第43話 死霊魔導師は絡まれたので○○します。
「おめでとうございます。規定の依頼数を完了しましたので、みなさんはEランク昇格です」
「やったよー! 見習いFランク卒業だよー!」
俺とヘルヴィの手を握り、真ん中でぴょんぴょん跳び跳ねるセレス。
それを見て和んだ笑みを浮かべる受け付けのお姉さん。
「頑張りましたね、みなさんの年齢で、こんなにも早く見習い卒業は凄く優秀です。すぐにランクアップの手続きを進めますね」
「お願いしまーす」
俺たちの手を持ったまま万歳して答えるセレスが可愛すぎた。
ヘルヴィも繋いでいない手を上げているので、俺もつられて万歳してしまった。
でも、そうなんだ。FからEへはこなした依頼の数で上がると聞いていたから、普通だと思っていた。
でも、Eランクに上がったということは、これで俺たちは正真正銘の冒険者になったということだ。
……やった。予想以上に嬉しすぎる。
「くくっ、ネクロウ、顔がにやけてるぞ」
「にやけもするよねー、だって嬉しいもん」
「そ、そんなににやけてたか?」
二人の指摘に、顔を手のひらで揉みほぐし、にやけ顔を修正しておく。
「お前ら! 用事が終わったならさっさと退きやがれ! 邪魔なんだよ!」
「リーダー、あまり怖がらせちゃ泣いてチビっちまうぞ? てか、ボケっとしてねえで、さっさと退け、女連れで冒険者とか、なめてんのか」
幸せな気持ちが一気に冷める。
声の主に首だけひねり振り向くと、俺たちより少し年上だろうか、俺より頭一つほど背の高い二人組が顔を歪めて立っていた。
二人とも短剣装備か……。
でも、この人たち、こちらを威嚇してくるわりには……今のところ襲ってくる気はなさそうだな。
重心も高いし、近接の一番苦手なヘルヴィでも余裕で勝てそうだし……。
楽しい気分を邪魔されたから、ほんの少~し、気分が悪いけど、相手にするまでもないか。
セレスとヘルヴィも同じことを思ったのか、振り向いていた首を戻して受け付けのお姉さんに向き直る。
「あ、あの、後ろで何か言ってますけど……大丈夫ですか? このお二人は確か【闇騎士団】の……」
闇騎士団がなにか知らないけど、心配そうに受け付けのお姉さんが顔をひきつらせてる。
「大丈夫です。後ろの方も言ってるように、用事が終わってから退きますので」
セレスとヘルヴィも、うんうんと頷いている。
「えっと、そ、そうですね、では、ランクアップ手続きを進めますね」
受け付けのお姉さんが、俺たちの態度に戸惑いながらも、止まっていた手を動かし始めた。
「てめえら! なに無視してんだ! なめてんじゃねえぞ!」
「あー、コイツら完全に俺たちのことなめてるぞ。これはキツいお仕置きが必要だよなぁ」
二人の気配が一歩近づくのがわかったので、セレスとヘルヴィを背中へ隠すように、今度はしっかりと振り向きながら前に出た。
ニヤケ顔で腕を振りかぶる男二人。
左右から迫ってくる二つの拳。
ギルド内に視線を広げる。
状況を見ている者は、よし、たくさんいるな。
冒険者登録した時、ギルドマスターがギルド内での暴力行為は禁止だと言っていた。
例外的に、意味もなく暴力を受けた時、または受けそうな時は反撃してもいいそうだ。
だから、今、この状況なら反撃しても大丈夫だ。と思う。
そんなことを考えていたら、頬に当たる寸前の二つの拳があったので、首を引くだけで避けておく。
鼻の数センチ先で、ゴン、と、拳同士がぶつかる。
絶対痛いやつだ。
最悪指の骨が折れるかもな。
「避けてんじゃ――ぃだぁああ!」
「くそっ! 避けやが――手がぁああああ!」
あの勢いでぶつかったのに無傷か? と、思った時、予想通り二人は殴ろうとした手の手首を掴み、痛みの声を上げる。
握られていた拳の力が抜けたのか、だらりと開いた指が曲がってはいけない方に曲がっていた。
あー、やっぱり折れちゃったか、受け止めた方がよかったかな?
いや、でも、それで手を出したとか言われそうだし、避けて正解だな。
「んぎぃいい! なにしやがんだてめえ! 俺様の骨が折れたじゃねえか!」
「ぐぎぎっ、闇騎士団の俺たちにこんなことしやがって! ただで済むと思うなよ!」
うん、やっぱり避けて正解だった。
ところで闇騎士団か、騎士団と名乗るくらいだからどこかの貴族と繋がってるのか?
それだと少し面倒になりそうだけど、うちは辺境伯。
侯爵以上の貴族じゃなければ大丈夫かな。
「俺は何もしてないだろ? 殴られそうだったから避けはしたけど」
「クソガキはおとなしく殴られてりゃいいんだよ!」
そう言うと、大袈裟に反動を付けて蹴りを放ってきた。
避けるのは簡単そうだが、今度は避けられないか。
って、なにやってくれてるの二人とも……。
背後から覗き込むように俺の体の影から顔を出し、ニヤニヤ笑うヘルヴィ。
しゅっしゅっと風切り音を口で出しながらコンパクトにパンチを繰り出すセレス。
なぜか二人に退路を断たれているのもあり、物理的に避けられない。
絶対この状況を楽しんでるよな……。
そんなわけで、一歩前で蹴りを受けないと被害がおよんでしまう可能性も……ほんの少しあるかもしれない。
毎晩レベル上げに行き始めてすでに半月以上。
俺たちのレベルは、目標の半分以上、すでに30を超えている。
襲ってきた二人はどう見てもレベル20もないだろう。
少し年上と考えるなら、よくてDランク……あれ? そんな低いレベルで騎士団? あ、見習いか。
納得したところで、蹴りを見る。
普通に受けても、少し痛いくらいで済んだかもしれないレベルだ。
まあ、そのまま受けるつもりは当然無い。
なのでこの蹴りには素直にカウンターを――なんてことはしない。
パンチと同じように左右から向かってきた足首を掴んで止めてあげる。
「へ!?」
「は!?」
間抜けな声を上げ、バランスを崩したのか、二人は尻餅をつくように倒れてしまった。
……いや、本当に騎士団で冒険者の先輩なのか?
これくらいで倒れるとか……てか、この後どうしよう。
掴んだままの足をそっと離すと、なぜか襲ってきた二人の顔が、ひきつっていた。
いや、本当にどうすればいいのこれ……。
「何をしているキサマ!」
キサマ、か。キサマ『ら』じゃないから俺に言ったみたいだけど、誰だ?
ギルドの入口に現れた、謎の人物の登場で、俺たちのランクアップはもう少し時間がかかるようだ。
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