしくね」
『はっ。先のジェイミーとジムは他の五名を束ねる隊長を拝命しております』
ジェイミーさんとジムさんは隊長さんなんだ。
まだ個人の判別はデバン団長さんしかできないけどね。
「それで、気になる箇所って?」
『そうですな、説明するより見てもらった方が早いでしょう』
「あー、俺、知ってるだろうけど謹慎中で部屋から出られないんだよね」
『承知しておりますが、影転移で行けば問題ないかと。それに、一名この部屋に残しておけば誰か来ればすぐに対応もできるでしょう』
「おお!」
影転移ができるんだと嬉しすぎて思わず大きな声が出てしまった。
口を押さえ、気配を探り、耳をすませても部屋の外には誰もいないようだ。
『主には一つ言っておきましょうか』
「なにかな?」
『私や部下たちとの会話は、魂が繋がりを通して念話でできましょう』
「念話? んーと、テレパシーみたいな感じだろうか……」
試してみるか。
『もしもしネクロウです。デバン団長さん聞こえますか?』
多少電話みたいだがどうだろうか。
『聞こえております主よ。それに念話での会話なら聞き耳を立てられることもないでしょう』
『おお! 成功!』
『では、さっそくですがジェイミーとジムの案内で何ヵ所か回るとしましょう』
デバンがそう言ってすぐに、影から二人の騎士がスルっと出てくる。
よく見ると、三人とも特徴のある鎧に武器だ。
デバン団長さんは重厚な黒鎧に背丈を超えるグレートソードで他の二人は――
『ジェイミーっす。よろしくっす主』
ジェイミーと名乗った人の防具は黒い胸当てだけで、あとは黒いが革製のグローブやブーツに軽装。
武器は腰にクロスして固定されているワンハンドソードのようだ。
あと、『っす』が口癖のようだ。
『ジム。よろしく。ネクロウ様』
ジムさんはシュヴェールトの騎士団も使用しているプレートアーマーだ。黒いけど。
それに武器は腰に武骨なツーハンドソードが装備されている。
うん、三人ともすごく強そうで格好いい。
『うん。ジェイミーさんにジムさん、よろしくね』
二人は頷き答えてくれる
『ふむ。主よ、我らのことは呼び捨てにしてくれまいか。忠誠を誓った主に、敬称を付けられると背が痒くなりましてな』
『えっと、いいのかな? 凄く大先輩だよね?』
三人は揃って頷き返してきた。
『……なら、デバン団長、ジェイミー、ジムと呼ばせてもらうね。さっそくだけど、気になるところがあるそうだけどおおおおっ!』
話を遮られるように影の中に引きずり込まれた俺。
思わず目を閉じてしまっていたが、草木の擦れる音が近くなり、湿った土の匂いが鼻腔をくすぐる。
『え? 湖……あの、ここどこ?』
目を開ければ部屋にいたはずが、一瞬で目の前に広がる湖が目に入った。
居場所ともう一つ聞きたいこともある。
青空が鏡面のような湖面に映る綺麗な湖。
その中央にある小島に遺跡のようなものが建っていて、そのまわりをうろつくモンスターが見えた。
『主、ここはあの森の奥、あの建物はダンジョンの入口ですな』
初っぱなから爆弾を放り込まれ、意識が遠退きそうです。
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本日2話目です。
続きは明日の朝の投稿です。
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